うちの母ちゃん凄いぞ 後編
2018/05/11
の続きピザがいなくなって、人出がたらなくなった。
困った事に、パートのおばちゃんもピザが辞めるのをきっかけに、というか同時期にだな、
春だったので、「子供がうんたらかんたら」と言ってまとめて3人やめてしまった。
募集をかけようにも、私が働きだしてから3年、一人も新人が入ってきた事がない。
こりゃーやばいなと思っていたら、トレーナーが私に「あんた、週に5日入れない?」と聞いてきた。
オーダーだけのシステムにしてから、かなり時間にゆとりはあったものの、
寿司屋で週に5日働くとまるまる休みがなくなってしまう。
無理ですと言いたいが、でも店を助けると思えば、嫌ですとは言えない。
困っていたら、トレーナーが「あんたを、正社員で雇いたい」と言いだした。
バイトと正社員の違いがよく分かっていなかった私は、「時給が上がるんですか?」と聞いた。
トレーナーは、用意していたらしい分厚い書類の封筒を私に差し出して、
「よく考えなさい」とだけ言った。
帰ってから母ちゃんに書類を見せた。
寿司屋の正社員制度についての紙だったらしい。
でも外食産業は危ないからうんたらと母ちゃんがめちゃくちゃ悩んでいたと思う。
何とか保険はある、何とか手当はある、と鬼のような形相で書類を見ていて、
「で?給料上がるの?」と聞いた私を「黙っていなさい」の一言で黙らせた。
トレーナーの話によると、仕事の量も増えるらしい。
材料の仕入れとか、本社との打ち合わせとかもしなくちゃいけなくて、
今まではトレーナー一人で全部やってたけど、これからは私がやるんだと言ってた。
確かに、外食産業の正社員は危険だからなぁ。
薄給でアホみたいに大変な仕事、しかもさっさと管理職にして残業代無くすとか普通だし。
コンサルタントになってる母ちゃんしかし母ちゃんは、もしこれから私が別の企業に就職したいと思った時、
正社員で働いた過去があるとふりになる事もあると言っていた。
一通り書類に目を通してから母ちゃんが、結果からいうと給料は上がると言った。
しかも上がるなんてもんじゃなく、1.5倍にはなると言った。
「あ、じゃあ正社員になる」
「馬鹿!あんたはいつもそうやってお金に飛びつく!
これは一生の事なんだから、真剣に考えなきゃダメ!」母ちゃんがぷりぷり怒っていて、ちょっと怖かった。
母ちゃんが怒るなんて珍しいので、口を一文字にして母ちゃんの言葉を待った。
怒っているというか、真面目に悩んでくれて、必死だったんだと思う。
一晩考えさせて、となぜか母ちゃんが決める事になったらしい今回の話。
どうせ明日は仕事が休みなのでいいかと思って、再び衣装作りに戻った。
一晩考えさせてくれと言ったくせに、母ちゃんは次の日も次の日も、
私が正社員になる事について何も言わなかった。
食品業界について色々調べたらしく、
母ちゃんは毎日毎日関連本を買って帰っては遅くまで読んでいた。
ちなみに、兄がSEになると言った時も、SEについて調べたらしく、
今でも家の本棚にはこの時に買ったSE関連の本と、食品関連の本が数十冊ある。
これまた余談だが、母ちゃんは本を読むスピードが並ではない。
家事をしながら少しでも勉強をしたかったので、
ちょっとでも早く本を読めないかと考えた結果、早読?とかいう技術を身に付けたんだと。
一日で、文庫本なら
速読法マスターwwwwwwwwww
しかし、トレーナーは返事を求め続けた。
「どうするの?」と連日聞かれ続けて、
もう面倒だったので母ちゃんの携帯番号教えてやるから二人で話し合ってくれよとも思った。
自分の意思で考えるという気持ちは微塵もなかった。
私は、正社員じゃなくても、社会保障がなくても、とりあえず金だけ稼げればいいと思っていた。
ある日トレーナーが、社員になったらする仕事を今のうちに見させてあげると言った。
