憧れの先輩じゃないけど… 1

2023/10/24

少し前だが去年の4月に新入社員が入ってきた。
新卒の22歳、名前はY子。
Y子は見た目若くて、高校生ぐらいにしか見えない。
髪は短くて、背が低くて、メガネで、黒髪で、仕事で失敗すると
「きゃぅぅぅぅ~~」とか言う。
どこがってわけじゃないけど、オタクっぽいし、子供っぽい。

で、Y子の面倒を俺(32歳、10年目未婚)が見ることになったわけだが、仕事の筋は割とよく、電話ではオタクっぽいところも出さず、半年後には、それなりの奴になっていた。
見た目は幼いまんまだったけど。

で、このY子が俺のところに
「あのぉ・・・俺さん、相談があるんですぅ」とやってきた。
「何?」
「あの、ここでは何なので夜ご飯一緒しませんか?」

まぁ、二人で飯くったり飲んだりするのは初めてではなかったので、この日も二人で仕事終わりに食事へ。
Y子のチョイスで割とカップル多めイタリアンの店へ。

飯を食って、二人ともワインを飲んでほろ酔い。(俺もY子もほとんど飲めない)

(そういえばY子って彼氏いないのかな?)
と、今更のようにふと考えた。と、いうぐらい、普段俺はY子に対し女を意識していない。

「で、相談って?」
「あのぉ・・・うちの会社って社内恋愛アリなんですか?」

思わず噴いた。
セクハラ発言ってことも分かっていたけれど、

「いや、無しってことは無いけど・・・恋人でもできたの?」
「いえ、、、でも、、、その、好きな人が、、、」

(もしかして俺か??)
うぬぼれたつもりはないけど、一瞬、頭をよぎった。

そんな俺の変化を察したのか、否定するように
「隣のグループのKさんなんですけど・・・」

Kは、25歳ぐらいのヒョロりと背の高い優男って感じ。
ゲーム、アニメ大好きの男だ。

「へぇ・・・で?告白でもするの?」
「いえ、、でも、もっとお話しがしたくって」

俺は、正直面倒くさくなっていた。
勝手にしろよ、学生か、と吐き捨てたくなった。

「すいません、俺さんにこんなこと言ってもしかたないですよね・・・。」
Y子は下を向いて泣きそうになっている。
こんなことで二人の関係がこじれるのも嫌だし、仕事に支障をきたすのも困る。
「黙っていても何も解決しないよ。さっさと、飯でも飲みでも誘いなよ」
みたいなことを言って、その日は別れた。

それから暫くたって、クリスマスも近くなったころ。
Y子も俺も年末らしく、忙しい日々を送っていた。
Y子と憧れの先輩K君は、その後特に進展もなく(本人が言ってた)、ちょくちょくご飯なんかは食べに行ってるみたいだが、イブも別に過ごすらしい。

で、クリスマスイブ。
いつもどおり、20時ごろまで仕事をしていた俺。
周りにはポツポツ残っている奴もいるが、Y子は18時頃に帰っていった。
何年も独り身の俺は、イブも、バレンタインもほとんど意識せず、今日も
「あぁ、そうか、イブだったか~」
みたいなノリで帰路に。

会社から駅までの道を歩いていると
「俺さ~~~ん!!」と、呼ぶ声。

このアニメ声は・・・と思って振り返ると、案の定Y子。
「俺さん、遅くまでお疲れ様ですぅぅ」
「あれ?Y子、飲んでる??」
「はい、のんでますよぉ~~」

Y子は、フリフリな感じのスカートに、これまたフリフリ風のコートで、精一杯って感じのおしゃれをしている。

「いま、ともだちと飲んでたんですけど、俺さんに会いたくて抜けてきちゃいました」

キュンときた。
でも、同時に(コイツ、やべぇ)と思ってしまった。

「はぁ?早く友達んとこ戻ってあげなよ」
「いいんですよぉ~。それより、ご飯まだですか?一緒にいきましょうよ」
俺は複雑な気分になった。

Y子は、Kが好き。
イブは友達と過ごす。
でも、俺と過ごすことになっている。

「イブなのに、、なんて言うのは無しですよぉー。何も言わずに付き合ってください」
完全に酔ってハイテンションになってる。

そのまま二人で黙って歩いて、最寄り駅も過ぎてまだ歩いて、30分ぐらい無言のまま歩き続けた。

冬とは言え喉が渇いたので自販機でコーヒーを買って公園のベンチに座った。
Y子はオレンジジュースを買っていた。
二人でベンチに座って黙って飲んでいたがY子が突然、ハラハラと泣きだした。
「・・・」言葉につまる俺。

