美味しいピザ2
2022/05/26
逢うことが決まってからもメールは続いていた。
なんてことはない日常の話から、エロ話まで、仕事が終わってから寝るまでメールの交換は続いた。
ちなみに俺は普段一切と言っていい程携帯メールを使わない。
それが苦労して絵文字やら写メやら取り混ぜて、一生懸命にRを楽しませようとしていた。
気づいたら、逢う前からRに一定以上の感情を持っていたのかも知れないね。
逢うまでにやることがあった。
とりあえず必要なくなった出会い系サイトは全て退会した。
なんせこの時点で家族が帰るまで3週間しかなかったので、もう他の女の子を見つける余裕もなかった。そして逢う前にそのこと(後3週間しかない)を彼女に伝えたが、「それでもいいよ☆」とのこと。「折角逢うって決めたんだから今更そんなことでやめないよぅ」
そして約束の日がやってきた。
待ち合わせ場所まで車を飛ばしたが、緊張のためか、何度も事故りそうになってそのたびに苦笑いする。
『何をビクついんてんだw』
独り言をいいながらなんとか無事に待ち合わせ場所に到着した。
震える手で到着を知らせるメールを打つ。
それからRがやってくるまでの数分間が、きっと一番どきどきしていたんだと思う。
『どんな人がやってくるんだろう』『あのオバサン?いや、あんなに年じゃない』
『落ち着け俺w。スネークなんか探したっていやしないからw』
そして、彼女はやってきた。
…想像以上に大きい。そうだなあ、モリクミほどじゃないけど、森三中のでかいのよりもうちょっと大きいくらい。
車の中からだったので顔は見えなかった。
やや苦笑しながら、それでも帰ろうとは思わなかった。すぐに車を降りて彼女に近づく。
『初めまして!Tです!』
「は、はじめまして。Rです」
二人でぎこちない挨拶をして車に乗り込む。
顔は写真よりもかわいかった。年齢も感じさせなかった。ノーメイクであったことを最初に謝ってたが、どんでもない厚化粧だったらどうしよう、って思ってたのでちょうどよかった。
でもやっぱり大きい。車に乗ったら助手席が小さく見えた。
ざっと目測で160cmちょい、体重は80後半くらい?
緊張のためか車中での会話はぎこちなかったが、目的地に着くころにはだいぶ落ち着いてきた。
Rも口数は少なかったが、最初堅かった表情が徐々に和らいでいく。
目的地はカップルが集まる浜辺。等間隔に並ぶ2体セットの置物の脇を歩きながら、
『久しぶりに来たけど相変わらずだねここは』
「私も久しぶり」
『じゃあ、僕らも置物になりますかw』
無意識のうちに積極的な俺に少しびっくりしながらも二人で並んで腰掛ける。
互いに改めて自己紹介やら近況やらを語り合う。
そして、彼女がなかなか逢おうと言わなかった理由を話してくれた。
「前にサイトで知り合った人が、写メ交換して、まだ『逢いたい』連呼するんで待ち合わせたら、
そいつ、待ち合わせ場所で目が合った途端にきびすを返して帰りやがったの。
で、メールが来て『自分の想像と違ったから…』って。ふざけてない?」
まあ出会い系なんざそんな男しかおらんのやろうな、と苦笑いしながらも会話は続く。
『そんなひどい奴のことは忘れちゃえばいいよ』
「うん、Tに会ったら忘れたかも」
『俺も逢えてうれしいですよ』
「ありがとう。私もうれしい…」
照れながらそう言って微笑む彼女は、正直すごくかわいく見えちゃったんだ。
一瞬見つめあった後少しの沈黙。
ピザだろうがなんだろうが、魅力的な部分って必ずあるはずで、
彼女はそれを異性(を意識した人)に見せるのが苦手なんだろうな。
人間欠点を探したらどんな美人だってそのうち嫌になる。
そうじゃなくて長所を探してやればいい。
普段埋もれちゃうような目立たない同僚が控えめなイヤリングをしてきたら、
『そのイヤリング似合ってるよ』
って声をかけるだけでいい。そこから恋が始まることもある。
Rの褒めるべきポイントは、笑顔だった。
『やっぱり笑うとかわいいじゃん、写メ見た時から思ってたんだ☆』
そういうと彼女はうれしそうに笑った。
俺は自分の中でスイッチが入ったのを感じた。もうこうなると止まらない。
『廻りは恋人ばっかりですなぁ』
「そうだね」
『じゃあ自分たちも恋人っぽくなりますか?』
「え?いい、、けど?」
抱き寄せる。手が届かない。汗で湿ってる。思わず苦笑する。
Rは拒否するそぶりを見せなかった。
ちょとあごを上げてみる。顔も大きいなあ。
目が合う。唇が近づく。重なる。
口も大きいなあこの子はw。
そして唇が離れる。
Rは恥ずかしそうに顔を背けた。
そして言う。
「ずっと甘えたかったんだ…」
じゃあ、ということで肩を貸してやる。顔が載る。頭をなでてやる。
茶色い髪に少しだけ白いものが見える。でも気にならない。
『好きなだけ甘えてくださいな』
こういって、またキスをした。
やっぱり大きい。
しばらくそうやってすごしていた。
周りからはどんな目で見られるんだろうと、最初は思っていたが
もう人目も気にならなくなっていた。
『じゃあ今日この瞬間はキミが恋人っ!』
「ははは、今だけかいっ!…でも、うれしいかも」
気がつけばもう10時近くなっていたので、車に戻ることにする。
手をつないだ。肉厚の大きい手。安心感があるね。
車に乗って『どうする?』と聞いてみたところ、
「このまま帰るのは寂しいな…」
とのことなので遠回りしてドライブすることに。
楽しく会話をしながら少しずつRの家へと近づいていく。
信号待ちで会話が途切れると、Rを抱き寄せてキスをした。
身を寄せた彼女は「腰が痛いw」とさ。支えるの大変だよねそりゃね。
そしてこのまま右折すれば彼女の家に着くというところで、
「帰りたくないな…」
ぽつりと言う。
今思えば、俺はRを気に入ってたのはもちろんだが、それ以上に
女性として見てあげたかったんだと思う。
充分アナタは魅力的ですよって伝えたかったんだと。
その交差点は左折するとホテル街がある。
少し迷ったが左折レーンにと車を寄せた。そして彼女に聞く。
『この先何があるか知ってる?』
「…うん」
『止めないの?』
「……Tこそいいの?」
『Rがよければ、ね』
「……じゃあ、、止めない☆」
車はホテルにと吸い込まれた。