童貞のまま好きな娘と同棲したら色々カオスだった part5

2018/02/21

前回の話
マリコに二度と会えない、その考えは杞憂に終わった。
二日後にマリコはひょっこり戻って来たのであった。
だが、俺は二日間ろくに眠れず、そしてろくに食べも出来なかった。
それはヒロさん、係長も少なからず同じだったのかも知れない。
イモトはそんな俺達、いや特に俺だろうな、心配なのか毎日、家に来ていたんだ。
だから、マリコが戻って来た時は泣きそうな位に嬉しかった。
いや、実際に泣いた。
イモトが特に泣いていた。
マリコはいつもの笑顔で「ごめんね~、皆に心配かけて…」と言っていたが
少しやつれている気がした。
そして、ここに来るのも運転手付きの車で来ていた。
俺はマリコに何を言って良いのか分からずにただ、色んな事を聞くイモトを少し羨ましく見ていた。
どうやらマリコは実家に連れ戻される事は無く、今は市内のホテルに母親と一緒に居るとの事だ。
母親はこの家に纏わる雑務をする為にしばらくは市内にとどまるらしい。
「お父さんが、今は海外出張中で、もう帰ってくるから、それから、この家の事を決めるみたい」
「それじゃあ、それまで、今の生活は出来るの?」
イモトの言葉にマリコは首を横に振る
「私は、それまでホテル待機…今日もお母さんにお願いして…話をさせて貰いに来ただけ…」
え…?
うっすら想像は出来たが俺はショックを覚える。
だが俺の人生を変えるショックな話はまだ先に有った…
「皆、ごめんね。
こんな形で終わってしまう事になって…新しい住む所は
皆の希望通りにするように私、頑張るから…」
そう笑って自分の事より俺達を心配するマリコ。
「俺達の事は良い…それより、ナオトには伝えたぞ…お前の事を…」
ヒロさんの一言にマリコはそれだけで理解をした様だった
「アハ…♪バレちゃったか…ナオトには謎めいた女、みたいな感じで居たかったのに…」
マリコは俺をチラリと見て笑った。
俺は何も言えずに下を向く。
何も言えない自分に歯痒さを感じていた。
「ソロソロ…色んな事を話をして欲しいです…」
係長がマリコを見る。
マリコは黙って下を向く。
「マリコさん…私達はマリコさんが心配なんです…マリコさんが言った様に…
私達は家族なんですから…」
係長の言葉にマリコはポン、と自分の頭に手を乗せた。
「ん~…この家のお父さん兼お母さんの係長に言われたらな~…」
マリコは困った様に笑うが少し目に涙が浮かんでいる。
「マリコ…私ら心配なんだって…」
イモトの言葉にマリコは天井を向いた後に…最後に俺を見た。
そして…マ
リコが語り始めた…
「私には…許嫁が…居るんだよね…」
え…?
俺の顔色が変わるのを自分でも理解した。
「あ、なんか今時古風なんだけど…ほら、私、古風な女だから…」
そう言って無理に笑うマリコ。
皆、何物言えない…
いや、言ったのかも知れないけど俺は周りを見えない程にショックを受けていたんだ。
「昔、お父さんの会社がヤバかった時に助けてくれた人の家の跡継ぎの人なんだけどね…
歳も私より十歳位、離れてるんだけど…」
俺はただ下を向いていた
「まあ、結婚も高校出てから5、6年経ってからって話でね。
両親にそれまで大学に行くかって聞かれたんだけど、
特に勉強したい事も無かったし…それより、大学に行く四年間を
代わりに独り暮らしをさせて欲しいって言ったの」
マリコの話す顔を見る事もよく出来ない俺。
「ちょっと…逃げたいってのも…有ったのかもね…」
そう言ってマリコが微かに笑ったのが分かった。
しばらくの沈黙が続き耳がキーンと言う音が響く感覚を打ち破ったのはイモトだった
「で、でも…アンタ、男性恐怖症…」
イモトのその言葉で俺は少し我に返る。
マリコはそれを、聞いて益々無理な笑顔を浮かべた。
そして膝を抱えると黙ったまま下を向いている。
マリコが何かを言い澱んでいる事は理解出来た。
そして、それを言ってしまうと皆がショックを受ける、と言う事も。