「す、すいません、、、ズズズッ」
Y子はメガネをはずして、ハンカチで涙をふいている。

「どうしたの?」なんて言うのは野暮なんだろうな・・・と思い、
前をむいて、コーヒーを飲み続けた。

「俺さん、、、恋愛って、、難しいですよね、エヘヘ」
「無理しなくていいぞ。っていうか、一回深呼吸して落ち着け」

変に冷たい言い方になってないか気になったが、後悔しても遅い。
Y子は鼻をズルズル言わせながら、また泣いてしまった。

「俺さん、、、K先輩のことはあきらめました。彼女いました、あの人。」
ポツポツ話すのを聞くと休日はニートみたいな暮らしをしているKには、ニートのような彼女がいて、もう付き合って7年ぐらいになるらしい。

俺は頭の中で、「しょーーもな」とか思いつつも、Y子が気の毒になった。
「Y子、そのうちいいやつ見つかるって」
と、言おうとしたのに、なぜか
「Y子、俺がいるって」と言ってしまった。

言ってからしまったと思ったが、時すでに遅し。

「俺さん、、、今、それ言うのズルいです」
と、またポロポロと泣きだしてしまった。

言い訳してもまた泣くだろうし、ちょっと放置。
肩ぐらい抱いてあげたらよかったのかもしれないけど、会社の先輩、後輩でそこまでするのもなって思い、寸前でやめておいた。

やがてY子が静かになった。横目でチラっとみると、メガネを外したY子はまつ毛が濡れて、妙に大人っぽい。
(このメガネも子供っぽく見せる要因なんだよな・・)なんて考えながら、

「メガネとると、大人っぽいな」と冗談っぽくいって和ませようとした。
「すいませんね、普段子供っぽくて」
Y子はほっぺたをふくまらせて、そっぽをむいた。
(そういうのが子供っぽいのでは・・・)
すんでで飲み込み、

「いやいや、十分素敵だと思うよ」
(って、俺、何いってんだ。口説いてるのか??)
と自分で自分が分からなくなってしまった。

で、何を思ったか、気がついたらY子にキスしてた。
Y子は最初ビクンと体を固くしたが、次第に体をあずけるようにキスに応えてくれた。

実際には10秒にも満たなかったと思うが、唇を離すと
「え、ええー!えええーー!!」と耳まで真っ赤にして騒ぐY子。

こういうとき、どういう顔をしていいか分からず、もう一回、今度は少し強引にY子の唇を自分の唇ではさんだり、唇の端に舌をはわせたりした。

失恋した女にキスするなんて、俺最低だよな・・・と思いつつ、
感触が妙にきもちよくて、何度も唇を重ねた。

Y子は、途中から「ん・・・」とか「ハァハァ・・」と軽く喘いだり、口を少しあけたりして、俺のキスに応えてくれた。
目じりが少し濡れていたので、指でふき取ってあげた。

家が遠い俺は、そろそろ終電の時間になり、
「ごめん、、すごくキス気持ちいいんだけど、そろそろ終電だから・・」
と気の利かないセリフをはいて、立ち上がった。

Y子は、少しうつむいたまま、俺の背広のすそをつかんで
「もう少しだけ、一緒に・・・」
「いや、でも、もう終電がなくなりそうだから・・・」
「・・・じゃあ、いいです、すみません・・・」

と、つぶやくY子が、とても寂しそうだったので、俺は時計を見て逆算して、
「あと5分ぐらいだったら、走れば間に合うか」
と、またベンチに座ることにした。

Y子は、俺の手をにぎって、指先を見詰めている。
なぜかそのしぐさが、俺のことを愛おしく思っているように思えた。

あっという間に、5分がたち
「もう、ほんとに終電やばいから・・・」
と、後ろ髪ひかれる気持ちをふりきって、立ち上がると

「もう少し・・・だめですか?」
「だから、終電が・・・」
「待ってる人がいるんですか?」
「・・・いないの知ってて、、、嫌味か?」
「じゃあ、今日だけ一緒に・・・」
「・・・!!」
「ダメですか?」

<続く>

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