夢鬼
2018/02/22
「ねー、夢鬼って知ってる?」この一言から全てが始まった。
その当時、俺はまだ小学5年生。
元気のいい、普通の男の子だった。
いつものように、放課後の教室で仲の良い友達としゃべっていた。
友達を仮にA、B、C、D、E、Fとする。
男はA、B、Cと俺の4人。
女はD、E、Fの3人。
いつもこの7人で遊んでいた。
他愛のない話を皆でしていると、急にDが口を挟んだ。
「ねー、夢鬼って知ってる?」その瞬間、皆の顔から笑顔が消える・・・「夢鬼って・・・あの怖い話のやつだろ」
「皆、知ってるよ。よく小さい時に悪いことをしたらお母さんに、夢鬼さんが来るぞって怒られたもん。」
「うんうん、俺の家もそうだった。」夢鬼・・・夢鬼というのは俺の地域に伝わる怖い話。
だが実態は何も分からない。
ただ夢の中に、怖い鬼が出てくるという事だけしか聞かされていなかった。
それだけでも小さい時は、恐怖を感じていた。
「その夢鬼がどうしたの?」EがDに質問をする。
いや、Eが言わなくても俺が言っていただろう。
何故ならば、夢鬼というのは俺達子供にとって恐怖でしかない。
怖い話をする時でもまず、夢鬼という言葉は出てこない。
夢鬼という言葉を言うだけで親にひどく怒られる。
子供が口にしてはいけない事のようだった。
だから何故急にDが夢鬼と口にしたのかが気になった。
「夢鬼が何なのかが分かったんだ。」Dはそう言うと得意げに、一枚の紙と一枚の写真を皆の前に出した。
その紙と写真はひどく汚れていて、最近の物じゃないことがすぐに分かった。
「その紙は何だ?」当然のようにAがDに聞く。
「これは夢鬼について書かれている紙。前に図書館に行ったときに、本の間に挟まってたんだ。この写真と一緒にね」Dはその紙と写真を図書館で見つけたらしい。
俺たちの地域は大きく分けて3つに分かれている。
そしてその3つの地域の中心にこの図書館はある。
図書館はこの一つしかない。
なので、対外の本はそこで皆借りている。
Dは読書好きだったからよくその図書館に通っていた。
そしてその紙を指差しながら、Dは説明を始めた。
「まず夢鬼っていうのは夢の中で鬼ごっこをする事なんだって。
鬼は最初から夢の中に居て、その鬼に捕まらないように皆で逃げる。
そして捕まった人が次の鬼になる。
それを最後の一人になるまで続けるんだって。
」皆が思わず吹き出す。
「夢の中で皆で鬼ごっこ?」
「そんなの普通に考えて無理だろ。」
「夢は一人でしか見れないんだし。」予想していたものよりもあまりに違ったため、皆しばらく笑いが止まらなかった。
夢鬼の正体ってただの鬼ごっこなのかよ。
なんでそんなものに今まで恐怖を感じてたんだ・・・
なんだか馬鹿馬鹿しくなってきたな。
「そんな事言うなら実際やってみようよ。」Dは少し怒った口調で言った。
「やるって言ったってさ。どうやるんだよ。皆で同じ夢なんて見れないだろ。」Bが口を挟んだが、そんなことは関係ないと言わんばかりに、Dが説明を続けた。
「ちゃんと最後まで話を聞いて。
ちゃんとした手順を行えば出来るんだよ。
ほら、この紙に書いてあるでしょ?」そう言って紙に書いてある手順を読み始めた・・・1、鬼ごっこをする場所を決める。
2、決めた場所を特定できるものを用意する。
(住所が書かれている物や、写真などでも構わない。様は特定できれば良い)3、その特定できる物を参加者全員に配る。
4、その裏に自分の名前を書く。
(簡単に消えないような物で書く。絶対に自分の名前は自分で書かなければならない)5、深夜12時にそれを枕の下に敷き、「夢鬼さん、夢鬼さん、私と鬼ごっこをしてください。」
と唱えて目を閉じる。
書かれていたのはこれだけだった。
「へー以外に簡単なんだな。もっと難しい事をするんだと思ってた。」Cが興味を持った様に口を挟んだ。
「でしょ、簡単でしょ?これなら私たちにも出来そうじゃない。面白そうだからやってみようよ。」Dが笑顔で言う。
「でもさ、皆でやるんだろ?途中で怖くなってやらない奴とかいるんじゃね?
