真夏の夜の夢[6]
2018/03/01
「違うよ。吉伸のパスが高すぎたの」
晩御飯はカツカレーだった。
いつもと同じように食卓ではマサルの甲高い声が響き渡る。
ミサキは器用
にもその会話に交ざることができるのだが、私は計画のことで気が気でない。
ひたすらスプーンを皿と
口の間を往復させる。
「なんだ、ユー姉しゃべんないな。彼氏にでもふられたか?」、マサルはこれでもかというくらいにカ
ツを口に含み、もごもごと言った。
ちなみに私は「ユー姉」と呼ばれている。
「うるさいわね、テレビ見てるのよ、テレビ」、私は咄嗟の事に点いてもいないテレビを見ているなど
という馬鹿げたことを言ってしまった。
「テレビ点いてないわよ」、母が言った。
「やっぱユー姉はふられたんだよ。かわいそー」、マサルはきゃっきゃと笑いながら言った。
このやろ
う、覚えていろよ……。
私は何か吹っ切れた気がした。
「あんまり調子に乗ってると、あんたの風呂覗くよ」、私は言った。
言ってやった。
一瞬のことである
がミサキが私をちらりと見たのに気がついた。
マサルは米を喉に詰まらせたのかゴホッ、ゴホッとむせ
た。
「ほら、そんなにふざけているからよ。
三人とも早くご飯たべてさっさとお風呂にはいってしまいなさ
い」、母はそういうと立ち上がり、自分の皿を持って台所の方へ歩いて行った。
マサルは居間を出る前に「覗くなよ!」と私に言った。
私は「はいはい」と今度は本当にテレビを見な
がら無関心を装った。
「おねえちゃん、さっきのはやばかったよ。感づかれちゃうじゃん」、ミサキは声をひそめ言った。
「ごめん、ごめん。まあ、とにかくあとはあれを飲ませるだけね。ホントにミサキ大丈夫?」
「まかせなさい。オレンジジュースに混ぜてマサルに飲ませるだけでしょ。楽勝よ」、ミサキは腰に両
手を当て言った。
ミサキの顔はこれからの期待に満ちた満面の笑みを浮かべていた。
それにしても、マ
サルのあの動揺ぶりはやっぱり気になるわね。