四十九日の夜に義母と…
2018/11/10
妻の四十九日の法要が終わった。町中の小さな小料理屋を借り切って近親者だけで会食し、その場でお開きにした。私と義母は、タクシーで郊外のマンションへ帰った。口にしたお酒のせいか、ここ1カ月間の疲れが出たのか、車の中で2人は無言だった。玄関を開ける。妻のはねるような足音も、キャピキャピした声も、もう聞くことはできない。静寂の中に取り残された、義母と私。私は黒いスーツの上着を脱ぎ、居間のソファに横になった。隣の和室で、短パン、Tシャツに着替えた義母が、脱いだばかりの黒服を畳んでいる。「疲れたのね、浩二さん。ちゃんと着替えてきなさい。お茶、いれるから」義母の声に促されて、寝室で着替えを済ませ、居間に戻った。
ダイニングからコーヒーのいい香りが漂って来た。「そっちへ持って行く?、こっちにする?」「あっ、いくよ、そっちに」
ダイニングルームの灯りをつけ、テーブルについた。
テーブルの角をはさんで右隣に、義母がすわった。
これまで妻が座っていた場所だ。「うわぁ?、おいしい。義母さん、コーヒー、こんなにおいしく感じるの久しぶりだよ」
ひとくち、ふた口啜り、カップを置いた。義母は両手をコーヒーカップに添えたまま、視線を落としている。意を決したのか、いったん口に運んだカップを受け皿に戻し、義母が口を開いた。「ねえ、浩二さん、はっきりさせなくちゃいけないわよねぇ!。いつまでもダラダラってわけにはいかないわ。四十九日が済んだことだし、この機会を逃しちゃ言う時期を失ってしまう。だから・・・・」
義母の言いたいことはわかっていた。妻方の姓を名乗っていたとはいえ、義母と養子縁組をしたわけではない。
40歳という若さなんだから、再婚のチャンスはいくらでもある。妻が死んだ今、義母の家に縛られる理由は、まったくない。
だから、家を出ていって構わない。自由にして構わない。当然、私もこの1カ月、私の将来を気遣う義母の思いも含め、いろいろ思いを巡らした。結論は出ていた。義母が切り出したのを機に、私もはっきりと思いを伝えるつもりになっていた。私を真っ直ぐに見据えて、義母が言った。「浩ちゃん、もういいのよ。この家、出ていっていいわ。自由になりなさい!。浩ちゃん、優しいから、私が寂しがるだろうと思って『一緒にいる』って言うかも知れないけど、私は大丈夫。まだまだ私も若いし、小さいけど会社も持ってるし、生き甲斐だってある。だから心配しないで、自分のことだけ考えて!。ねっ!!」想像していた通りだった。返事はせず、私はコーヒーを口に運んだ。「ねえ、浩二さん、聞いてるの。あなたはまだこれからよ。再婚だってしようと思えば、いくらでも相手はいるはずよ。遠慮しないでいいの!!。死んだ美津子だって許してくれるわ」
カップを置いた。
そして、はっきりと言った。義母には、怒っているように聞こえたかも知れない。「義母さん、義母さんは幾つなのっ?。僕と5つしか違わないじゃない!。美津子と僕は17も離れてたけど、僕と義母さんはたった5つしか違わないんだよ!。その僕が再婚できて、義母さんはできないって理屈、ないよねっ?・・・・そうかぁ。わかった。義母さん、好きな人がいるんだ。その人と一緒になりたいから、僕がいると邪魔なんだ。そうなんでしょっ、義母さんっ?」
わざと邪険に言い放った。
そんなこと、これっぽっちも考えてはいない。
ただただ、義母を動揺させるために言ったのだ。「な、何を言ってるの、浩二さん。私、私、何言ってるのか、わからない・・・」「僕を追い出して、好きな彼と一緒にここで暮らしたいんでしょ?。そう聞いてるのっ!」
しばらく無言で私を見つめていた義母の目から、大粒の涙がポロポロッとこぼれた。「ちっが…うっっ。違うわ。違う、違うのよ、浩二さん。そんなこと、そんなこと、あるわけない。あるわけないじゃない。どうしてそんなこと言うの?。意地悪言うの?。私だって、私だって、浩二さんにずっといてほしいわよ。一緒に暮らしたいわよぉ。私も浩ちゃん好きだったし、美津子が時々うらやましかった。だけど、美津子が死んだのよ!」「だから?、だから、どうなの?」「えっ!?、だ、だから、一緒になんか住めないじゃない」
