M学園ご一行様

2018/08/08

これは何年か前、私が勤める保養施設で起きた出来事です。
施設が特定されると何かと差し障りがあるので、
一部わざと省略したり事実を変えて書いてあります。
辻褄が合わない箇所もあるかと思いますが、その辺はご容赦ください。
その施設は最初、リゾートホテルとして建設が決まったんですが、
資金繰りに窮した業者が撤退。周囲に民家もない辺鄙な所でしたから、
そもそもリゾート客を当て込むのが無理だったんでしょう。
その後、持ち主を転々として、今はある民間団体が運営しています。
お世辞にも立派とは言えませんが、宿泊は可能。
小さいながら屋外プールやテニスコート、視聴覚室もあるので、
貸切専用で中小企業の社員研修や部活動の合宿に使われてました。
ここだけの話、怪しげな新興宗教とか、
自己啓発セミナーの団体が来たこともあります。
7月だったと思います。その日の客は「M学園ご一行様」。
申し込みのときに初めて聞いた名前でしたが、
なんでも不登校の小中学生を受け入れる全寮制の学校だそうです。
新入生と保護者の1泊2日のオリエンテーションに使うとのことで、
たまたま私が担当になりました。
当日の午後、バスで到着したのは男の子ばかり5人と保護者らしき女性5人、
引率の女性教師の全部で11人。宿泊簿では男の子と女性が1組ずつ
同じ苗字でしたから、たぶん親子なのでしょう。
年齢は男の子が11~13歳ということは、
小学5年から中学2年くらいでしょうか。
女性陣は先生を含め全員が30代だったと記憶しています。
日程はごくありきたりというか、特に変わった点はありません。
到着して荷解きしたあと、プールで水遊び。それから視聴覚室でセミナー。
夕食を挟んでもう一度セミナーがあって、あとは就寝まで自由時間
(といっても遊びに行く所もありませんけど)と入浴だけです。
夕食時にお酒が出ない(子供連れだから当たり前ですが)以外は、
他の企業や宗教団体の研修と変わりません。
ですが、どこか変だなという感じもしてました。
まず、子供たちが静かというか大人しいんです。
それまでに何度も中高生の部活合宿を受け入れたことがあるんですが、
あの年頃の男の子って、とにかく騒がしいですよね。
施設内を走り回ったり、勝手に出歩いたり、そこらで喧嘩を始めたり
…引率の先生が猛獣使いみたいに大声で怒鳴り続けたりね。
ところがM学園の子は、セミナー中はもちろん夕食時も、
借りてきた猫みたいに静か。事前に先生から「不登校といっても
不良少年とか問題行動を起こした子じゃなくて、いじめられたり、
上手に人間関係を結べなかったりして学校に行けなくなった子供たち」だと
聞いていたので、「そんなものかな」とは思いましたが。
それでも食事中、隣りの子とお喋りひとつしない様子は、
かなり異様に感じましたよ。
初日、施設からテニスコートを挟んで100メートルくらい離れた所にある
プールに案内して、設備の使い方とかを説明したんですが、
男の子たちはプールでも黙々と泳ぐだけでした。
お母さん方はといえば、ごく普通でしたね。どちらかと言えば
キレイ系で上品な人ばかりで、上流夫人ってほどじゃないけど、
「素敵な奥さん」という感じ。食事中も押し黙った子供たちの横で、
先生を交えて賑やかに談笑してました。
女性陣も一緒にプールで泳いだんですが、
リゾート用なのか結構大胆な水着の方が多かったですね。
まあ、それでも「今どきの主婦」くらいにしか思いませんでした。
それから気になったのは、セミナーの内容です。
1回目のセミナーで視聴覚室に飲料水を持って行ったら、
ちょうど皆さんでビデオを見てたんです。水を注ぎながら
ちらっと見たんですが、「思春期の心と体」とかいうビデオで、
教育用だと思うんですけど、けっこう際どいというか。
男の子の下半身の写真が映ってたりして、こっちが恥ずかしくなりました。
心に問題を抱える子供の親御さんだし、こういう勉強も必要なのかな
…とも思いましたが、当の子供たちと一緒に観賞するのはちょっと…。
正直、かなり違和感を覚えました。
もちろん、私たちスタッフは研修内容に一切関与しません。
新興宗教でも自己啓発でも大事なお客様ですから。
その日も2回目のセミナー前に、先生から「申し訳ないが、スタッフの方は
セミナー中、部屋に出入りしないで」と頼まれ、その通りにしましたよ。
決定的に驚いたのが、2回目のセミナー後です。
私が視聴覚室を片付けて事務室へ戻ろうとしたら、
2階からM学園の一行が降りてきました。全員、夕食時から浴衣姿です。
事務室のすぐ脇が浴場の入口で、タオルも持ってましたから、
