悲しいセックス

2023/11/03

私が以前付き合っていたカオルという女性は、23歳という若さでがんに侵されてしまいました。

付き合いだした頃に、もともと食が細い上に、酒が好きでよく飲んでいて、みるみるやせていったのです。

不健康と感じたし、尋常じゃないやせ方で、居酒屋の店員をしていたカオルは、仕事中に倒れてしまったのです。

医者に診てもらったところ、大きな病院で精密検査を受けたほうがいいとの事で、入院すると、癌で手の施しようが無いとの宣告を受けました。

私は打ちのめされました。

カオルは小さい頃に、両親が離婚するというのに、どちらにも引き取ってもらえず、悪く言えば捨てられたのです。
不幸な境遇ですが、施設で生き抜き、居酒屋で働き始めた頃に私と知り合いました。

性格は明るく、思いやりがあって、私は飲食業をやっていて、独立したい考えがあって、できれば一緒に店を出そうかという話もしていました。

カオルとはまだ肉体関係は無く、キスくらいだけの関係でした。

彼女本人には、宣告してないけれど、彼女も重い病気というのは、察したようで、

「ケンチャン(私)、こんな大きな病院でお金かかるんでしょ。ケンちゃんにこれ以上借りられないよ。私の施設の知り合いに頼んで紹介してもらえば大丈夫だから。迷惑かけらんないよ。」

「いいんだって。気にすんなよ。俺、リーマン時代に、結構お金ためてたから、独立の資金で。すぐに店なんて出さなくていいからさ、カオルは元気になることだけ考えてろよ。」

「本当にいいの?」

「当たり前だって。俺、カオルの彼氏ってだけでなくてさ、親だと思ってくれよ。こんな親も変だけれどさ、な。」

「ありがとう・・・」

カオルとキスをする。

キスの味が、薬の味がするのが、切なく、これからの多難を予感させた。

カオルの病状は若いから、どんどん進行し始め、歩くのも手助けが必要なくらいだった。

医者に聞くと、『そろそろ覚悟が必要です。今比較的、何とか落ち着いてますから、近場でよかったらどこか温泉でも行かれては・・・』

外泊の許可をもらい、私達は湘南へ車で出かけた。

カオルは張り切って、おにぎりと弁当を作ってはしゃいでいた。

私はグッとこみ上げる涙をこらえて車を走らせた。

「やっぱり、海っていいよね。見てると、嫌なこと、大変なこと、全部忘れてしまうね。ケンチャンも今まで付き合ってくれて、嬉しかった。ありがとうね。」

横顔を見るとやせた顔で、生気が無いが、満足げな、穏やかな顔だった。私は涙をこらえず、流した。

「なに、ケンチャン泣かないでよ。ケンチャン私を受け止めてくれて、感謝の気持ちしかないんだからね。そろそろご飯食べる?」

海で夕暮れまで遊び、ホテルに行った私達は、夕食が用意され、止められている酒をカオルに呑ませた。

おいしそうに舐めるように呑んでいた。

夜景を見て一心地ついていると、

「ひとつお願いがあるの。今までケンチャン我慢してくれたのか、わかんないけど、抱いてほしいの。もうできるの最後かもしれないから。恥ずかしいんだけれど、ケンチャンを私にきざみつけてから逝きたいの。」

「なに言ってんだよ。今死ぬみたいなこと言うなよ。元気になったら、いくらだってやってやるよ。」

「なんとなく、判るの。今日が・・・最後・・・お願い!!」

切実な目で見つめるカオルに私は折れた。

浴衣を脱ぐとやせた体が、目につくが、気にせず愛撫した。

いくら末期の、癌患者を目の前にしても、セックスし始めれば、男である。

しっかりと勃起した私は、優しく、そして時に力強くカオルの体を抱いた。

だんだんと赤みを帯びてきて、しっとりと汗ばんできて、

「いいっ、ケンチャン、あっあっ、すてき・・・ありがとう・・・泣かないで・・・」

私は泣きながら、セックスしていたのだ。

絶頂を迎えた私は、全部中へ放出した。ま〇こから大量の精子が流れ出た。

おそらく最初で最後のセックスだ。そうそう奇跡は起こるものでもない。カオルを抱きしめた。

それから、半月もしないうちにカオルは、私が、仕事中にあっさりと逝った。

「なにも、両親から見捨てられたからって、1人で逝くことないだろ。」私は激しく嗚咽した。

病院のスタッフが、カオルの手紙を預かっているというので、開くと、

『ケンチャンに、面と向かって言えないので、手紙を書きますね。今まで本当にありがとう。
私は両親を恨みましたが、ケンチャンと出会ってから、やさしく、ひょうきんで忘れることができて、どんなに嬉しかったことか・・・。
最後に私のガリガリの体も無理言って・・・ケンチャンとのエッチすてきでした。
ケンチャン最近泣いてばかりいたけれど、私のために悲しまないでね。
彼女作って、幸せになってね。
最後にひとつお願いなんですけど、私をあの楽しかった、湘南の海に散骨してもらえるでしょうか。お願いします。
あの日は楽しかった。
ありがとう、ケンチャン。』

私は言う通りに、ひとかけらの骨を貰い、残りは湘南の海に散骨した。

その夜、金縛りにあい、私はカオルだ!と直感し、胸の中で、

「カオル、俺の方こそありがとう。よくがんばった。・・・よく戦った。・・・ゆっくり休んでくれ。いつか俺もそっちに行くまでお別れだ。元気でな。」

と念じると、フッと体が軽くなり、温かい涙が流れた。

すがすがしい気分で、再生できた。

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