妹の告白

2022/04/16

先週の日曜日に妹と映画を見た。
朝九時くらいに妹に起こされた。そそくさと着替えてから軽い朝食を済ませ、俺はバイクを出し
二人乗りでTSUTAYAへ行った。妹が前から見たがっていた『ゼブラーマン』と、俺が見たかった
『実録新撰組』を借りてきた。
一度家に戻り、ヘルメットや借りてきたDVDを居間に起き、妹と近くのコンビニへ行った。
俺は三週間ぶりの休みで、家でゆっくり過ごせると思い、ビール数本とツマミを、妹にはジュース
とお菓子を買ってあげた。最近部活を頑張ってるらしい妹は、普段お菓子などを我慢してるみたいで
今日はここぞとばかり買っていた。
家に帰ってから、妹は手早く飲み物やお菓子をテーブルに広げ、『ゼブラーマン』をセットし、
「兄ちゃん早く?!」とグラスや氷を用意している俺を急かすように呼ぶ。お昼くらいから見始めた
『ゼブラーマン』は意外に面白くて、二人とも笑いながら見ていた。ビールも一本二本とすすんだ。
映画が終わり俺はトイレへ行った。戻ってきてテーブルに置いていたビールを飲もうと缶と持つと
カラになっていた。まだ二口程しか飲んでいなかったのだが。ふと横を見るとのぞみがニコニコしながら
こっちを見ている。
「お前飲んだのか?」
と聞くと
「うん。ちょっとだけ。でも・・・ビールってマズイんだね?」
と言って舌をペロッと出した。
「お前、未成年だろう。前にも飲んだ事あるのか?」
とタバコに火を点けながら聞くと
「ないよ?!初めて飲んだ。兄ちゃんがすっごくおいしそうに飲んでたからさ?。ちょっとだけ」
俺がトイレへ行ってる三分くらいの間に、二口くらいしか飲んでいない500ml缶を
全部飲んだのかと呆れながら「もうダメだぞ」と言って冷蔵庫からビールを出した。のぞみにはグラスに
ジュースを注いで出してあげた。
「ごめんね。あたしお兄ちゃんと会うの久しぶりだったし・・・」
ぼそぼそと言っている。
「いいよ。それより『新撰組』見るか?」
テーブルを片付けながら聞く。
「ん?ちょっと休憩?。っていうか時代劇じゃん」
そう言いながら片付けを手伝ってくれている。
二人でソファに座りながらいま見た『ゼブラーマン』の話で盛り上がる。こういう子供特有のはしゃぎ
かたは中学三年になった今も変わらない。
新しいタバコに火を点ける。一口吸って、いつもどおりふぅ?っと煙を吐く。ふとのぞみを見ると俺の右手
を見ている。いや、タバコを見ていた。
「どうした?」
「う?ん、タバコっておいしいの?」
俺の右手に視線を落としたまま聞いてくる。
「おいしいね?。社会人に特に」
ビールを一口飲む。これもうまい。すると
「ね、一回だけタバコ吸って見てもいい?」
俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。
「だめだめ。酒もタバコも大人になってからな。ってか女の子はタバコ吸っちゃだめ」
タバコを消し、残ってたビールを飲んで缶を捨てる。俺もグラスを出しお茶を注いだ。
「どうしたんだ、今日は。いきなりビール飲んだりタバコ吸いたいって言ったり」
体をこっちに向けてお菓子を食べながら
「ん?別に・・・ちょっと大人の気分を味わってみたかっただけだよ」
そう言いながらグラス俺に突き出す。お茶を注いであげながら
「大人のって・・・。お前普段は大丈夫か?吸ったりしてないよな?」
「吸ってないよ?」
そう言いながらテレビの方を向く。気のせいか今までより声のトーンが低い。
「いいか?とにかく酒はもうだめだからな。まだ子供なんだから」
「・・・」
返事が無い。
言い過ぎていじけたかなと思いながらも俺もソファに座って、テレビのリモコンをとる。
「テレビ見ようか」
スイッチを入れる。
ドラマの再放送にワイドショー、バラエティー番組とチャンネルと替えながら、チラッと
