思い続けた幼馴染みがチャラい先輩と
2018/07/14
僕には、幼稚園の時からの幼馴染みがいる。
どちらかといえば人見知りで、内向的な性格の僕と違い、みなみは活発な女の子だった。
幼稚園の頃などは、私服だと僕が女の子に間違えられて、みなみが男の子に間違えられる事がよくあった。
母親同士も仲が良く、よく4人でテニスをしたり、動物園などに行ったりしていた。
男と女の幼馴染みだと、ある時期から急に意識して、お互いに避けるようになったりするらしいが、みなみと僕はそんな事もなく仲良しだった。
不思議な縁で、小学校の時は6年間同じクラスで、周りからは夫婦とからかわれたりしていたが、活発で勝ち気なみなみは、そんな事を言う男子をやり込めたりしていた。
内向的で本ばかり読んでいる僕が、他のパワー系の男子にいじめられていると、みなみがよく助けてくれた。
情けない話だけど、それが当たり前のようになっていた。
そんなみなみに、僕はずっと恋心を持っていたが、関係が壊れるのがイヤでなにもアクションを起こさなかった。
多分みなみも、僕に恋心を持ってくれていたのだと思うが、普段活発で勝ち気な彼女も、こういう恋愛がらみは苦手みたいで、なにもアクションは起こさなかった。
でも、いつも学校から一緒に帰り、休みの日はよく二人で遊びに出かけた。
一度だけ、5年生の時にみなみがバレンタインデーにチョコをくれた事があった。
いつもは、まぶしいくらいの笑顔の彼女が、妙に真面目な顔でチョコを渡してきた。
今思えば、彼女は僕に何か伝えようとしていたと思う。
それなのに、いつもと違いすぎる彼女の仕草に、僕は爆笑してしまった。
プロポーズ大作戦の山ピーみたいに、この時に戻りたいと強く思う僕は、もう大学2年生だ。
そんな事を200%の集中力で考えていた僕の頬を、指がツンツンと突いた。
慌てて横を見ると、ニヤニヤした顔のみなみが、
『なに考えてたの? どうせ、ほのかちゃんの事考えてたんでしょw あのミニスカート、ずっと見てたもんねw』
講義中なので小声だが、みなみがからかうように言う。
ほのかちゃんは、サークルに新しく入ってきた1年で、とにかく足が長く、本人もそれをよく理解しているようで、ミニスカートばかりはいている。
パンツが見えた事は、2度や3度ではきかないくらいだ。
確かに、ほのかちゃんのミニスカートは気になるが、僕はみなみの事しか見えていない。
結局、あのバレンタインの時のチャンスを最後に、ずっとただの幼馴染みの関係だ。
中学も同じ、高校も同じ、大学まで同じで、サークルも一緒のサークルだ。
筋金入の幼馴染みだと思う。
お互いの両親は、僕とみなみが結婚するものだと決めつけているフシがある。
だけど、僕はみなみと付き合いたいし、結婚もしたいと思っているが、みなみは本当に気持ちが読めない。
相変わらず二人でデートっぽい事はするが、キスはおろか、手も握った事がない。
僕は、もちろんただ手をこまねいていたわけではなく、みなみが惚れるような男になる努力はし続けた。
みなみが格好いいと言ったというだけの理由で、中学高校と6年間サッカーに打ち込んで、レギュラーとして県大会で優勝した事もある。
内向的な性格も直して、かなり活発になった。
明るく、クラスでも中心メンバーという感じになった。
その結果、女子に告白される事も何度もあったが、すべて断り続けた。
ホモだという噂が立ったくらいだ。
だけど、仲の良い連中は、僕とみなみが付き合っているから断っていると理解していたようだ。
実際には、なりたくても恋人関係になれなかった6年間だった。
大学に入ったとき、僕は誓った。
必ずみなみと付き合い始めると。
でも、1年経ってもダメで、もう2年になってしまった……。
講義が終わり、ヒマだからサークルの部室に行こうとすると、みなみが後ろから、
『たっちゃん、この後ヒマでしょ? ちょっと付き合ってよ!』
と声をかけてきた。
僕の返事もきかず、手を握って引っ張っていく。
どうしてこんな簡単な事が、僕には出来ないのだろう? 二人で遊びに行ったとき、二人で学校から帰るとき、ただ手を握るだけが僕には出来ない……。
みなみは僕を連れ出して、電車に乗った。
「どこ行くの?」
僕が聞くと、
『え? 黙ってついてきなってw』
と、ニヤニヤしながら言う。
昔から、ちょっと勝ち気というか、男勝りなところがあるが、僕と一緒だとそれが顕著だ。
言葉遣いまで、僕に対しては少し男っぽい。
でも、それは僕に対してだけなので、僕だけ特別という気持ちになり、ちょと嬉しかったりもする。
一緒に電車に乗っていると、カップルに見えるのだろうか? そんな事が気になる。
僕は、みなみが選んでくれる服等を着るし、みなみがこうしたらいいというアドバイスを聞いて髪を切る。
そのおかげで、けっこう雰囲気イケメンだと思う。
