余命1年の親友に、俺の嫁を嫁がせて新婚生活させた3

2018/09/14

日奈子と拓也は、結局、次の日の夕方前に帰ってきた。きっと遅くなるんだろうなとか、もしかしたらもう一泊するのではないか? などと考えていたのに、夕方のニュース番組が始まる前には帰ってきた。
『悠斗さん、ただいまー。はい、お土産ー』
日奈子はそう言って、八つ橋を渡してきた。
「八つ橋? 嫌いって言ったのに」
俺は、激しい嫉妬と動揺を押し殺したまま、笑顔で楽しそうに言った。
「いや、それさ、普通のじゃないんだって!」
拓也が、笑顔で言う。複雑な気持ちのまま袋の中を見ると、それは、チョコバナナの生八つ橋だった。
「なんだこれ?」
俺が吹き出しながら言うと、
『高校生に大人気なんだって。キワモノっぽいけど、美味しいよ!』
そう言って、パッケージを開け始める日奈子。とても、拓也と夫婦として旅行をしてきたとは思えないくらいに、以前のままの感じの日奈子だった。でも、
『あなた、お茶入れるね。悠斗さんも飲むでしょ?』
と、拓也にあなたと言い、俺にさん付けで呼ぶ日奈子を見て、現実に引き戻された。
「お、悪いね。さっき買ったヤツ飲もうよ」
拓也も、すっかりと夫が板についてきた感じだ。旅行に行ったことで、より自然な感じになった気がする。俺は、複雑な気持ちだった。日奈子のボイスレコーダーを聞いてしまった後では、どうしても裏切られたという感情が先に出てしまう。
そして、日奈子が日本茶を入れてくれて、チョコバナナ八つ橋の試食会が始まった。
「あ、ホントだ。これ、普通に美味いわ」
俺がそう言うと、
『でしょ〜。悠斗さんも、八つ橋嫌い克服できたんじゃない?』
日奈子は、凄く楽しそうに言う。俺は、そうだねと言いながら、もう一つ食べてみた。食わず嫌いはよくないなと思いながらも、これって八つ橋なのかな?と、少し疑問を持った。
そして、また日常が始まった。でも、日奈子と拓也の距離は、確実に縮まったみたいだ……。
俺は、ボイスレコーダーを聞いて決めた通り、家に隠しカメラを設置することにした。電気街に出向き、色々な商品を見た結果、部屋の照明のスイッチプレートごと交換するタイプのものにした。それを、寝室とリビングに仕掛けた俺は、自宅にミニPCも設置し、それをサーバのように運用して、24時間録画を始めた。
それを設置した初日、俺は早く動画を確認したくて仕方なかった。でも、日奈子も拓也も、いつも通りに色々と会話をしながら、楽しい食事の時間を過ごし、
『ねぇ、久しぶりにボーリング行かない?悠斗さんも一緒にやろうよ!』
と、日奈子がそんなことを言い出した。
俺は、少しでも早く動画を確認したかったのだけど、そんな風に誘われて断るのも不自然だと思い、行くと答えた。
『じゃあ、すぐ行こうよ!あなた、運転よろしくね〜』
と、拓也に運転を頼みながら、日奈子はウキウキしている。俺にしてみれば、明日はごく普通の平日だ。休日でもなんでもない。この時間から遊びに行くのもどうなの?と思いながらも、久しぶりに日奈子と遊びに出かけると思うと、胸が躍った。
「平気か?明日も仕事だろう?」
拓也は、申し訳なさそうに言ってくる。でも、少し前の俺ならばその言葉を素直に受け取ったと思うが、今は、二人きりになるのを邪魔されたくないだけなのでは?と思ってしまう。
俺は、平気だよと答え、出かける準備をする。そして、すぐに出かける準備を終えて、三人で車に乗り込んだ。当然のように助手席に座る日奈子。俺は、一人で後部座席に座る。
二人は、すっかりと夫婦という感じになってしまった。そして、俺も友人として扱われることに、慣れてしまった感じもある。
拓也は、多少痩せてきた感じはするが、まだ元気に見える。とても余命宣告を受けている男には見えない。
「悪いね。明日も早いのに付き合わせちゃって」
拓也は、運転しながら俺に謝ってくる。
『たまには良いよね? 悠斗さんも運動不足って言ってたしね』
笑顔で言ってくる日奈子。戸籍上は日奈子は俺の妻だ。拓也とは、あくまで形だけ、拓也が逝ってしまうまでの期間限定の夫婦のはずだ。でも、俺は日奈子があまりに完璧に拓也の妻を演じているので、不安でしかたない。
そもそも、演じているのではなく、本気で妻になっているのではないか? そんな心配もしてしまう。
『じゃあ、拓也と悠斗さんで勝負ってことにしようよ!』
無邪気にはしゃぐ日奈子。
「賞品は?」
俺は、複雑な気持ちのまま話に乗った。
『えっとね〜。じゃあ、勝った方にチューしてあげる』
日奈子は、少し考えた後そう言った。
「えっ? ダメだよ、そんなの!」
そう言ったのは、俺ではなく拓也だった。もう、ナチュラルに夫としての言動をしているようだ。