のぞみを見る。膝の上に顔を乗せ、前に組んだ腕の指先辺りに視線を落としている。俺の視線に
気づいてはいるだろうが、なんとなくのぞみがいじけてる様に見える。しばらくテレビを見て
いたが、急に黙り込んでしまったのぞみとの空気が気まずくなり
「どうした?」
肘でのぞみの肩をつついた。
「・・・」
「・・・いじけてんのか?」
「・・・」
「・・・なんかあったの?」
全く反応が無い。
俺はまたタバコを吸いながら、斜め前に膝を抱いて座っているのぞみの横顔と
テレビを交互に見ながら、吐く煙にため息をのせた。
お茶を取りに立ち上がったとき、のぞみが俺の方に少しだけ体を向けた。目の端で俺の膝辺りを
見ている。俺も一瞬動きを止めて
「ん?どうした?」
少し柔らかい口調で聞いた。が、のぞみはゆっくり首を横に振ってまたさっきと同じ体勢に戻った。
冷蔵庫からお茶と紅茶を持ってきて横に座り、テーブルからのぞみのグラスを取り紅茶を注いで渡すが、
下を向いたまま受け取ろうとしない。
「ほら・・・」
グラスを顔の前に突き出すが首を横に振る。少しのぞみの横顔を見て、グラスをテーブルに戻そうと
体を動かしたとき、俺のジーパンの裾をのぞみが摘んだ。
「・・・ちゃん・・・な・と・・・いる・・・?」
聞き取れない小さな声で何か言ってきた。
いつもは凄く元気なのぞみの、今はとても弱々しい声に少し戸惑いながら
「・・・ん?何?」
そう聞き返しながらテーブルに置きかけたグラスを自分の方へ戻し一口、ゆっくり飲んだ。またテレビの
音だけになったが、すぐに俺の方に顔を向け、少し震えた消えそうなか細い声で
「・・・兄ちゃん・・・好き・・・な人・・・いるん・・・だよね?」
目を合わせたり反らしたし、落ち着かない表情で、少し泣きそうな顔でそう聞いてきた。
なぜか胸の奥が、ほんの少しだけ、痛みに似た苦しさを感じた。
なぜかはわからない。不意に感じた苦しさだった。
のぞみは今まで俺にそんな顔を見せた事はない。初めて見たのぞみだ。またうつむいてしまったのぞみを
見ながら、いつもと違う、違和感を感じる喉から声を押し出した。
「・・・ん?なんで?」
声がおかしい。かすれている。
また沈黙になった。
俺はたまにのぞみを見ては、どこを見るでもなく床に視線を落としていた。
一つわざとらしくなってしまった咳払いをして
「・・・どうした?」
そう聞いて紅茶を飲み、グラスをテーブルに置く。カコッと乾いた音と同時に、のぞみはゆっくり顔を
上げ、涙ぐんだ目で肩越しに俺を見て
「・・・前に・・・付き合ってた人の・・・こと、・・・まだ・・・好きなの?」
今度はまっすぐ俺を見ている。
さっきとは違う痛みが胸の奥でする。
確かに半年くらい前までおれには彼女がいた。二年程付き合っていたが最後はグダグダで、あまり良い別れ方
ではなかった。たまに思い出すが未練を持つこともなかった。だからは好きだと言う感情どころか、むしろ
最近は忘れていた事だった。
のぞみの言葉で久しぶりに、思い出した。
俺を見つめるまっすぐな目から見ながら
「いや、全然。っていうか忘れてたよ。何で?」
声はいつものトーンで出た。
別れたのって半年くらい前だよ。あんまり良い思い出じゃないしな?」
最近の俺にとって元カノの事など本当にどうでもいい事だった。のぞみの口から今日こんな話がでるなんて
思ってもみなかったから、正直、少し驚いた。
俺の言葉に何か思ったのか、少し顔を上げた。
「・・・だって、・・・まだ写真持ってるじゃん・・・」
また俺のジーパンの裾を握っている。
(ん?写真?そんなのあったっけ?全部捨てたけど・・・)
確かに付き合っていた頃は、デートのときに写真やプリクラを撮ったりしたが、今は全部捨てたはずだ。
もう俺の部屋には残ってないと思うんだが。
「いや、写真とかは全部すてたよ、俺。もういらないし」
俺がそう言うと、握ってるジーパンを少し引っ張ってまたうつむいた。