それはマリコ自身も言い難い事…
「私の男性恐怖症は…小学生の頃に悪戯されたから…」
マリコはそう言うと俺をチラリと見る。
俺は一体どんな顔をしていたのだろうか?
「二十歳の男の人に悪戯されて…怖くて、凄く怖くて…でも、何も言えなかった
叫び声もあげれなかった…で、結局、吐いたから…それで助かったんだけど」
俺の目がチカチカしていた。
そして変な動悸がする。
「叫び声をあげたら、お父さん、お母さんが困ってしまうから…
その人を拒否したら…お父さん、お母さんが困るから…」
俺は耳を塞ぎたかった。
もう、これ以上に聞きたくなかった。
「その男の人が…私の許嫁の人…」
その言葉を聞いた瞬間に何か周りが遠くなり…
意識を失う感じがした。
全ての景色が嘘の様に感じる…
「ちょっと待って!!!親は??!!親は知ってるのその事を!!!」
イモトの叫びが響く。
マリコは静かに首を横に振った。
「言えないよ…言ったらお父さん、お母さんが悲しむもん…
だから病気の原因は分からないってなってる…」
「言えよ!!!親の心配よりもお前の体の方が大事だろうが!!!」
ヒロさんが怒鳴る。
だが、マリコは首を横に振るばかりだ。
イモトは何かを怒鳴っていた。
ヒロさんは畳を叩いている。
係長は静かに泣いていた。
だが、俺は…ただじっと黙って下を見ていた。
現実感が全く無い。
何がどうなっているのか話は分かるが俺自身の心が理解をしていない様だった。
最後にマリコが照れる様に笑いながら呟いた。
「大丈夫だよ…いつか慣れると思うし…皆、心配してくれて、ありがとう…」
…ヒロさんホントだな。
ヒロさんが言った様によく有る話だな。
でも俺の話の場合は
ヒロさんよりひどいかも…
俺はどうすれば良いんだろ?
その夜、俺は一人で考える。
結局俺はマリコに何も言えないまま、あの場は終わってしまった。
マリコは帰る時も俺達に笑顔で手を振り続けていたのだ。
だけど俺は何も言えなかった。
言うべき言葉がわからなかった。
イモトは泣いていた。
ヒロさんは壁にもたれかかり携帯を弄るともなしに触っていた。
係長は縁側から外をずっと見つめていた。
俺は…俺は、何も出来なかっただけだ。
何も言ってやれなかっただけだった。
後悔する。
マリコに何も言えなかった事を後悔していた。
だけど、俺には何も出来ない。
無力な俺には何も出来ない。
何かを変える力も、財力も、そして行動力もない俺には何も出来ない、そう思った。
…わかっている。
それが言い訳だって言う事は分かっていた。
俺は結局のところ、俺は怖いんだ。
プライドが高い云々言っているが俺は臆病なだけだ。
何かをして…失敗してしまい、傷ついてしまう事を怖がっているだけだったんだ…
毎日がお通夜の様な日々だった。
殆ど皆、何も話す事なく、ただ日々を消化していくだけだった。
この家での残り僅かな日々を…
「ケンジが…一緒に暮らそうって言ってきた…」
ヒロさんが俺にそう言ったのは晩飯の後に部屋に戻ろうとした時だった。
「…良かったじゃないですか…おめでとうございます…」
俺は努めて笑ってそう言った。
ヒロさんは「うん」と小さく頷く。
そして壁にポケットに手を突っ込み壁にもたれた
「…お前は…どうする…?」
そう俺に尋ねる。
「そうっすね…まあ、適当に…どっかの部屋でも見つけますよ」
俺の言葉にヒロさんはじっと俺を見つめる。
「…それだけか…?」
ヒロさんが軽く責める様に呟いた。
分かっている。
そんな事を聞きたかったんじゃ無いことを。
「…まあ、そうっすね…」
適当にはぐらかしてしまう俺。
ヒロさんは何も言わずに下を見つめた後に壁から離れて「分かった」
それだけ呟いて自分の部屋に行った。
その背中は俺を責めていた。
何も行動しない俺を。
誤魔化そうとする俺を。
でも、仕…

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