『負けなければいいんだよ』
日奈子は、からかうように言う。
「そんな賞品じゃ、気合い入らないし」
俺は、本当は絶対に勝つと思いながらも、そんな憎まれ口を叩いた。
『ウソばっかり。ホントは嬉しいくせに』
おどけて言う日奈子。でも、俺は図星を突かれて言葉に詰まった。
「じゃあ、負けないように頑張るよ!」
拓也は、微妙な空気を打ち破るように、元気よく言った。そして、ボーリング場に到着し、申し込みをしてゲームを始めた。
平日のけっこう遅い時間にもかかわらず、レーンは8割方埋まっていて、意外に混んでいるなと思った。
拓也は何となく気合いが入っているような感じで、少し口数が少なくなった。そんなに日奈子のキスが大事なのかな? と思うと、拓也の一途さを感じた。
そして、2ゲーム練習をした後、勝負が始まると、力みすぎな拓也はスコアを伸ばせず、俺はそこそこのスコアだったが、終始リードしていた。
『拓也頑張れ〜。チューされちゃうぞ〜』
日奈子は、そんな風に拓也を応援する。
「うん。頑張る……」
拓也は、応援されると余計に身体が固くなっている感じだった。
俺は、なんとなくに申し訳なくなり、微妙に手加減を始めた。自分でも、なにをやっているんだろうと苦笑いしてしまったが、勝負は拮抗してきた。
『頑張れ〜。後3ピンで勝ちじゃん!』
日奈子は、最終フレームでそんなことを言った。投げ終えた俺との差は、たった2ピンだった。最後の一投で、普通に投げれば勝ちの場面だったのに、日奈子の言葉で意識してしまったのか、まさかのガターにしてしまった拓也……。
「うわ、ゴ、ゴメン……」
動揺して謝る拓也。本当に、人がいいと思う。すると、いきなり日奈子にキスをされた。唇に、一瞬唇が触れる程度の短いキスだったが、
『拓也のせいだからね〜』
と、少し頬を赤くして言う日奈子。俺は、変な感じだった。日奈子と俺がキスをするのは、本来当たり前の事だし、キスなんて数え切れない位している。でも、俺は拓也に申し訳ない気持ちになってしまった。自分でも不思議だった。
拓也は、
「ゴメン……。勝てなくて……」
と、本気で落ち込んだ様子だった。そして、時間も時間だったので、お開きになった。帰りの車の中では、拓也は口数が少なかった。本気で凹んでいるような感じだ。
『また、やろ〜ね』
日奈子が楽しそうに言う。
「うん。今度は絶対に負けないよ」
拓也は、真剣な顔でそう言った。俺は、なんて言っていいのかわからず、楽しみだなとだけ言った。
そして、帰宅すると、俺が先にシャワーだけ浴びて寝ることにした。明日も普通に会社がある俺は、さすがにもう寝ようと思ったからだ。動画のことは気になるが、見始めたら数時間はかかると思ったので、今日はあきらめた。そして、ボーリングの疲れもあるのか、俺はすぐにウトウトし始めた。
でも、すぐに振動と日奈子の声で目が覚めた。
『……メ、ダメ……って、まだ起きて……ぉ、あぁっダ……っ!』
まだ壁に耳もつけていないのに、かすかに聞こえてくる日奈子の声。そして、ベッドが壁を揺らす振動と、マットレスのスプリングのきしむ音もかすかに聞こえてくる。
『……メぇ、もっ……ゆっく……、あぁっ、声、出ちゃ……らぁっ、あっ、あっ! 拓也、激しいよぉ、うぅっ! うぅーっ!』
日奈子は、必死で声を抑えこもとしている感じだ。拓也の声は一切聞こえてこない。一方的に日奈子が責められているような感じだ。
俺は、物音がしないように気をつけながら、そっと壁に耳を押し当てた。すると、
『奥まで突いちゃダメぇっ! 声我慢出来ないぃ、うぅっ! 拓也、ダメぇ、あぁっ! あっ、あっ! んふぅ……あっ!』
と、日奈子があえぎっぱなしなのが聞こえてくる。
「ゆ、悠斗とどっちが良い? どっちが気持ち良い!?」
興奮した感じの拓也の声が聞こえてくる。
『そ、そんなの、い、言えない、ダメぇ、ぅっっ! あ、あぁっ! もっとゆっくりしてぇ、こわれちゃう、うっ!』
肉がぶつかる音に合わせて、日奈子の声がどんどん大きくなっていく。
「悠斗とキスして、興奮したんだろ!」
拓也の我を忘れたような声。いつもの拓也からは想像もつかないような声だ。
『ち、違うぅ、興奮なんて、してないぃ……あぁっ! もうダメぇ、奥、奥があぁ、うぅあぁっ! 壊れちゃうぅっ! 拓也ダメぇっ! んっおぉおぉっ! ひぃぐぅ……うぅっ!』
「あいつとキスしたかったんだろ! セックスしたかったんだろ!」
拓也は、さらにそんなことを言いながら腰を振っているようだ。
ベッドのフレームが壁に当っている振動と、パンっパンっという音がどんどん大きくなる。

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