自慢の嫁が、俺の借金をお口で返してくれた

2018/10/02

「もう、100万くらい行ってるんじゃね?」
祐介があきれたような顔で言った。祐介は、俺の大学のときからの友達で、社会人になった今も親友だ。
「いや、89万5千円だよ。ていうか、また上手くなってないか?」
俺は、スマホのメモアプリを見ながら答えた。祐介とは、大学の頃からビリヤードをよくやった。そして、毎回賭けで勝負をしているが、実際にお金のやりとりはなく、こうやって数字上の金額だけを記録し続けている感じだ。
それにしても、俺もいい負けっぷりだと思う。一勝負500円程度の賭けで、ここまで負けが貯まってしまうということは、俺にはビリヤードの素質はないのかも知れない。
「そろそろ精算するか?」
祐介が笑いながら言う。と言っても、祐介も本気で言っているわけではない。彼は、卒業と同時に親父さんの会社に入社し、まだ30歳前だというのに、もう役員になってしまった。親バカで、典型的なダメな親族会社のテンプレかと思いきや、若い祐介が積極的にネットでの販売ルートを拡大していった結果、粗利が3倍になるという大きすぎる貢献をしたそうだ。
なので、祐介はまったくお金には困っていない。その上、俺はいつも色々とごちそうしてもらったり、お下がりを譲ってもらったりしている情けない状態だ。彼の車がBMWのM4で、俺の車はフィット……そんな感じの格差だ。
ただ、一つだけ俺が勝っているものがある。それは、嫁の優香だ。なぜ俺と結婚してくれたのか未だにわからないが、俺が一目惚れされて、向こうから猛アタックされ、すぐに結婚することになった。
優香は、俺の取引先の受付の女の子で、最初に会った時から可愛いなと思っていた。当時まだ23歳で、肩までの真っ黒な髪がとても艶やかで、清純なイメージだったのを良く覚えている。
大きな目と、すっと通った鼻筋、ちょっと冷たい感じのする美人な顔だが、少しアヒル口っぽい感じの口のせいで、全体で見ると可愛らしい印象だ。
なぜだかわからないが、この時優香は、俺に一目惚れしたらしい。そして、次に彼女の会社に訪問した時、アドレス(当時はまだメルアドだった)を渡され、すぐにデートをするような関係になった。
「いつもこんな事してるの?」
俺が、誰にでもメルアドを教えているのかな? と思って聞くと、
『初めてですよぉ。だって、ウチに来る人で、高橋さんみたいな人いなかったし』
と、少し頬を赤くして言う優香。
「俺みたいって? どんな感じなの?」
『ナイショです』
「なんだよそれ。からかってるの?」
『違いますよぉ! 私の好みのタイプってことです』
と、本当に照れながら言った優香。この時、俺も優香のことを本気で好きになったんだと思う。
そして、金曜の夜に一緒に食事をし、俺の家に誘って結ばれた。いまどき当然だと思うが、優香は処女ではなかった。でも、経験豊富という感じでもなかった。俺もそれなりに遊んできたので、とくに過去のことは聞かなかったが、せいぜい1人か2人程度だと思った。
それから結婚まではあっという間だった。そして優香は今年26歳になった。俺は来年30歳だ。子供はまだいないが、そろそろ作ろうかな? と思っているところだ。
「なぁ、腹減ったろ? ウチで飯食うか?」
俺が祐介を誘う。すると、祐介は本当に嬉しそうに、
「良いのか? スゲぇ嬉しいよ」
と、素直に言った。祐介は、優香のことがお気に入りだ。いつも、羨ましいと言われている。そして俺も、自慢というわけではないが、少し優越感もあってこんな風に彼を自宅に誘うことをする。
俺は、すぐに優香に電話をした。
『良いよ。じゃあ、もう作り始めとくね!』
と、優香も嬉しそうに言う。結婚して会社も辞めた優香は、まだ子供がいないということもあって、なかなか話し相手がいない。子供が出来ればママ友とかも出来るのでそれも変わると思うが、いまは寂しい思いをさせているなと感じることが多い。
なので、俺が祐介を連れて行くと、本当に嬉しそうにしてくれる。そして、祐介のM4で俺の家に向かった。俺のフィットに比べると、加速も尋常ではないし、音にも痺れる。
「でも、これってスピーカでエンジン音を足してるんだぜ。ターボだから、音がそんなに良くないんだとさ。インチキ臭いよな」
祐介はそんな説明をするが、俺にしてみれば、そんなのは関係ない。作られたサウンドだとしてもいい音だと思うし、いつかはこんな車を転がしてみたいなと思うが、俺の給料じゃはかない夢に終わりそうだ。
そして、部屋の鍵を開けると、すでに玄関に優香がいた。
『祐介さんの車、音ですぐわかっちゃいます』
と、笑顔でいう優香。一瞬、嫉妬心みたいなものが頭をもたげるが、