お風呂場へ行くんだなと分かりました。
うちの施設には、男女別で使えるよう、大人10人くらいずつ入れる浴場が
2カ所あります。その日は一応「男女混合」なので、2カ所ともお湯を張って、
それぞれ「殿方湯」「婦人湯」の暖簾を下げてありました。
一行は私に気付かないらしく、そのまま浴場の方へ。
そしてなんと…全員そろって「殿方湯」の暖簾をくぐったんです。
そりゃあ驚きましたよ。5、6歳の子供ならともかく、思春期の「男性」
ですからね。家族湯で親と入浴するのも恥ずかしい年頃でしょうに、
子供たちにすれば「友達の母親」と、母親たちにすれば「よその子供たち」と、
先生にしても「教え子」と混浴だなんて。
他に客がいない貸切とはいえ、にわかに信じられませんでした。
「そっちは男湯ですよ」と声を掛けるのもためらわれたんですが、
私も思わず一行の後を追って浴場へ向かいました。
自分でも動転していたんだと思います。でも、どこかに
「もしかしたら浴衣の下に水着か何かつけてるのかも」という
思いもあって、確認せずにはおられなかったんです。
見咎められたら「タオルを交換に来ました」と言い訳するつもりで、
無人の女湯から何枚か新しいタオルを持ち出し、
脱衣所の戸を少しだけ開いて中を覗いてみると…。
細い視界に飛び込んできたのは、全裸の男の子たち。
水着はおろか、タオルで前を隠そうともせず浴室へ向かいます。
全員を確認したわけじゃありませんが、下半身は基本的に子供でしたね。
それでも相応に成長してたし、薄っすらと毛が生えかけた子もいました。
続いて女性陣が視界を横切りました。タオルで前を覆ってる人もいましたが、
やはり皆さん全裸。先生を交えてお喋りしながら浴室へ向かう様子は、
本当に銭湯の女湯かサウナって感じでした。
さすがに脱衣所へは入れず、事務室へ戻って翌日の準備に掛かりました。
2時間ほど経ったでしょうか、浴場の方から話し声が聞こえてきたので、
そおっと見に行くと、M学園の一行が出てくるところでした。
入るときと同様、何の変哲もないお風呂上りの一家のようでしたが、
唯一違ったのが男の子がそれぞれ女性の1人と手をつないで出てきたこと。
一人ひとりの見分けがつかないので、自分の母親かどうかは分かりません。
「お風呂帰りの仲良し親子」と見えなくもありませんが、
背丈も母親と同じくらいにまで育った少年たちですから、
やっぱり妙な感覚を覚えましたね。☆ ☆
翌朝、指定の時刻にモーニングコールをかけ、M学園一行が朝食中、
寝間を片付けました。夜中じゅう、一行の正体が気になって
仕方ありませんでしたが、無理やり「私が変な目で見すぎ。
世間には色んな親子がいるんだから」と自分に言い聞かせました。
一行が寝間にしたのは和室の大広間です。
施設には個室や2人部屋、3~4人用の和室もありましたが、
お客様の希望で全員一緒の大部屋になりました。
20歳過ぎの女性スタッフと2人で布団を上げに行ったんですが、
寝間に入ってすぐ、またまた異様な雰囲気を感じました。
なんと言ったらいいか、男と女の「あの匂い」が立ち込めてたんです。
空調の関係で部屋を閉め切っていたせいもあるでしょうけど。
正直、うちの施設には色んなお客様が来ます。
男女混合で来た大学のサークル合宿の後には、寝室に同じような
例のすえた匂いがすることもあるし、使用済みのスキンが
ゴミ箱に放り込んであることもありました。
体育会男子の合宿では、エッチな雑誌と、あれの匂いがするティッシュが
大量に残っていたり。別に利用者の行動に制約はないので、
そんな痕跡を見つけても「あらまあ、元気ねえ」って感じで、
さっさと片付けたものです。
でも、今回は年端もいかない男の子たちです。
匂いだけじゃなくて、シーツには明らかな染みが残ってるし、
ゴミ箱にはスキンこそありませんでしたが、
ずっしりと重くて強烈な匂いを放つティッシュが大量に。
いちいち数えませんでしたが、何十枚という単位でしたね。
私は努めて冷静に片付けようとしたんですが、
かわいそうに同僚の女の子は、耳まで赤くしてました。
その子、前日は宿直で、この日はM学園ご一行を見送って勤務を終える
シフトだったんです。宿直の仕事に夜間の巡回があるんですが、
布団を運びながら私に耳打ちしてくれました。
「昨夜の巡回で、真夜中過ぎだと思うんですけど、広間前の廊下の非常灯が消えてるのを見つけたんです。単なる電球切れだったんですけど、取り替えてたら広間の中から変な声が聞こえてきて…。

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