傷つける指

2018/11/18

朝、学校に出かける私の歩調は軽快だった。
ざわめいた教室に入れば、友達の笑顔に囲まれる…。
さて、中学校は公立それとも私立先生は、両親達ともよく話し合って…と念を押す。
「あっ、あなたは、よくお父さんと話し合ってね…。」先生は、家庭の事情を察する。
私の席、教室の片隅。
背の高い掃除道具があって、今にも倒れそうな程。
ここで、私は家に戻ってからの事を考えてる。
中学校の事、そして…。
机に広げられた教科書、真っ白なノート。
私は、ノートの上に左手を広げた。
ポケットに忍ばせていたカッターを取り出す…。
センチ程銀の刃をスライドさせて、薬指に当てた。
「痛っ…」でも、声を殺す。
教室の片隅、誰にも気づかれない…。
スポイトを押したみたいに、赤い血がノートにポタポタ落ちている。
普通だったら驚くのに、もう私は何とも思わない…。
母の記憶。
実は、私が覚えているのは、顔よりも指。
母の荒れた指先。
水仕事をし過ぎたのだろうか…。
母は、よく私を膝の上に乗せてくれた。
冬の寒い頃、よく私の腿を摩ってくれた…。
「寒くない」
「うん、寒くないよ…。」母の荒れた手が、ちょっとトゲトゲして痛かった。
でも、母の優しさが好きだった。
学校が終わる。
私の足取りは重い…。
母を亡くしてから、父は変わった。
誰もが格好良いと誉めてくれた父が、まさかと思う程に…。
夜、父が仕事から戻る。
「お帰りなさい…。」父の返事はない。
じっと見つめるような父の眼が、私を刺すみたいに…。
「はい…。」三つ編みの髪を揺らすようにして頷く私。
最初は信じられない事だった。
いえ、信じたくない事だった…。
でも、もう私は、父と二人きりの生活の中で、慣れる事にした。
父は、暴力などふるわない…。
全裸の私。
父の寝室に入り、敷かれた布団の上をよろめく様に這い進む。
父のモノは、私に触れられる前から、すでに張り詰めていた。
私は、父のあぐらをかいた毛脛に凭れるように…。
触れた父のモノ、とても熱い…。
父のゴツゴツした私の髪を撫でる。
それは、父から私への言葉のない合図。
カッターで切った傷が、私の指先に数箇所。
私の指で握られた父のモノは硬くなり、血管を浮き上がらせて激しく脈打つ。
父のにおいが漂う。
酸っぱいような、苦味のあるような…私の大嫌いなにおい。
ダンディだった父が、浮浪者みたいになってしまった…。
愛していた母を失った父を思うと、可哀想で仕方ない。
父のモノから放たれるにおい…。
私は、息を止めるように、鼻の感覚を殺すように…。
父のモノに口付ける。
急いで、舌を這わせる。
私は、唾液で包むようにしながら、脈打つモノを隅々まで舐めてゆく。
父のにおいが薄れるし、父も快感に酔ってくれる。
一年もこうしていると、体が覚えてしまう…。
それは、本当に悲しい事で、おぞましい事。
父のモノを咥える自分が嫌いだ…。
本当は、泣きたい。
泣いて、誰かに抱きつきたい。
いやだぁ…って、泣きたいのに…。
涙が出ない。
どうしてだろう父の人形になってしまった私。
父の太股を摩りながら、私は父のモノを、まるでキャンディーのように…。
やがて、父の手のひらが、私の頭を押し下げる。
「うっ…。」父の湿った声。
私は、喉の奥を突かれて、死に物狂いで掠れ声を漏らす。
それは、悲しい笛の音みたいに…。
髪の毛ごと強く掴んだ私の頭を、父は激しく上下する。
三つ編みの根元からおくれ毛が何本か跳ね出す。
私の汗で濡れた頬や額にくっついて…。
「喜代子…」父の咽び泣くような声。
それを聴くと、私は泣きそうになる…。
無感情のまま、父のモノをしゃぶる私なのに…。
だって、父は…母の名前を呼び、私の頭を掴んでいる。
私の小さな背中やお尻を見下ろして、快感に酔って、母の名を呼ぶ…。
お父さん…私、お母さんに似ているの私、お母さんみたいに優しくなれないよ…。
父は、私を母に見立てている。
父は、私を母であると思い込もうとしている…。
だって、父は私を抱く時、私を見ない。
私と眼を合わせない。
父が絶頂に達した。
父のモノが口の中でピクンとひきつけを起こし、私の口内は父の精液で満ちる。
うっ…、息が出来ない。
ネットリした生温かい汁が鼻の中にまで逆流する。
涙が滲む。
胸の奥に痛みが走ったせい…。
父は、私のもっともっと深い所に流し込もうとするかのように、私の頭を押す。
いよいよ息が出来ない…。
咳き込む事さえかなわず、意識が薄れる。
こういう時、どうすればいいか…。
そう、父の波打つような精液を飲み干せばいい。
私は、喉を鳴らして父の射精に応える…。
最初に飲まされた時、父の苦いオシッコだと思った。
でも、やがて、それを「卵」だと知った。
数え切れない程の卵を…父の体の中から出た卵を、私は飲んだ…。
本当は、私の口ではなくて、私のアソコで飲む事も…知っている。
ああ…。
最後に父のモノを綺麗に舐めると、私はゆっくりと這って襖へ向かう…。
父は、まるで何もなかったかのように…、シミだらけの背中を向けている。
おやすみなさい…の言葉もないまま、私は自分の部屋へ…。
ペタンペタンと素足が廊下に音を立てる。
ふと口ずさんでみる…。
母の唄ってくれた子守唄。
父の精液と私の唾液で光る…私の唇から漏れる小さな音色。
この声、お母さんに似ていない…。

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