『圭ちゃん、おかえり〜。んっ〜!』
と、祐介がいるのも構わず、キス待ちの顔をする優香。俺は、メチャクチャ嬉しいが、祐介の手前、軽く唇をあわせる程度のキスをする。
『今日もお疲れ様〜』
と、俺のカバンを持ってくれる優香。
「相変わらず、ラブラブだねぇ」
と、からかうような感じで言う祐介。でも、羨ましいと思っている感じが伝わってくる。
『祐介さんは、結婚しないんですか? ラブラブって、イイものですよ』
優香がそんなことを言う。
「なかなか相手がね。優香ちゃんみたいな良い子、なかなかいないんだよね」
『またまた〜。私みたいなの、そこら中にいますよ』
と、優香は元気よく言う。でも、嬉しそうだ。俺が、あまり褒めたり出来ない性格なので、こんな風に褒められるのは嬉しいのだと思う。
そして、3人での夕食が始まった。
「いや、ホントに美味しいよ。優香ちゃんって、可愛いだけじゃないんだね」
祐介が、勢いよく食べながらいう。
『褒めても何もないですよ〜』
と、優香はまんざらでもない感じだ。こんなに楽しそうな優香を見ていると、俺まで幸せな気持ちになってくる。しばらく楽しい歓談が続くが、さっきのビリヤードの話の流れで、
『え? 借金?』
と、優香が眉をひそめる。
「そうそう。圭介、ビリヤードの負けが100万もあるんだよ」
笑いながら言う祐介。
「いや、だから89万だって」
俺が訂正する。
『そんなに!? どうするの? お金ないよ』
優香が真顔で言う。
「いや、数字だけだから。本気でもらうわけないじゃん」
祐介が、慌てて説明をする。
『でも……。いつもごちそうになってるし、悪い気がするよ……』
優香が悲しそうな顔をする。
「じゃあ、優香が身体で払っちゃう?」
俺が、場を明るくするつもりで茶化して言った。
『え? ……うん。私なんかでよければそうする』
優香は、真顔で答える。
「え? 優香ちゃんなに言ってるの?」
祐介がビックリした顔で言う。
「いや、冗談だって!」
俺も慌ててそんなことを言うが、
『お金のことはちゃんとしないとダメだよ。そうやって友情が壊れるのって、すごく寂しいよ』
と、思い詰めた顔で言う優香。あまりに真剣な顔で言う彼女に、俺も祐介も言葉が出てこない。
『もう、そういうの見たくないんだ……』
と、意味ありげに言う優香。どうやら、過去に何かあったみたいだ。
『じゃあ、圭ちゃんちょっと出てくれる? 30分くらいコンビニでも行って来てよ』
ごく普通の顔で言う優香。冗談を言っている気配はない。
「な、なに言ってんの? そんなのダメだって! 俺がちゃんと返すし!」
「いや、いいって、そんなことしなくても! 金なら困ってないし、そうだ! たまにこうやって夕ご飯ごちそうしてくれれば、それでOKだよ!」
と、慌てる祐介。彼の人の良さがにじみ出ている感じがした。
『いいから、行って……。大丈夫だから』
「だって、おかしいでしょ! そんなことでセックスするなんて」
『え? せっくす?』
キョトンとした顔で言う優香。
「え? 違うの?」
『そんなわけないじゃん! 圭ちゃんがいるのに、エッチなんてするわけないでしょ! バッカじゃないの!』
と、顔を真っ赤にして言う優香。でも、だったらどういう意味だったんだろう?
『早く行って。30分くらい潰してきてね』
優香はそう言って、部屋から俺を追い立てるようにして強引に出発させた。
俺は、意味がわからないと思いながらも、エッチはしないという言葉を信じてコンビニに行った。そして、落ち着かない気持ちのまま立ち読みを始めたが、全然頭に入ってこない。仕方なくコンビニを出て、家の前まで移動した。
3階の俺の部屋は、電気がついたままだ。あの中で、何をしているのだろう? 嫌な想像ばかりしてしまう。俺がビリヤード弱いばっかりに……。でも、エッチじゃない方法で身体で返すって、どうやるのだろう? そんな事ばかりを考えていた。
そして、30分経過すると、すぐに俺は自宅に戻った。すると、もう祐介はいなかった。
「あれ? 祐介は?」
『もう帰ったよ』
優香は、落ち着いた感じだ。服も着てるし、髪も乱れていない。
「え? 何したの?」
『手でしてあげただけだよ』
「えっ!!」
『お口でしようとしたんだけど、手でいいんだって。それで、1回5万引いてくれるって! だから、あと17回だよ』
と、スッキリした顔で言う優香。
「手でイカせたってこと?」
俺は、信じられなかった。
『うん。そんなのでいいなんて、祐介君って優しいよね』
優香はそんなことを言う。罪悪感は一切感じていないようだ。

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