寝る時なんて皆自分の家に居るんだし。
やるからには皆でやらないと面白くないじゃん。
」Aが俺は怖くないぜと言わんばかりの口調で話した。
「だから私に考えがあるの。」と、Dが答える。
「来週学校でお泊り会の行事があるじゃない。その日に皆でやろうよ。それなら卑怯な事はできないよ。皆居るんだし。それなら文句はないでしょ?」そう、俺たちの小学校には小学校5年生になるとお泊り会という行事がある。
それは皆でご飯を作ったり、レクレーションをしたり、夜にはグランドでキャンプファイヤーなどもやる。
5年生になってからの一番楽しみな行事の一つだ。
「それなら文句はないな。よし、やってみようぜ。面白そうだ。」初めて皆で一緒に過す夜。
その夜にあの夢鬼をやる。
それだけで俺は楽しみで仕方なかった。
「じゃあ決まりだね。
場所はこの学校でいいよね。
この写真に写っているのも学校だし。
私が写真を撮って皆に焼きまわしするね。
」Dは笑顔で準備係りを買って出た。
その時今まで口を出さなかったFが口を出した。
「この写真に写ってる学校って隣町の中学校だよね?私見たことあるから。」そうだ、確かに隣町の中学校だった。
俺もその中学校は何度か見たことがあるから間違いない。
そしてその写真の裏を見たら・・・「あ、名前が書いてある。」その写真の裏にはちゃんと名前が書かれていた。
という事はこの紙と写真の持ち主は、以前に夢鬼をやったという事か。
「これは本当に楽しみだな。当日ちゃんと皆来いよ。あとD、写真は親にバレないようにしろよ。」AがニヤニヤしながらDに言う。
「分かってるよ。
もしかしたら親は夢鬼の正体を知っているかも知れないしね。
大丈夫、ちゃんと見つからないようにするから。
」Dは自信満々に答えた。
それから俺達は、早くお泊り会の日が来ないかと待ちわびていた。
そしてついにお泊り会の日がやってきた。
皆同じクラスだったため、寝る所は皆一緒だった。
男と女が一緒に寝るのはどうかと思うが、まだ小学生だ。
変なことはまず起こらないだろう。
そして寝る時間になり、12時前に俺たちは皆を起こさないように、静かにDの布団に集まった。
「これから夢鬼をやります。はい、まず写真。ちゃんと裏に自分の名前を書いてね。」俺たち7人はDに言われた通り、自分の名前を油性マジックで写真の裏に書いた。
そしてそれを自分の枕の下に敷く。
そして12時に。
この時俺はこれから起こる本当の恐怖などまだ知らなかった。
ただの好奇心だけだった。
皆一斉にあの言葉を唱える。
「夢鬼さん、夢鬼さん、私と鬼ごっこをしてください。」そう唱え皆、目を閉じた。
ついにあの夢鬼が始まった。
「ここはどこだ?やけに暗いな…あ!」ズボッ…俺は不意に冷たい何かに片足を突っ込んだ。
和式のトイレだった。
「うわーきたねー、最悪だよ。とりあえずここから出よう。」俺はトイレのドアを開き、外へでる。
そのさきは廊下だった。
そのトイレの扉の上にはには男子トイレと書かれていた。
この景色、見覚えがある。
俺達の学校だ。
俺達は夢鬼をやることに成功したんだ。
でも何でだ?灯りが無さ過ぎる。
そして静か過ぎる夜の学校ってこんなに暗くて静かなのか…それよりも皆はどこにいるんだ?そんな事を思いながら、夜の学校の中を進んだ。
カツン、カツン。
その時、階段から誰かの足音が聞こえた。
「だ、誰だ!」俺はビビりながら声をかける。
「よかったー、私1人じゃなかったんだ。」そう言ってきたのはEだった。
俺「他の奴には会ったか?」E「いや、○○(俺の名前)が初めて。
本当にこれ夢の中なのかな…なんか凄い怖いんだけど…」俺「夢にしては凄いリアルだよな…でもいつもの学校と雰囲気が違い過ぎる。
そうだ、お前最初どこにいた?俺はあそこの男子トイレだった。
」E「私は2階の廊下からだったよ。そして階段を降りてきたら○○が居たの。」どうやら皆スタート時は別々の所かららしい。
ということは他の奴等もどこかにはいると言う事か。
俺「まず皆を探そう。そして鬼がいるかもしれないから静かにな。」E「うん、わかった。でも○○、さっきでかい声出してたよ。」俺「………」まあいい、これからは静かにだ。
さっきの声で誰か気付いたかもしれないしな。
俺とEは静かに進んだ。
内心ビビっていた。
本当にあの夢鬼をやっている。
正直怖い…今更ながら後悔もしていた。
でも隣のEはもっと怖いはずだ。
だから男の俺がしっかりしなくては…「ねえ、鬼って誰なんだろうね?鬼は最初からいるって言ってたじゃん。あれって私達ではないって事だよね?」Eが小声で俺の耳元で話した。
俺「ああ、多分な。
最初の鬼は俺達ではないだろうな…
最初の鬼には捕まりたくないな…誰だかわかんない奴になんか…」E「私も!絶対最初だけは嫌だ。」そう二人で決意し、暗い学校の中を進んだ。
進むと、玄関が見えてきた。
外に出られるのか…そう思い、扉を開けようとする。
俺「ダメだ、開かない…ここもダメ…じゃあ窓とかは。」玄関の扉、廊下の窓、全てを試したがどれも開かなかった。
ガン!ガン!試しに辺りにあった消火器などで割ろうとしたがビクともしない…
割れても夢の中だから問題ない。
そう思い試したがダメだった…俺「ダメだ、開かないし、割れない…俺達…閉じ込められたかもしれない…」そう言うとEは泣き始めた。
Eは最初から乗り気じゃなかったみたいだし…
仕方なく参加した程度だろう。
俺「大丈夫、鬼ごっこが終われば出れるよ。だから最後まで頑張ろう。」E「そうだね、ただの鬼ごっこだしね。所詮夢なんだし。なんで泣いてんだろ私。」よかった、泣き止んだ。
そう、これはただの夢。
鬼ごっこが終わらなくても目が覚めれば終わる夢。
何をそんなに怖がる必要…