単身赴任のつらい思い出

2023/12/17

現在進行形じゃなく、過去に浮気されたことある。
それが原因で別れたけど。
あの頃は、若かったんでちゃんと出来なかった。

元嫁とは今から15年前、当時大学3回生でバイト先で知り合った。
元嫁は別の大学の3回生だった。
元嫁は大学卒業時に実家に帰り遠恋してたが、1年後に上京し2年の同棲を経て結婚。

結婚して1年後に俺に地方へ異動話。
元嫁は仕事の都合ですぐには退職できず、俺一人単身赴任の形になってた。
異動自体が2年の期限付きだったので、最初は毎週末に家に帰ってたが、仕事が忙しい事も有り、次第に2週に1回、3週に1回、と間隔が空きだして、月1くらいになった。

で、1年3ヶ月くらい過ぎた頃に嫁の態度がおかしくなった。

それまでは家に帰れば、すぐセクロスを求められてた(生理中除く)のが、急に「その気になれない」と言い出した。

で、俺も無理にする気も無かったので、別に追求はしなかった。
で、その1ヶ月後くらいに偶々本社に出張になり、結構遅くなった(9時くらい)ので泊って帰ろう、と思ったが、急な出張だったので鍵は持ってきて無かったので、家と携帯に電話すると、両方留守電。

仕方が無いので、ファミレスで時間を潰して再度電話(10時半)しても留守電。
おかしいなあ、と思いつつ家に帰ると、やっぱり不在。
で、近所の公園で煙草吸いながら待ってると、嫁が帰って来た。

公園に居る俺に気付かず、通り過ぎてく元嫁を見て、驚かしてやろうと、後から肩を叩くと、ビックリした後、凄い動揺。

で、事情を説明して明日一番で帰るから、と言うと
「悪いけど、ホテルにでも泊ってくれない?」との回答。

「はあ?何で、自分の家に帰らずホテルに泊らなきゃいけないの?」

「部屋が散らかってるし、朝早いのは、迷惑」

「今(11時半)からホテルなんてねーよ」

「カプセルでも何でも良いじゃない?」

「ざけんな、大体なんでこんな遅いんだ?」

こんな感じで、公園でしばらくやり取りした後、
「じゃあ、ちょっと片付ける時間ちょうだい」と元嫁の提案。

「わかった、じゃあ10分後に帰るよ」

「ううん、30分後にして」

もう疲れてたので、それで妥協して公園で時間を待った。

30分きっかり経って、家に帰った。
家の中は、特に散らかった様子も無く整然としてたが、なんだか違和感を感じた。
が、疲れてた俺は、とりあえずバスルームに向かった。

シャワーを浴びて出ようとした時にソレを発見した。
男性用T字カミソリだ。妻の毛剃り用とは明らかに違う。
電動シェーバーを使う俺には必要ないもの。

血液が逆流するような興奮を感じたが、出来るだけ平静を努めて、ソレを手にしてバスルームを出た。
入れ替わりに元嫁がバスルームに入っていった。

俺は、T字カミソリをしばらくぼんやりと眺めた後、クローゼットや収納の捜索を始めた。
クローゼットの奥から俺が絶対身に着けない下着を見つけ、収納の中から俺がはかない靴下を見つけ、キッチンのゴミ箱から俺が吸った事の無い煙草の吸殻を見つけた。

