アカシアの君に
2022/06/19
実家からバス停までの間、毎年初夏になるとなんとも言えない甘い香りに包まれる場所があった。
香りの正体はアカシアという木が咲かせる白い可憐な花だった。
枝には棘があって、近づくのもはばかられるけれど、その香りに魅せられた自分は、その木が好きだった。
学生時代、アカシアの下を通る時に深呼吸するのが常だった。
時は流れて自分は30を過ぎた。
暖かい家族が居て、満ち足りている自分だったのに再び恋をしてしまった。
しばらく行ってなかった、(元)行き着けのスナックに彼女は居た。
初めて出会った瞬間、頭の中が痺れるような感覚。
“チョッキュウ ドマンナカ” これが“ビビビ”ってヤツだろうか?
ポカリのCMに出ていた娘にソックリな彼女。
青い空、マリンブルーの海、真っ白な砂浜をバックに空中ブランコをしているCMではなかったか?
笑った顔がホントによく似ていて、その笑顔に思わず吊り込まれてしまう。
その笑顔が見たくて、いつも以上に饒舌になっていた自分。
“ジブンハ カノジョニ キラワレテハ イナイ” という気持ちも少しずつ芽生えてくる。
お店の扉を開けた自分を見つけた時の彼女の瞳の色だったり、自分と会話する時の仕草だったり、帰り際の寂しいそうな表情だったり・・・。
何度か通っているうちに気心が知れ、自然と二人だけの世界ができる。
『仲間が勝手に盛り上がっているうちに、いつの間にか手を繋いで語っているぞ<自分!』って事になったのは、出会ってからどのぐらい経ってだろうか。
たった二時間程度のワズカナ逢瀬。
会う度に彼女に対する気持ちが大きくなって、自分ではブレーキを掛ける事がままならない。
彼女も同じ気持ちだった事を後で知る。
街から離れた所に住んでいた自分は終電も早く、連れ達よりも先に席を立たなければならない。
いつも彼女が店の外まで見送ってくれた。
酔った頭にイタズラ心がよぎる。
“スッ”と彼女をお姫様だっこする。
ビックリしながらも喜ぶ彼女(後で聞いた話では初めての経験だったとの事)。
そしてもう一段階、イタズラのレベルをUPし、顔を近づけてキスを求める。
思えば、お客への営業として仲良しを装っていたのか、確かめたかったのかもしれない。
『ちょっとやりすぎかな?』とそんな考えが一瞬脳裏をよぎったりして。
が、彼女から熱烈なキスの返答。
からかった自分の方が躊躇するような舌を絡ませてくる濃厚なキス。
『ええっ! こんな可愛い娘が、俺に?』って感じ。
エレベータに乗って別れるのが辛くて、非常階段を歩いて降りる二人。
途中の踊場でもう一度きつく抱擁する。
何を話したのか、会話は要らなかったのか、今となっては覚えていない。
“まずい、こんな所でテントを張ってちゃイカン!”と気持ちを抑えるので必死だったと思う。
気付きもしなかった彼女の情熱と、純情少年になっている自分と、家長としての自覚の無さを責める気持ちがない交ぜになって胸が苦しかった。
ある日、彼女からメールが届く。
『あなたに家族が居るのを分かっていながらも、気持ちを止めることができない』と。
『でも、これ以上進んであなたの家庭を壊す気は無い』と。
『だけど、好き』とも。
“カノジョモ ジブンノ コトヲ オモッテクレテイタンダ!”
