怪しい中年カップルのプレイを茂みの中から見ていた作業員

2018/11/20

人気のない荒れ果てた公園。
そんな公園にやって来た怪しい中年カップル。
二人の変態プレイを茂みの中から覗いていた除草作業員は・・・
ふとエンジンの音に気付き、薮の中からソッと顔を上げてみて見ると、麓の駐車場に車が止まったのが見えた。
フロントガラスに春の日差しが反射し、まるで松永が潜んでいる薮の中を照らしているかのようにキラキラと輝いていた。
それは、どこか見覚えのあるシルバーのセルシオだった。
見るからに怪しげな中年カップルが車から降りて来て、ほぼ同時に、ドン、ドン、と二つのドアを閉める音が響いた。
恐らく二人とも四十代後半から五十代前半だろう、頭のハゲた親父と、ミニスカートを履いた派手なおばさんだった。
中年カップルが石段を上がって来るのが見えた。
すかさず松永は薮の中に身を隠した。
松永は、この人気のない公園で除草作業をしている最中だった。
それは、松永が働いている造園会社が、市から依頼された仕事であり、別に疾しい事をしているわけではなかった。
だから別に隠れなくてもいいのだが、しかし、石段を上がって来る中年カップルを見た瞬間、なぜか松永は反射的に隠れてしまった。
それほど、その二人は、松永の目に怪しく映った。
二人のどこがそんなに怪しいのかは具体的にはわからなかったが、しかし、なぜか無性に怪しい気がしてならなかった。
長い石段の真ん中辺りの左端の薮の中に、埃だらけの除草作業員がひっそりと身を隠しているとも知らず、二人はカツコツと靴の踵を鳴らしながら石段を上ってきた。
二人が通り過ぎて行くのを、雑草の隙間からジッと伺っていた松永は、二人の靴音が頭上を過ぎていくなりソッと顔を上げた。
石段を上っていく二人の後ろ姿が春の穏やかな光りに照らされているのが見えた。
女のミニスカートの中が丸見えだった。黒いハイヒールを履く太い足は生足だった。豚のように肉付きの良い太ももがふるふると揺れ、その奥にワインレッドのパンティーに包まれた大きな尻が左右交互に歪んでいた。
そんな女の横に並んで歩く親父は、実に趣味の悪い格好をしていた。
年齢に不釣合いな派手な柄物のシャツに真っ白なスラックスを履いていた。何よりも趣味が悪いと思ったのが青いメッシュの靴で、あんな靴はいったいどこに売っているんだと驚いた。
そんなド派手なファッションに身を包みながらも、チビでハゲで黒ぶち眼鏡を掛けたおっさんは、まさに田舎の演芸場に出ている売れない漫才師そのものだった。
おもわず「ふっ」と笑ってしまった松永だったが、しかし、ふとそんな親父の腰にジャラジャラとぶら下がっている無数の鍵を見て何かを思い出した。
(そうだ、あいつだ!)
松永はもう一度駐車場を見下ろしながら頷いた。
確かにあのセルシオは、いつも『パチンコ一番将軍』の景品交換所の横に止まっている車だった。
あのチンチクリンな親父は、いつも松永が仕事帰りに立ち寄るパチンコ店の店長だったのだ。
薮に身を潜めながら石段を上っていく二人を見つめる松永は、益々、この二人を怪しいと思った。
というのは、この公園は人気が全くないからだ。
確かに、頂上まで登れば町を一望でき、その見晴らしはテレビで紹介されるほどに壮大だった。
しかし、その頂上までの距離が半端じゃなく長かった。石段は優に二千段は超え、しかも凄まじく勾配の急な石段なのだ。
だから誰もこの公園には来なかった。
かろうじて、年に一回、近所の小学生達が遠足にやって来るのと、元旦の早朝に『初日の出』を拝みにやって来る物好きな若者たちがいるくらいで、それ以外はこの石段を上る者はほとんどいなかったのだった。
そんな公園にやってきた中年カップル。
しかも二人は革靴とハイヒールを履き、まさか頂上まで登るとは思えない格好なのだ。
(あいつら、何か企んでるな……)
そう細く微笑んだ松永は、握り締めていた鎌を薮の中に投げ捨て、石段に沿った薄暗い雑木林の坂を登り始めたのだった。
派手な二人の背中を、雑木林の影から確認しながら坂を登っていた松永は、二人が足を止めると同時に雑草だらけの地面に身を伏せた。
湿った地面はひんやりと心地良く、地面に伏せる松永のすぐ目の前では、蜘蛛のように大きな蟻が触覚をピクピクと振りながら松永を威嚇していた。
足を止めた二人は、『頂上まであと1000段』と書かれた看板を左に曲がり、細い山道に抜けた。
その山道の奥には広場があった。朽ち果てた公衆便所とベンチが数台放置されているだけの、何も無い広場だ。
地面に伏せる松永の目の前を、黒いハイヒールと革靴が横切っていった。
「……それでママが怒ったの。『ウチはカラオケボックスじゃないんだからね!』ってね、そりぁ凄い剣幕だったわよ。でも当然よね、池田さん達ったら、店に入るなりカラオケを十曲も入れるんだもん、ボトルも入れずにずっと唄ってばかりいれば、誰だって怒鳴りたくもなるわよね……」