俺はそれらを机の上に並べ、バスルームから元嫁が出てくるのを待った。

バスルームからのドライヤーの音が止まり、元妻が出てきた。
元妻は、机の上に並べられたモノを見て、驚愕し、その口から出た言葉は怒りだった。

「なんで、そんな物を机に並べてるの!」

声は震えていたが、きわめて冷静に俺は言った。

「一つ一つ説明して貰おうと思って」

「まず、この吸殻は誰のだ?」

「友達が吸ってるのよ、それがどうしたの?」

「誰?俺の知ってる限りじゃいねーけど?」

「あなたの知らない会社の友達」

「まあ良いだろ。で、そいつは男なんだな」

「それがどうかしたの?来てたのは、別に彼一人じゃないし」

「ふーん、まあ良いや。じゃあ、この下着と靴下は?」

「遅くなったから泊って貰ったのよ。」

「何日も?」

下着の数と靴下の数は、それぞれ4つずつあったので、皮肉を込めてこう言うと、
「新品のセットだったからよ」

「ふーん、じゃあ始めから泊る予定だったんだ、遅くなったから泊ったんじゃないんだ?」

「別にそんな事どうでもイイじゃない!そんな追求する所が昔から嫌」

「じゃあ、そろそろ白状すれば?」

挑発するように俺が言うと、
「泊っただけで何にも無い、しかも他にも人が居たんだから」

中々自分の罪を認めようとしない元妻に業を煮やした俺は、2日前日付のコンビニのレシートを机の上において怒鳴った。

「じゃあ、手前は複数でプレーでもしてたって言うのか!この売女が!」

そこには、お買い上げの品物に「スキン」と明記されていた。
尚、他には2食分の弁当やビール、デザートなどの商品も明記されてた。

元妻の顔色は、紅潮した。

「別にスキン買ったからって証拠にはならない!」
そう言い放つと、薬箱の中から新品のスキンを俺に投げた。

「ゴミ漁りが好きみたいだからどうせなら使用済みでも探してよ。」
そう憎憎しげに言うと、一気にまくし立てた。

「新婚なのに単身赴任するのが悪い」
「昔から粗探しして、追及する」
「友達が泊ったくらいで、邪推するな」
「あんたと結婚したこと自体がそもそもの間違い」など。

元嫁は、言いたい事を言うと、俺を睨み付けたまま黙った。
それらを黙って聞いていたら何だか悲しくなってきて
「離婚するか?」と言った。

「別にそこまでの事は…」と元妻は口篭り、沈黙のまま時は流れた。
外が白み始めた頃に俺は、一つ提案した。

「全ての真実を話してくれたら今回は許す」

その言葉に対して、元妻は、「許すって何?」

「だから、例え肉体関係が無かったとしても既婚者が異性を部屋に入れるというのはおかしいだろ?」

俺がそう言うと、
「彼は、会社の同僚で一つ年下。既婚だと知ってて告白された」

「その男の電話番号教えろ」

「何で」

「既婚者に言寄る事の非常識さを教えてやりたいから」

「今、何時だと思ってんの?非常識はあなたよ」

「じゃあ、常識のある時間に教えてやるから電話番号教えろ」

「絶対嫌」

「イイからさっさと教えろ。」

同じ応対が繰り返され、いい加減飽きた俺は、元妻の携帯を腕尽くで取上げた。

ボタン操作していると、元妻が洗い桶の水を俺にぶっかけた。

「プライバシーの侵害よ」そう言った元妻の顔はよく見てない。
この瞬間に理性の全てが吹飛んだからだ。

携帯を放り投げると、立ち上がり元妻の髪を掴み、床にねじ伏せた。

「そんなに見せたくないのか!ならこのまま死ぬか?」
そう怒鳴りつけ髪を掴み顔を持ち上げると、元妻の両目から大粒の涙が零れ落ちた。

「殺したいなら殺して!」

そう言った元妻の目には俺が映っていた。
それを見た俺は、かろうじて理性を取り戻し、
「濡れたからシャワー浴びなおす」と言ってバスルームに行った。

バスルームでシャワーを浴びながら涙が幾つもこぼれた。
「何で?どうして?」頭の中を幾つもの疑問が駆け巡った。

考えても仕方が無い、そう思えるまでの時間がどれだけだったのかわからないが、とりあえずバスルームを出て、鏡の前に立った俺の顔は、酷く醜く見え、鏡を叩き割りたい衝動に駆られ、次の瞬間には、鏡は粉々に砕けていた。

棚にある化粧瓶やらムースやらスプレーを床に叩き付け、トイレットペーパーや生理用品を引っ張り出し、バスルームの扉を蹴りつけ変形させた。

ひとしきり暴れ回り、気が済むと着るものが無い事に気が付いた。
引っくり返した脱衣籠の中から昨日着ていた多少汗臭い下着を取り出していた時、決定的なあるものを見つけた。