自分も、毎日、そして何日も考えた。
堂々巡りの中、導き出した答えは『こんな気持ちを押さえつけたままでは彼女との間も家庭も壊してしまう』という事だった。
自分勝手な屁理屈なのは十分すぎるほど分かっている。
妻と逆の立場ならどうする、って事も何度も考えた。
だけど、彼女にこの思いを伝える事によって開放しなければ、押さえつけくすぶっている火がいつか大爆発してしまうのではないかと思えるぐらい日々鬱屈が溜まっていた。
先に進まなければならないと思った。
現状を打破しなければと。
ある日の夕方、彼女とカラオケボックスに入って長い間話した。
お互いどうして良いのか分からないけれど、好きでたまらないと。
いつしか抱き合い、止まらなくなるキス。
「場所を替えよう」と言うと「ダメ」というつれない返事。
「ダメなのか?」と問うと「分かって」という大人の回答。
でも、自分は気付いていた。
彼女がいつものコロンを付けていない事に。
“カノジョモ、ガマン シテイルンダ”
ボックスを出て右へ行けば帰る方向。
8割方あきらめの気持ちに支配されながらも手を繋ぎ、左に進んでしまう、めげない自分。
抵抗しない彼女。
徐々に街のネオンは薄暗くなって行き、雑踏が遠くなり、二人の靴音が響く。
“空室”というブルーのネオンが目に付き、その一つに入るが彼女は何も言わない。
薄暗いというか、真っ暗に近い部屋に入って初めて「わぁ?、ヤルだけの部屋だね」と彼女がズッコケるような発言をした。
“ダメだ”という気持ちを幾度となく反芻しても止まらない思いと、ここまで来てしまった現状。
それを打ち消すためにあえて冗談めいた事を言ったのだろう。
自分も葛藤を忘れようとして彼女を抱きしめた。
スーツを脱ぎ、初めて二人でベッドの上に横たわる。
短い時間だけど、ベッドの上で彼女に膝枕をしてもらう。
「ついに来ちゃったね」
フロのお湯が溜まる間、キスして耳を甘噛みし、うなじに柔らかく唇を這わせる。
彼女の形の良い口から控えめな吐息が漏れる。
フロから上がり、再び彼女を抱く。
バスタオルをはだけ、小ぶりな胸を愛撫する。
髪を撫ぜ、わき腹から徐々に下がった指先は、彼女の一番デリケートな部分を迂回して内腿をくすぐった後、膝裏まで到達し、膝小僧を回ってヒップラインまで帰ってくる。
彼女の吐息は深くなり、やがて「アッ、アッ」という声に変わってくる。
“アセラナイデ、ユックリ” 自分に言い聞かせる。
自分の体を少し起こそうと彼女の足の間に手を付いた時、手首が彼女のデリケートな部分に触れた。
“!!!・・・スゴク ヌレテイル!”
女性経験が一桁ではない自分だけど、こんなに敏感な女性は始めてだった。
軽く全身を愛撫した後、優しく彼女の秘部に指を持っていくと、扉は閉じているのにジュースは外まで溢れている状態だった。
扉を優しく開き、核心を触れるか触れないかで弄ると、声のトーンが上がる。
少しずつ核心部分に指先を集中すると、ジュースがシーツまで滴っている。
自分は上半身を起こし、片手で核心を弄りながら、もう一方の手の指を彼女自身にゆっくりと挿入していった。
彼女のその部分はトロトロになっていて、ニュルッと指を飲み込む。
指に押されたジュースがシーツに向かって流れ落ちる。
両手の攻撃に彼女のトーンは一段と上がり、「アアッ、アーッ」を繰り返す。
そして、無意識に体がガクガクし始める。
ものの数分ではないだろうか、「イイッ、イッチャウ、イッチャウ、イクーッ」という声と共に、自分の拙い愛撫で彼女は簡単に絶頂に達した。
彼女の呼吸が落ち着くまでしばし休憩する。
そのホテルにはコンドーさんが一つしか置いていなくて、一度ではとても満足できそうにない自分はこれをどう使うえば良いか思案していた。
(案外冷静だったりして)
今度は指ではなく、唇をゆっくりと這わせ徐々に下にさがっていく。
胸からわき腹へ移動し、オヘソをくすぐり、恥丘を越え、彼女の部分へ。
核心を舌ですくい上げながら、指を膣の中へ入れてゆっくりピストン。
Gスポットあたりのザラザラした部分を指の腹で弄っていると彼女はあっけなく昇天する。
“サア、イヨイヨ・・・”
コンドーさんは次回に持ち越しとした。
じかに彼女を知りたかった。
ある程度、自制する事は自信があったので熱が冷めない彼女へ分身をあてがい、ユックリと挿入した。
“ヌルッ”という感覚と共に分身が飲み込まれ、彼女が「アアッ、キモチイイ!」という高い声を発する。
刹那、“ヤバイ!!”と思った。
比較的緩やかな彼女の膣、その入り口部分が生き物のように律動して、やわらかく締めたり弛んだりを繰り返すのだ。
自分はギッチリと締め付けられるよりも、このようなタイプの膣にとっても弱い。
それでなくても、ついに彼女の中に入ってしまったという感動で精神的にMAXになっているのに。
込み上げる射精感を落ち着かせるのに必死だった。
彼女は固まっている自分に「どうして動いてくれないの?」と、吐息交じりの甘い声で聞いてくる。
「ちょっと待って。 感動のあまり、いきなりテンパッテるんだ。」と、情けない自分。
「ついにしちゃったね。」
「うん。」
二言、三言話している間にビックウェーブが去っていった。
始めはゆっくりとした動きで、徐々にスピードを上げていく。
その動きに合わせで彼女の声も高く、早くなっていく。
“この時が永遠であれば良いのに”という感情が頭を満たしているんだけど、本能は止まらない。
頭が真っ白になるような感覚の中、分身を抜いて彼女のお腹に大量に吐精した。
あまりの快楽に自分の口からも思わず声が漏れてしまう。
幸福感に包まれながらも、後始末はしなければ・・・。
彼女のおしりのあたりには大きなシミが広がっていた。
「誰だ、シーツをこんなに濡らしたのは!」と彼女がボケる。
「自分でしょ! 感じやすいんだね?」と自分。
「恥ずかしい、実はキスしただけで濡れちゃうの」と彼女が告白する。
萌えな会話に再びスイッチオン!