もくろみは成功した。言わせたかった言葉を、義母は私の期待通りに口にした。義母の手を取り、両手で包み込んだ。義母は思わず手を引っ込めようとしたが、私はしっかりと握りしめた。「さっき、何て言った?。義母さん。さっき、何て言ったの?」「・・・・・・・・」「僕のこと好きって言ったよね!。美津子がうらやましかったって言ったよねぇ!。ずっと僕にいてほしい、一緒に暮らしたいって言ったよねぇ!。なのに、出て行けって言うの?。僕の答えを言うね。義母さん、しっかり聞いてっ!。絶対忘れちゃダメだよ、いい?。僕はね、ここを出て行かない。ぜえっっったい、出て行かない。義母さんから絶対に離れない。義母さんが僕を好きだって言う以上に、僕は義母さんが好きっ。美津子が死んで、そのことに気付いた。僕は義母さんを愛している。他の男になんか、絶対に渡さない」私の手を振りほどき、テーブルに突っ伏して肩を震わせていた義母の泣き声が、号泣に変わった。顔を上げた義母が、両手を振り上げ、殴り掛かってきた。涙と洟で顔をぐちゃぐちゃにし、何かをわめきながら、私を殴ろうとしている。何を言っているのかは、全くわからない。
ばたつかせる手を払いながら、私は義母を抱きかかえ、居間のソファに運んだ。洗面所でタオルを固くしぼり、乾いたタオル2、3枚とともに、居間に戻った。嫌がる義母の顔を無理矢理上に向け、濡れタオルで拭いた。終わると義母は私に背中を向け、ソファの背もたれの方を向いてまた泣き始めた。
ソファの前にあぐらをかいた私は、そんな義母を見守りながら、やさしく背を撫で続けた。
30分ぐらいそうしていただろうか。
やがて、泣き疲れた義母が体の向きを変え、上を向いた。泣きはらした真っ赤な目を私に向け、『あっかんべぇ?』と、舌を出し、笑った。
そして・・・・・・「嫌いっ。大っ嫌い。浩二さんなんか、大っ嫌いよ」
これ以上の意地悪をするつもりはなかった。義母の両肩に手をかけ、抱き寄せた。素直だった。
ゆっくりと顔を近づけた。目をつむろうとする義母。「だめっ、義母さん。目、開けてっ!。しっかり僕の顔、見てっ!」「いや、はずかしい」密やかに、義母がささやく。吐息が漏れる。熱い。
その口を覆うように、唇を重ねた。舌を絡めあいながら、義母は両手を背中にまわし、私を力一杯抱きしめた。
義母・奈緒子45歳、私・浩二40歳。
その日、私たちは『初めての夜』を共有した。
といっても、ごく自然に、というわけではなかった。奈緒子が、最後の一線を越えるのを拒むかのように、処女のように恥じらい、身を固く閉じたのだ。無理もなかった。
22歳で娘・美津子を生んだものの、乳離れしないうちに、夫を事故で失った。乳飲み子を抱えながら、奈緒子は家業の生花店を切り盛りした。繁華街・歓楽街の中にある花屋さん。
お客はスナックやバー、クラブ、そこへ通う酔客たちだ。夕方店を開き、閉めるのは夜中。朝早くには市場へ仕入れにでかけなければならない。
きつい仕事だけに、店員の入れ替わりも激しい。
そんな中で、20年余り、一心に働いて店を会社組織にまで発展させ、美津子を育て上げた。『男』を求める余裕すらなく、体も『女』を忘れていたに違いない。風呂から上がると、義母の部屋に布団が2つ、並べて敷かれていた。台所の方から義母が声をかけた。「お布団、私の部屋に敷いたわ。よかったかしら!?」「ああ、いいよ。でも、2つもいらないんじゃないの?」「だってぇ?、2人用のお布団じゃないし、最初から1つだけだと、いかにも、って感じじゃない!?」「いかにも!、って何?」「え?っ?、お休みするんじゃなくて、なんか『やりますっ』だけみたいな……」「わっ、義母さん、エロっ!。考え過ぎだよ。だれが見てるわけでもないのに!!!」「そりゃそうだけど、私の気持ちの問題。いいわ。はいっ、ビールここ置いとくから、飲みながら待ってて。私、急いでシャワー使ってくる」
10分・・・・・20分・・・・・・・・30分・・・・
私が焦れ始めたころ、濡れた髪をタオルで包んだ義母が戻ってきた。「あら、もうお布団に入ってたの」居間のソファに座り、ゆっくりと髪を拭き始めた。
ペニスは『初夜』への期待で、義母が風呂へ入った直後から、ギンギン、最大限に勃起した状態が続いていた。「義母さん、早くおいで、僕、もう、我慢できないっ。早く、来てっ!」義母は、隣の布団の上に、ちょこんという感じで座った。
まだ髪を拭いている。何か、躊躇しているようにも見える。待ちきれない私は、上半身を起こし、義母の手をつかんで私の布団に引きずり込んだ。
あまりに唐突で、荒々しかったのだろう。義母は、イヤッ、と小さく言って全身を縮めた。構わず、私は義母を押さえつけた。義母の抵抗が止まった。
が、両手を胸の前で交差させ、両足をピッチリとくっつけ、固く閉じている。目もしっかりと閉じ、歯を食いしばっている。小刻みに震えている。