顔も、自分ではわからないが、たまに女子に告られるので、そんなには悪くないのかも知れない。
そしてみなみは、幼馴染み補正を抜きにしても、かなり可愛いと思う。
ショートカットで、ちょっと男っぽいというか、活発な感じなので、可愛いという言葉は違うのかも知れないが、やはり可愛いという言葉しか思いつかない。
堀北真希とかを、もう少し柔らかくした感じだ。
こんなに可愛いのに、僕と同じで今まで彼氏が出来た事がない。
僕は、それはみな実も僕の事を好きだからだと、ポジティブに考えている。
実際、僕から告白すれば、断られる事はまずないと思っている。
でも、10年以上、いや、15年近く一緒にいるので、逆にその勇気が持てないのかも知れない。
万が一にも、みなみと気まずくなるのは避けたいという気持ちが勝ってしまうのだと思う。
『またボォーッとして! そんなだと、また電柱にぶつかるよw』
みなみは、どこか楽しそうに言う。
昔から妄想癖というか、考え事をしながら歩く事が多かったので、みなみの前で電柱にぶつかった事が2?3度ある。
幼馴染みなので、昔の失敗を色々と知られているのが気恥ずかしいが、こうやって昔の話で盛り上がれるのは、幼馴染みならではだと思う。
「いつまでそれ言うんだよw もうぶつからないってw」
『え? 一生言うに決まってるじゃんw ずっとずっと笑ってあげるw』
「なんだよ? みなみだって、色々あるだろ? ほら、給食の時、よく牛乳吹き出してたじゃんw」
『アレはたっちゃんが変顔するからでしょ!? そう、今のその変顔w』
「してねーし。変顔じゃないしw」
こんな感じで、いつもぶつかっている感じだが、僕らはコレが普通だし、楽しいと思っている。
サークルでも、夫婦漫才とか言われるが、自然とこうなってしまう。
そして、目的の服屋さんに入った。
二人でよく来る店で、いわゆるセレクトショップなので、メンズもレディースも両方ある。
僕が着ている服は、ほとんどすべてみなみのチョイスだ。
そして、みなみも僕にどっちが良いかとか、よく聞いてくる。
と言っても、僕の意見は採用されない事も多いが、みなみと二人で買い物をするのは本当に楽しい。
またみなみの服選びかな? と思っていると、夏に向けてのシャツを色々と僕にあてがってくる。
「俺のなの? みなみの服選びかと思ってたよ」
『もちろん、私のも選ぶよw でも、たっちゃんのが先w』
言われるままに色々と試着をして、自分ではまず選ばないような、おしゃれな感じのシャツを選んだ。
そして、それを店員さんに預けて、みなみの服選びを始めようとしたら、みなみはそのまま会計をした。
いつも、みなみに服を選んでもらうが、支払は自分でしていたので、慌ててみなみに、
「いやいや、払うって!」
と言ったが、いいのいいのと言いながら、会計を済ませて店を出た。
そして店を出ると、袋を僕に渡しながら、
『はい、コレでもう買いに行かなくて良いでしょ?』
「え? え? なんだっけ?」
『いや、だから、ほのかちゃんと買いに行かなくても良いでしょ? 買い物なんかに付き合わせたら、ほのかちゃん可哀想だし……』
「あ、あぁ、アレか……あんなの冗談だって!」
『どっちでも良いよ。二人で買い物なんか行ったら、変な噂立っちゃうよ』
やっと理解した。
この前、部室で服の話しになって、ほのかちゃんと少し盛り上がった。
そして、今度一緒に買いに行こうって話をした。
深く考えずに、適当に言っただけで、それほど本気ではなかった。
みなみは、その話を盗み聞きしていた上に、それを止めさせるためにこんな事をした……。
僕は、猛烈に嬉しくなった。
でも、長年のクセで、
「なんだよw 焼き餅焼いてたんだw みなみも可愛いところあるんだw」
と言ってしまった。
なぜここで、
「行くわけないじゃん。服買うのなんて、みなみとしか行くわけないじゃん」
と言えなかったんだろう……こんな事を、もう15年以上繰り返している気がする。
『う、うっさいわ。せっかく入った新入会員が、アンタに変な事されて止めたらたまんないからね! ほら、行くよっ!』
みなみは、少しだけ頬を赤くして早足で歩き始めた。
この後は、少し歩いてシュラスコを食べに行くのがパターンだ。
みなみは、性格そのものの肉食が好きな女子なので、食べに行くのは肉ばかりだ。
案の定、いつものブラジリアンレストランに着いた。
そして、バクバク食べながら、また昔の話で盛り上がった。
こんなに近いのに、どうしても最後の一線を越えられないのがもどかしい……。
そしてその後は、ビリーヤードをして、ダーツをして、カラオケをして帰った。
ここだけ見ると、完全に彼氏彼女の関係だと思う。
でも、違う……。
そんな日々が過ぎていき、夏休みになった。
と言っても、なんだかんだで大学に…