我が分身はまた力をミナギラせ、それを見た彼女が手を添えてくる。
色っぽい微笑を浮かべながら体を移動し、自分の股の間に滑り込む。
“カポッ”って感じでフェラをし始める。
“あ、少し強すぎるかな”って思ったのもつかの間、唾液タップリにしゃぶるフェラは自分の経験上でも一位か二位の上手さだった。
“誰が彼女にこんな技を教えたのか”と思わず嫉妬してしまうぐらいの腕前、いや、口前に“このままではまずい”と思い、女性上位になってもらう。
彼女の表情が見えやすいように少しライトの光量を上げる。
「恥ずかしい」と言いながらも、絶妙のグラインドを展開する彼女。
緩く腰を合わせるだけで、感じやすい彼女は軽く行ってくれる。
分身は入ったまま、体制を入れ替えて彼女を下にして、彼女の足をM字に開脚したまま激しくピストンする。
彼女の頭がベッドから外れて綺麗な喉が伸びている。
彼女が頭をガクガク揺らしながら「マタ、イッチャウ?」と昇天する。
自分は絶頂を彼女に合わせる事ができずに、今度は自分自身の快楽のためにスパートを始める。
彼女が息も絶え絶えに言ったのは「アッ、アッ、モウダメ、イッチャウ、コワレチャウ」だったっけ?
「モウダメ、イッチャウ、シンジャウ」だったっけ?
眉間にシワを寄せる切ない表情が、とても綺麗だった。
自分の感情の全てを彼女に向けて吐き出す思いで吐精し、彼女の上に体を重ねた。
二人とも汗だくになり、荒い息をする。
何もかにもが感動に満ちていた。
ホテルの会計で「ワリカンにする」と言って聞かない彼女をとても愛しく感じた。
「重荷にはなりたくないから」と。
帰宅途中の坂道で、自分は懐かしい香りに包まれた。
満月に照らされた林の中でアカシアが咲いていた。
“ヤッパリ アカシア ダッタンダ”
なんだか、彼女とアカシアが重なって思えた。
彼女とはその後、何度か切ない逢瀬を繰り返したけれど、結局別れる事に。
「あなたは暖かい家庭も、私という彼女も持っていてズルイ」
「自由に電話もできないし、会う時間も限られていて辛い」という言葉に
「そうだね」と「ごめん」という単語しか出なかった。
深く傷つけてしまった彼女、家族への後ろめたさ、自分自身のふがいなさにかなり凹んだ。
別れて二年程してから、彼女と会った。
自分の転勤が決まった事を報告したかった。
彼女は新しい彼氏と同棲しているとの事で、幸せそうだった。
「家庭を大切にして、頑張ってね」と言ってくれた彼女に、帰宅する電車の中でメールを打った。
アカシアの君へ
『万感の思いを込めてエールを送ります。
君と、君の住むこの街が大好きでした。
どうか幸せになって下さい。』
それから数年して家族とドライブしていたところ、車内なのに、数百メートル離れた場所から甘い香りが伝わってくる。
「近くにアカシアがあるはずだぞ」と言い、キョロキョロしながら運転していると、やはりアカシアが群生していた。
“アカシアノキミ ハ ドウシテイルカナ?”
そう思ってから、ものの数分後。
なんという偶然か、数年ぶりで彼女からメールが入る。
『アドレス変えてないですか?』
元気にしていますか?
私は元気ですよ』
“ヤッパリ カノジョ ハ アカシアノキミ ダッタンダ”
僕は彼女の完璧な笑顔を思い出していた。