「・・・うそ。・・・押し入れの箱の中に入ってたもん・・・」
は?と思いながら俺は押し入れへと目をやった。そしてのぞみの手をほどくと部屋の角にある押し入れの
ドアを開いた。小さい箱やダンボールなどが何個かあるのだが、普段は使わない物を入れておくだけだから、
どの箱に何が入っているかなんて覚えていない。手当たり次第探してみる。
「・・・みかんの箱・・・」
今までよりは少しだけ大きい声でのぞみが言った。
奥にあるみかんの箱を取り出した。中には古いCDや目覚まし時計、小さいスピーカーなんかが入って
いて、一番上に確かに元カノの写真があった。日付が十二月二十五日になっている。クリスマスに家で
撮ったのを思い出した。少し懐かしかったが、特に何の感情もない。何度も言うが本当にどうでもいい
思い出になっているのだ。
「ほんとだ。あったよ。なんでお前知ってたんだ?」
「・・・兄ちゃんの部屋、・・・掃除してたら・・・見つけちゃったんだもん・・・」
いつの間にか持っていたグラスに口をつけながら、少し不機嫌そうな涙声で言う。
「てかなんでこんなとこにあるんだ?」
付き合ってたときは写真はまとめてしまってたはずだが、なぜここにあるのか、全然記憶に無い。たぶん
何かの拍子に紛れ込んだのだろう。仮に今でも大切な思い出のものなら、押し入れには入れておかないだ
ろう。ましてみかんの箱なんかには。
「掃除とか何かで紛れ込んだかな?」
俺がそう言うと、のぞみは脚をくずし体を俺に向けて
「その写真クリスマスのだし大切なものじゃないの?」
まだ少し涙声だ。
「え?いや、俺あいつのことなんとも思ってないよ?どっちかって言うとあんまり思い出したくないし、
この写真も紛れ込んでただけだろ?写真、全部捨ててるし、これも捨てるよ」
そう言ってから写真をくちゃくちゃに丸めて、ごみ箱へ放り投げた。
そして外れた。
近くに転がってきたそれをのぞみは拾い上げ、ほんの少しの時間見つめてごみ箱にそっと捨てた。
のぞみは少し肩を前にせり出し、うつむき軽く唇を噛んだ。
「・・・ほんとに・・・もう・・・好きじゃない?」
「あぁ」
「・・・ほんとに?」
「うん?・・・あぁ」
涙で濡れた上目使いで俺を見る。
その目に一瞬、「妙な感覚」を胸に感じた。しかしそれを遮るようにのぞみが続ける。
「あたし・・・兄ちゃんがまだ・・・あの人のこと・・・好きだってずっと・・・ずっと思ってた。
・・・だから・・・」
またうつむく。そして一筋、頬を涙が伝った。
不意に俺の目は涙の跡をたどった。急に息が詰まった。
「・・・だから?」
『ゼブラーマン』を見終わってからののぞみの言葉や態度が、頭の中を何度もよぎる。
のぞみの涙。痛みに似た苦しさ。初めて見せた顔。さっき感じた「妙な感覚」。
そしてそれらが俺の頭で一つの言葉を紡いでゆく。
「・・・あの人に・・・負けたくなかった。・・・兄ちゃんと同い年だし・・・大人だし・・・」
顔を上げて俺の目を見つめる。幾筋もの涙があふれていた。
「・・・兄ちゃん、あたしの事・・・ずっと子供扱いだし・・・。あたし・・・兄ちゃんが
・・・あの人と付き合ってるとき・・・あたし・・・あたし寂しかったぁ!」
今にも崩れそうになりながらも、涙を払い、のぞみは続ける。
「あたしだって兄ちゃんとずっと一緒にいたい!」
のぞみの目と言葉にに捕らえられ、言葉が出なかった。
ただ、頭の中に紡がれた言葉ははっきりしていた。
「あたしね・・・。あたし・・・兄ちゃんの・・・。兄ちゃんの事・・・」
もう次の言葉はわかっていた。
「兄ちゃんが・・・す・・き・・・」
そう言って俺の胸へと抱きついてきた。いや、抱きつくというよりは離れないように、必死にしがみついて
いるような感じだ。そして胸の奥で押し殺していたであろう想いがあふれだした。
俺は動けなかった。
「ずっと・・・ずっと言えなかった!言ったら兄ちゃんに嫌われるって・・・。迷惑かもって!