女はそう呟きながら、うふふふっと笑った。
すると親父は、口に銜えていた爪楊枝をいきなり雑木林の中にプッと飛ばすと、「でもよぉ」と言葉を挟んだ。
「池田達も池田達だけど、客に向かって怒鳴るママもママだよ。そんな事ばかりしてっから常連が寄り付かなくなっちゃったんだよ。だからミキちゃんもさぁ、早いとこあの店辞めたほうがいいぜ。潰れるのも時間の問題だと思うよ……」
そう呟く親父の声が遠離っていくのを、松永は地面に伏せながらジッと聞いていた。
一瞬聞こえた話しの内容から、ミキちゃんと呼ばれるあの中年女がどこかのスナックのホステスだという事が伺い知れた。
二人の背中を雑草の隙間から見ていた松永は、(なんでパチ屋の店長とスナックのババアがこんな所に来るんだろう……)と、益々怪しく思い、未だ必死に松永を威嚇し続けている目の前の巨大蟻を、人差し指でブチッと潰したのだった。
この山道は、その何も無い広場が突き当りになっていた。
二人の目的地がその広場である事がわかった松永は、二人の背中がみるみる小さくなっていっても慌てる事も無く、広場に向かってゆっくりと雑木林の中を進んだ。
しばらく行くと、山道の先に明るい広場が見えてきた。
山道を包み込むようにして生い茂っていた樹木がいきなり途切れ、まるでトンネルを抜けた時のような明るさが松永の目に飛び込んで来た。
所々に伸びている大きな杉の木に身を隠しながら、松永は二人を捜した。
まるで爆撃されたまま放置されているアフガニスタンの民家のような公衆便所が奥に見えた。その公衆便所の横にポツンと置いてあるベンチに、二人が仲良く座っているのが見えた。
誰も寄り付かない山のてっぺんにある公園の、その更に奥にある忘れ去られた広場。
そんな薄ら淋しい広場の奥で、不気味に放置された公衆便所の横にあるベンチ。
広場には他にもベンチはあった。あんなに奥深く行かなくとも、あんな薄汚い公衆便所の横でなくとも、もっと条件の良いベンチはいくらでもあった。が、しかし二人は、そんな条件の悪いベンチをわざわざ選んでいた。
そんな二人を見つめながら、雑木林に足を忍ばせる松永は確信した。
あいつら、間違いなくセックスをヤリに来たんだ……と。
薄暗い日陰の雑木林の中を、足音を忍ばせながら公衆便所の裏に向かって進んだ。
顔面を蜘蛛の巣だらけにしながら公衆便所の裏に辿り着くと、林の中から静かに抜け出し、朽ち果てた公衆便所の冷たいコンクリートの壁に身を寄せた。
壁からソッと覗き込むと、ベンチに座りながら煙草を吹かす二人が、便所に向かって座っているのが見えた。
親父のその顔は、明らかにパチ屋の店長だった。
女のその顔も、明らかに水商売のおばさんだった。
松永は、こっちを向いて座っている二人に見つからないように身を潜めながら、そのおばさんの顔を見て、おもわず「妖怪だな」と呟いた。
水商売のおばさんというのは、薄暗いスナックでカウンター越しに見る分にはまだいいのだが、しかし、明るい太陽の下で見ると凄まじいものがある。
化粧で荒れた肌をこれでもかというくらい真っ白に塗りたくり、安物の差し歯が刺さった歯茎はドス黒く、アイラインで書きまくった目はイグアナのように疲れ果て、そしてやたらに顔がデカい。
太陽の光に照らされたその姿はまさしく化け物であり、夜の店で見せる華やかさと太陽の下で見せる醜さのそのギャップの違いは、深夜のテレビCMに煽られてついつい衝動買いしてしまった通販商品を、段ボールの中から取り出した時のショックによく似ていた。
松永はそんな化け物を壁の隅から覗き込みながら、(店長も、あんな妖怪をよくやるなぁ)と、つい笑ってしまった。
「ホント、最近は不景気よ。昨日なんてね、二人しか客来て無いんだから。このままじゃあホントに潰れちゃうわよ……」
女はそう笑いながら、真っ赤な口紅をギトギトに塗りたくった唇から煙草の煙をフワッと吐き出した。
「だから言ってんだよ、ひと昔前の『黒猫』はさぁ、ママも若くて、女の子もいっぱいいて良かったけど、今はダメだって。あの店はバブルと一緒に弾けちゃったんだよ。給料貰えなくなる前にとっとと辞めたほうが身の為だぜ」
そう煙草を吹かしながら、得意気な顔をした親父は女の太ももの上にパタンっと手を置いた。
二人が吐き出す煙草の煙が風に乗り、公衆便所の裏まで苦々しい香りを漂わせていた。
経済的な理由から禁煙をしていた松永は、その苦々しい煙草の香りを懐かしく思いながら、女が働いている店の名前が『黒猫』だという事を頭に叩き込んだ。
「でもさぁ、辞めてどうすんのよ……行くとこないわよ私。

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