「じゃあ、参考までに見たいんでお願いします」と言ったら、
「じゃあ明日朝4時に店の前に集合ね」と言った。
冗談だと思って笑ったら、凄い真剣な顔で、
「いや、本当だから。遅刻したら明日の給料なしだからね」
と極妻もびっくりなドス声で言われたと思う。
朝が苦手なクズ子には無理だなwwトレーナーが怖いと思ったので、この日だけは絶対遅刻出来ないと思った。
しかし、寝てしまえば起きられない体である事は誰よりも自分が一番よく分かっている。
なので、この日は寝ないと決めた。
VIPでおっぱいうp釣りスレを立てて、徹夜で暇つぶしをした。
4時にきちんと出勤してきた私に、トレーナーは「関心関心」と言っていた。
「絶対遅刻すると思ったのにww」と言っていたけど、
家の前まで迎えに来てなかった所を見ると、クズ子は来るという確信があったのかもしれない。
まぁ、おほめの言葉をもらえちゃうくらい優秀な人材だからな。
信用して当然なのだが(キリッ)薄暗い、朝とは印象の違う店内で、まずトレーナーは凍ったままの、過去の宿敵、イカを持ってきた。
イカは、物凄い大きさだった。
いつもは切り身というか、ネタに出来る状態のままのイカなのに、
この時見たイカは、まさに“イカの姿そのもの”。
これをさばいて、朝の仕込みまでに切り身にするんだと言ってた。
凍ったイカを解凍する作業が鬼だった。
ひたすら凍ったままの大きなイカに水をかけていくだけなんだけど、
ずっと水に手を浸しているので、冬場でもないのにがたがた手が震えてくる。
やっと半分ほど溶けたイカを切るんだけど、半分凍ったイカは業務包丁でも切りにくい。
私がやっと一個のイカをきりさばいた頃には、もう外が完全に明るくなっていた。
イカが終わったら、今度はまたも過去の宿敵、タコ。
タコにも同じ作業をほどこすのだが、イカと違う点は酢を入れた水で解凍する所だ。
怪我をしているわけじゃないのに、手がぴりぴりする。
解凍が終わった頃には、手が寒さと酢の刺激で真っ赤になっていた。
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ゴム手袋とかってダメなん?877
駄目。
匂いがつくし、ゴム手の成分が衛生的によくない(らしい)
だからうちは全部素手作業。
手洗いにきっちりきっと、前世で私はイカとタコをいじめていたのかもしれない。
なぜなら、こんなにもネタ仕込みが面倒なのは、イカとタコだけだからだ。
握りにくいし安いくせして、人一倍仕込みに手間がかかるなんてなんて生意気な子なの!
あんたなんかこうしてやる!
ほらほらどんどん裸にされていくわよ!恥ずかしいでしょ!
という私の脳内妄想は、独り言で漏れていたようだ。
トレーナーが、
「あんた、本当に寿司ネタが好きなんだねwwww話しかけながら仕込む子なんかいないよwwww」
と言って笑っていた。
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解凍だけならゴム手袋でいいんだろうけど
多分溶かしながら切ってたんだと思う
ゴム手袋じゃ切りにくいからなぁwwwwしかし、寿司ネタに切るのって素人には難しくね?
クズ子、寿司ネタまで作れたん??885イカ、タコ、サーモン、まぐろ辺りは初心者でもちょっと包丁使えれば余裕。
厚みをそろえるのが難しいらしいけど、
手芸やっているので縫い目をそろえるのは得意=切り口をそろえるのも得意だったんだと思う。
えんがわ、焼きハラス、トロとかは柔らかくて崩れやすいので、修行しなきゃ切れない。
他の店舗では、この作業を週に1回行って、
一回解凍させたネタを再冷凍して一週間持たせるらしいけど、
トレーナーのこだわりで、うちの店は3日に一度この作業…