今年20歳になった俺の妹。

2018/02/25

今年20歳になった俺の妹。
その日の深夜、妹がベロベロに酔っ払った状態で家に帰ってきた。
千鳥足をしながら自分の部屋に戻るなり、周りの家族の事などを
お構いなしに大声を上げながらワンワン泣き出し始めた。
その日は最近になって交際を始めた彼氏とのデートだったはず。
妹のその様子から俺が見たところ、どうやらまた失恋したらしい。
これで俺が知ってるだけで5人目。
長く続いたのを俺は見た事がない。
俺の部屋は妹の隣だから当然のようにその泣き声は俺の耳にも届いた。
あんまり泣き続けてるので妹の事が心配になった俺は妹の部屋を
覗いてみればベットの上で突っ伏したままで相変わらず泣いていた。
妹の事が心配になった俺が妹に「おい、大丈夫か?」と、優しく聞くと
「お兄ちゃんが悪いのよ!」と言っただけでまた大声で泣き出した。
俺には全く身に覚えもなく心当たりもない事を怒りを剥き出しにして
唐突に言われた俺は咄嗟に言葉を返した。
「はぁ!?何で俺が悪いんだよ???」と。
俺は無性に腹が立っていた。
そんな俺の言葉に妹はたった一言こう答えただけだった。
「お兄ちゃんの馬鹿ーーーっ!!」
そしてまたベットに突っ伏して泣くだけ。
これでは取り入る隙もない。
勢いで怒ってしまったがやはり自分の可愛い妹だ。
俺は心配だった・・
酔っ払って帰ってくる。
そして部屋に閉じ篭って泣きじゃくる・・・。
過去に同じような光景を見た事はあったがその日はいつもと違ってた。
こうも失恋を連発したのでは兄貴の立場としては妹が不憫でならない。
そこで俺は妹を励まそうと思った。
何てことないありきたりの言葉で。
「まぁ、元気出せよ。その内、いい男が見つかるって!」
そんな俺の気の利かない台詞も妹の耳に届いたのか届かなかったのかは
知らないが何かの言葉が返ってくる事もなく部屋の中には単調な泣き声と
時折、咳き込む嗚咽だけが響いていた。
しばらくの間そんな状態が続いた。
どうする事も出来ずに妹に対して兄としてやるべき事はやったのだからと
自分を納得させた俺は部屋を立ち去ろうとドアノブに手を掛けた。
妹はもう立派な成人なんだからいくら兄貴でもこれ以上の事はと考えた。
すると妹が急に泣き止み、それまでの喧騒が嘘のように部屋が静かになった。
「ちょっと待って・・・」
僅かばかりの静寂を切り裂くように言ったのは他の誰でもない俺の妹だった。
その時の俺には特別な感情はなく妹に呼びとめられたのでそれに反応して
答えたに過ぎなかった。
あいつは俺の妹だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
「んっ?何だ?」
俺が呼び掛けられた方を振り返るとベットの上に上半身だけ起して座り、
目を泣き腫らした妹が黙って俺の方をみつめていた。
流れてた涙も止まり、さっきまでの怒りに満ちた表情ではなく例えようがない
表情でこっちを見ていた。
それは過去に1度も見た事がない表情だった。
俺は妹の表情が多少気になったものの、迷うことなく妹の傍らに歩み寄った。
「どうした?」
俺はまるで大人が泣いてる小さい子供をあやす時のように妹に語り掛けた。
妹がまだ子供の頃、こんな風によくあやしてやった。
その妹も今は大人だ。
俺の問い掛けに妹は俺から視線を反らし、やや下を向いてうつむいてから
つぶやくように答えた。
「お兄ちゃん、彼女いるの?」
俺は妹からのごくありふれた普通の質問に意表を突かれてしまい無意識の内に
身体に力が入ってしまっていたのだろうか、何となく気持ちが切れてしまった
ような錯覚に襲われてしまった。
俺としては意識してないつもりだったのに。
妹はそんな俺の気持ちなど知らないと言わんばかりに言葉を紡いだ。
「彼女いるの?いないの?」と。
その頃の俺には彼女呼ぶ者は存在してなかった。
つい最近まで交際してた女に
振られてしまって誰も住んでない全くの空家状態であった。
「あぁ・・・彼女はいない。女とは別れたんだよ」
「・・・そっか」
その時、俺の答えにあいつがどう思ったのか、どう感じたのかは今になっても
分からない。
それでも俺達は自分でも気付かぬ間に前に進もうとしていた。
あの時、俺は「彼女はいるよ」と言うべきだったのだろうか?
俺は今でもこう思う事がある。
それでも俺はそれを口に出して言う事はない。
「お互いに連れ無しかぁ。まぁ、何とかなるだろう」
俺はそう言いながらベットに腰を下ろした。
妹の部屋に漂う化粧品の甘い香りと
相反するアルコール臭が鼻を刺激した。
妹は相当酒を飲んできたに違い。
1メートル強離れてても酒に匂いがする。
そんな中で俺はふと思った事がある。