暴れ回った所為で、汚物入れがこけてしまい、中が飛び出ていた。
それは、さっき元妻が自分で言ったティッシュにくるまれた「使用済みのスキン」だった。

正直、もうどうでも良くなっていた俺は、衣服を身に付けると、テーブルに顔を伏せた状態の元妻に言った。

「悪いけど、かなり散らかしちゃったんで片付けといて」

バスルームから響いてきた色んなものの壊れる音を耳にしていたであろう元妻は、
「何で、自分でちゃんと片付けてよ!無茶苦茶して!」

「ああ、無茶苦茶したおかげで、イイモノも見つけたよ」

顔を起こし、俺の顔を睨み付ける元妻に対して、言葉を続けた。

「お前がさっき言ってた使用済み、誰のかわかんねーし、気持ち悪くて触れないんだ」

途端に元妻の顔色が蒼白になる。

「離婚届は、郵送で送っとくから役所に出しといてくれる?」

それだけ言うと、俺はスーツを身に纏った。

「そうそう荷物は、近日中に業者に取りに来させる。実家には適当に言っといて」

なるべく元妻の顔を見ないようにそれだけ言うと、俺は朝一番では無くなった新幹線に乗るために最寄駅に向かった。

駅の公衆電話から会社に急用の為の休暇を告げ、新幹線に乗った。
新幹線は、色々と考えてると単身赴任先まではあっと言う間だった。
一度アパートに帰り、着替えて必要そうな印鑑や通帳を持って外出。
役所に行き、離婚届を貰いに行くと、住所が違うと断られた。
そして、丁寧に保証人の件や印鑑の件について教えてくれた。
一つ賢くなったと思いつつ、時間を確認して銀行へ。

まあ色々とメンドクセイと思いつつ、手続きなどをこなしていく。
動いている間は、何も考えずに済むので気分的には楽だった。

アパートに帰ると、元嫁から留守電。

「ごめんなさい、許して下さい」
「ごめんなさい、離婚は嫌です」
延々と20件くらい入っていた。

沸々と怒りがこみ上げてくるのを我慢して、言訳の留守電を聞いてると気分が悪くなってきた。
吐気があるが、吐く物は無く、昨日の晩にファミレスで食事して以来、何も食ってないことを思い出した。

が、食欲は無いので、とりあえずテレビをつけて横になってると、電話が鳴った。おそらく元嫁だろうと思い電話を取ると、その通りだった。

「本当にごめんなさい、二度としないので許して下さい」

「じゃあ、相手の住所と電話番号教えろ」

「それだけは許して。他の事なら何でもするから」

「何でもするなら離婚してくれ」

「そんな酷い事を言わないで」

かなりウザクなってきたので、電話を叩き切った。

電話を叩き切った後で、役所に言われた事を思い出し、こっちから元嫁に電話をかけた。

「とりあえず、何日か有給とったから明日ソッチ戻る」

「わかった、私も休むから話合いましょう」

話し合う事など何も無い、と心の中で思ったが、ループになるだけなので言葉にするのは止めた。

「じゃあ明日、デニーズに12時に」

それだけ言うと、電話を切った。

明日も早いな、寝なくっちゃ、そう思ったけど眠れなかった。
結局、テレビをぼんやり見ながら夜が明けるのを待った。

翌日、昼前にデニーズにつくと、元嫁は既に来ていた。

「ごめんなさい、許して」

開口一番の元嫁の言葉にイラつきながらとりあえず店に入る。
平日の昼間に来た事は無かったけど、かなり混んでいた。

「で、住所と名前と電話番号は言う気になった?」

向かい合わせのテーブル席に着くと、俺はそう言った。
元嫁は、下を向きながら「どうしても言わなきゃ駄目?」

「いや、別に無理にとは言わない」

もう離婚の意思は、固まってたのでどう誘導するかを考えてた。

「俺と一緒に居ると、疲れるだろ?」やさしく聞く。

「ううん、普段は優しいから。時々キレるのは怖いけど。」

追求されない事にほっとしたのか落ち着いて見えた。

「うん、そうだね。で、はっきり言うと今現在キレてるのわかる?」

笑顔で元嫁に言うが、目は笑ってない。
元嫁の顔が強張る。

「これ以上、嫌になりたくない。別れよう」

俺がそう言うと、元嫁が何か言おうと口を開ける。
が、俺の言葉がソレヲ遮った。

「好きで一緒になった。その気持ちに嘘は無い。」
「嫌な思いを積み重ねてボロボロになるより、良い思い出を残して別れたい」

元嫁は、黙って、涙を落とした。
その涙の訳は、俺にはわからなかったが、元嫁は離婚に同意した。

協議離婚と言う事で、少ない財産は等分。
お互いの親には「性格の不一致、生活環境の違い」などと言って誤魔化した。

結局、間男の名前すら聞かず、浮気の真意も不明だ。
そして、その後に俺は会社を退職し郷里に帰った。
今は元嫁が何処で何をしているかも知らない。

全て事実なので、オチは全く無い。
拙い思い出話をご清聴ありがとうございました。

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