でも・・・でもあたし・・・兄ちゃんが好き!ずっと好きだったぁ!もう寂しいのはヤダァ!兄ちゃんの
そばにいたいの!」
俺の肩に腕を絡ませ、必死にしがみついている。
「あたしもう子供じゃない!兄ちゃんが好き!大好きだよ?!」
あふれだした想いに、のぞみは、声を出して泣いた。
言葉が出ない。体が動かない。のぞみの泣き声と体温だけがおれの体に入ってくる。
この部屋だけ時間が止まっている。動かない。いや、そうでない事はわかっている。
そして、たぶんだが、そのときのぞみの頬と俺の頬がふれた。その瞬間、固まってしまった体が
ピクッと動いた。時間が動き出した。
必死にしがみついているのぞみの両肩に手をあてる。
「のぞみ・・・」
俺はゆっくりのぞみの体を離そうとした。
「やだ!・・・お願いこのままでいさせてぇ・・・」
のぞみの涙が俺の頬を伝って、そして、流れた。
何度も何度も流れた。
頭の中が真っ白だった。言葉が思い浮かばない。それでも体は動いた。
俺の両腕が、ゆっくりと、のぞみを・・・抱きしめた。
「・・・!」
泣き声が、とまった。
「・・・に・ぃ・ちゃん・・・」
そして今までよりも強くしがみつき、また泣き出した。
俺はのぞみの頭を撫でた。何度も。何度も。

どのくらい時間がたったのだろうか。気がつくと泣き声は聞こえなくなっていた。
二人の頬の間に、まだのぞみの涙を感じられる。
まだそんなには時間は進んでいないのかもしれない。
まだ泣いているのだろうか。
のぞみのやわらかい髪を撫でながら
「のぞみ・・・」
そう呼んだ。
頬がのぞみの返事を感じる。
「・・・ありがとな。・・・俺のこと・・・好きになってくれて」
素直に出た言葉だった。
「・・・うれしいよ、俺」
手を止め、もう少しだけ強く抱きしめる。
「・・・こんなに・・・寂しい思いさせてたって・・・気づかなかったよ。・・・ごめんな」
「・・・兄ちゃん・・・」
か細い声でそう俺を呼ぶのぞみが、とても愛しく感じられた。
胸を締めつける感覚。
「・・・」
少し体を離して、のぞみの顔を見る。まだ少し涙に濡れた目で、俺を見つめる。
「・・・俺ものぞみのこと・・・好きだけど・・・」
続く言葉が口から出てこない。
「・・・うん、わかってる。・・・だって・・・あたしたち・・・」
「・・・」
のぞみは少しうつむいて、俺の肩に顔を預けた。
そして俺の手を握った。
「なんか、いきなりごめんね」
のぞみはすこし明るく言った。そしてグスっと鼻をすすった。
「すごい泣いちゃったし」
肩に寄りかかりながら言う。
「なんか、写真見て勘違いしちゃったみたい・・・」
「・・・うん」
肩に視線を落として答える。
「なんか、いろいろ考えちゃったら、とまらなくなっちゃった
「・・・うん。・・・そっか」
「でも・・・すっきりした」
「・・・うん」
「ビール・・・マズいね」
くすっと笑う。
それが俺の胸の締めつけを、だいぶ楽にしてくれた。
「・・・大人になるまで飲んじゃだめだぞ」
「うん。わかってる」
そう言って体をおこした.
「ほんと、なんか、ごめんね」
恥ずかしそうに髪を直している。いつもどおりの笑顔を見せた。
「もう、なんか恥ずかしいね。顔ぐちゃぐちゃだし」
頬についた涙を袖で拭きながら
「喉渇いたね」
と言ってテーブルに手を伸ばし、すっかりぬるくなっている紅茶を取り、一口飲んだ。
「俺にも。・・・あ?やっぱりビールがいいな」
「え?また飲むの?」
そう言いながらもしょうがないなぁという顔をして、冷蔵庫から取ってきてくれた。
横に座って、「はい。兄ちゃん」と笑顔でビールを渡してくれた。
俺は一度のぞみの名前を呼んで、額にキスをした。
のぞみは驚いた顔をしたが、額に手をあてて
「ありがとう。兄ちゃん」
笑顔でそう言ってくれた。
「実録新撰組見るか?」
「え?時代劇でしょ?わかんないよ?。それに出てるのみんなオジサンじゃん」
「お前、新撰組おもしろいんだぞ」
「だって知らないもん」
「じゃあ司馬遼太郎貸すから読めよ」
「え?いいよ。・・・でも兄ちゃんのだから貰ってくね」
「いや、ちゃんと返せよ」
すっかりいつもどおりの二人の会話に戻っている。
今日俺はのぞみの正直な気持ちを知って、凄く嬉しいと思った。
これから、もっともっと大切にしていこうと思った。
「ねぇ兄ちゃん」
「ん?」
「これからは、あたしの事、名前で呼んでくれないかな・・・」
恥ずかしそうに言って、下を向いている。
「わかったよ。のぞみ」
照れて笑っているのぞみがすごくかわいかった。

結局『実録新撰組』は後日一人でビールを飲みながら一人で見た・・・。

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