何気に妹の部屋に入ってきたものの考えてみれば久しぶりの事だった。
俺達兄妹は昔から仲が良い方ではあったがいくら仲が良くてもそれはそれ。
お互いの年齢が高くなるに従って兄と妹としての会話も少なくっていた。
「彼女って、何かあるの?お前に関係があるのか?」
俺が妹にそう尋ねると何処か一点だけ見つめて、何かを考え込んでるような
素振りはしてるが何も答えようとはしない。
妹が俺に対して何か言いたい事があるのは雰囲気から何となく判っていた。
その内容こそ伺い知る由もない。
それでも何かを言いたいようだった。
このままでは間が持たない。
俺は何とか場の雰囲気を取り繕いたと考えた。
特別理由こそなかったが久しぶりで兄と妹で膝を突き合わせながら会話が
出来そうなせっかくの機会なので間を持たせる意味で何かをしたいと考えた。
そこで1つの案が頭の中をよぎったのである。
(ともかく今は酒だ。酒がいい)
俺は黙ったままの妹に「ちょっと酒でも飲むか?」と声を掛けてから静かに
ベットから立ち上がった。
妹は首を振り「うん、飲む」と頷くだけだった。
それから俺は妹の視線を背後に感じつつ、一旦部屋から出て1階へ歩を進めた。
無論、その目的はただ1つ。
酒の捕獲である。
俺は1階に向かうその短い時間の間で妹が俺に向けていた眼差しの意味を
自分なりに考えてみた。
それは筆舌しがたい視線だが見つめられると不思議な
気分に襲わる。
そして視線が外せなくなってしまうような錯覚に囚われた。
階下にある家の台所へ向かう途中にある居間の扉が僅かに開いてて、その中から
蛍光灯の灯りが漏れ出していた。
いつもならその時間には真っ暗なはずの居間から
灯りが見えたので何か気になった俺が部屋を覗いてみれば部屋の中には母親がいた。
俺の父親は朝がかなり早い。
その父に弁当を手渡すために母も朝早く起きる。
その時、時計の針は夜中の12時を回ってたのでいつもなら寝てる時間のはずだ。
俺は居間の中にいる母に「まだ起きてるのか?」と声を掛けた。
すると母の口から「○美は?」と言う答えが返ってきた。
母からその言葉を聞いた俺は全てを悟った。
母は失恋した妹を心配して無理して
起きてた言う事に。
俺はやはりこの人は母親だと思った。
「大丈夫!(だと思う・・・)」俺は心配してる母を安心させるために答えた。
「そう・・・」俺の言葉を聞いて安心したのか母がその場に立ち上がって、失意の
子供のことなどお構いなしに昏々と眠り続けてる父がいる寝室へと姿を消した。
それを見届けた俺は台所の冷蔵庫の中にあったビールを何本か、それと翌日の
父の弁当のおかずにするため作ってあったのだろう、弁当のおかずを少々無断で
拝借して妹が待つ2階の部屋へと向かった。
兄は妹を拒否出来ない。
これが兄として生まれてきた者の性である。
俺が部屋に戻ると、妹が流した大量の涙で乱れてしまった化粧を直していた。
別に直さなくてもいいのにと思ったが、泣いてる姿よりは笑ってる事に
越した事がないなと思ったので妹を咎める事はせず、その様子を見てようと
思ったが、妹のとどめの「恥ずかしいから見ないで!」の一言で結局俺は
化粧直しが終わるまでの間、部屋の外で待たされる羽目になった。
兄と妹なのに化粧を直す程度の事で何が恥ずかしいのか。
待つ途中で何度もう止めようと思っただろう。
それでも兄としての本能が
それを押し留め、下から持ってきた缶ビールを片手に苛立ちながら時間にして
約15分程度、妹からようやく入室の許可が下りた。
俺が部屋に入ると妹は先程までの情けない姿とは見違えてしまう位に変身を
遂げた妹がベットの上でたたずんでいた。
化粧の化の字は化けるの「化」。
「どうぞ!」と妹が手招きして俺に座るように促すのを見て咄嗟にこう思った。
お前はキャバ嬢かよ?。
さっきまでのあれは何だったのか・・・。
俺は微塵の抵抗も感じないまま妹の手招きに誘われるかのように隣に腰を
下ろして、出来たその間の空間に持ってきたビールをバラバラとばら撒いた。
今だけは何も思わず何も考えず、ともかく妹と酒を酌み交わしたいと思った。
そして「乾杯!!」。
妹と語ったこの一言が全ての始まりの合図となった。
それから俺達は色々な話をした。
妹が通う大学の事と俺の仕事の事等々etc。
妹とこんな風に話したのは一体何年振りだろう、あれからお互いに成長した。
まるで父親が娘の事を見るかのような眼差しで見ていたような気がする。
改めて見直してみると大人になった妹は本当に綺麗になっていた。
そして話題の最後はお互いの異性関係の話…

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