ハイテンションな同級生の裕子 1

2024/10/05

かなり頭の中身がぶっとんでいる女が、中学~高校時代にいた。
裕子(仮)である。

朝、彼女は登校して教室に入ると
「うおーし!いっちょやってみっか!」
と、ドラゴンボールの孫悟空のモノマネをする。
彼女はお兄さんが上に3人もいて、趣味は男子と変わらない。
よく「女の子とは趣味が合わない」と言っていた。

彼女はゲームの「スパロボ」をこよなく愛しているようであった。
ロボットアニメのセリフを口にするのが好きである。
掃除の時間、ホウキを男子にむかって振り回し、
「ユニヴァアアアアス!」
と叫んでいた。

彼女は歌が好きだった。
声はハスキーだったが、どこか味のある声だ。
合唱でも、活躍していた。

ただ、彼女はよく休み時間に自分で作った歌を歌っていたが、その歌詞は凄まじかった。

♪愛してるの言ってたの~
必ず捕まえるぜ スズメバチ! スズメヴァチッ!
だって世の中 オーソンウェルズ♪

こんな調子だから、他の女子とはあまり仲良くなかったようだ。
男子の中にも彼女を「わけわからん」というヤツは多かったが、俺は好きだった。
なんといっても、可愛かったのだ。
彼女は、自分のセンスが怪しいことを自覚していた。
もしかしたら、ワザと変な行動を取っていたのだろう。
パーカーの紐の端っこの結び目を鼻の穴に突っ込んだり、
黒板に、やたら鼻の太いゾウさんの絵を書きなぐったり(そのまま授業に突入)。
たぶん、ウケを狙っていたのだろう。

中学時代のある日、裕子に手紙を突然わたされた。
「これ、渡してくんない?」
「誰に?」
「アンタんちの犬。」
家に帰って、その便箋をあけてみると、ルーズリーフにやたらリアルな骨の絵が描かれていた。

こんな裕子だが、成績は抜群によかった。
テストの度に、上位者ランキングに顔を出す才女だ。
おまけに、運動神経も凄かった。
バスケ部のエースで、球技大会では凄いドリブルを見せた。

高3の時、久しぶりに裕子と同じクラスになった。
放課後、教室では俺と裕子だけが勉強のために残っていた。

裕子「飽きた。疲れた。」
「俺も。」
裕子「骨の髄まで?」
「………いや、わからんよ」
裕子「勃起してろ、馬鹿!」
―――と、全く意味の無い会話に突入。

裕子「ドラゴンキッド知ってる?」
「なにそれ」
裕子「超イカスよ。プロレスラー。」
「お前、プロレスなんて見るのか。」
裕子「闘龍門なら見る。」
(どこかの団体だろうか?)
裕子「お前、今度の日曜ヒマだろ?」
「まあな」
裕子「プロレス見に行くぞ。」
「………」

どうやらデートの誘い(?)だと思う。

裕子「イヤだといっても、連れて行くからな。」
強引なヤツだ。

日曜日、裕子と駅で待ち合わせ。
あんなヤツと会うだけなのに、かなり緊張していた。
しばらくして、裕子登場。肩とか首元がよく見えるファッションだった。
やはり美人だ。

裕子「おせぇわ馬鹿。3時間も待ったぞ」
「嘘つけ!俺が10分も待ったわ!」
裕子「口だけは達者な………and you?」
「意味わからんし!」
ゲラゲラ笑いながら、プロレスの会場へ向かう。

裕子「兄貴の馬鹿が、チケット2枚も寄越しやがったんだ。」
「ふぅ~ん」
裕子「ソウルフルだよね」
「そうだなぁ。」

会場は物凄い熱気だった。
ドラゴンキッド登場。緑色のマスクをかぶった、背の低い選手だ。
試合が始まると、ドラゴンキッドは体操選手みたいに動き回った。
初めてプロレスを見たが、「スゴイ!」と思ってしまった。

裕子はずっと叫んでいた。
「おい!うおおお!やれ!!」
そして、ドラゴンキッドがロープの上に登り、ジャンプして敵に飛びつくと、すごい速さで回転して敵をなぎ倒した。
裕子「やった!ウルトラ・ウラカンラナ!」
ゴングがなった。裕子はずっとはしゃいでいた。

帰り道、裕子はずっと俺に絡んで、パンチとかしてきた。
興奮冷めやらぬ様子。

裕子「アルバトロス殺法!」
「痛いってば!ってか、恥ずかしいから!!」
駅前で、やたら目立ってしまった。

マックで食事。裕子と二人で、やっぱりドキドキ。
裕子「うん、まいう~。」
「?」

自転車で帰宅。
最後、別れる間際に、裕子は自転車を止めた。

「どうした?」
裕子「………ちょっと耳かせ。」

何だろうと思って、左耳を裕子に寄せる。
その瞬間、左の頬に何か当たった。
(!!)
キスされたようだ。

裕子「お礼ね。」
「………」←恥ずかしくて硬直
裕子「勃起した?」
「うるさい!」
裕子「あははは!じゃねー」

そう言って、裕子はものすごい速さで自転車をこいで消えていった。
たぶん、アイツも恥ずかしかったのだろう。可愛いやつだ。

次の日、学校で会った。
俺は裕子の顔を見ると、恥ずかしくなって下を向いてしまった。

裕子「おい、昨日のは幻覚だからな!ホントはキスとかしてないぞ!指でつついただけだ!」
そう言うけど、俺の左頬は濡れていたんだよ!

裕子とは、二人で遊びに行くことが多かった。
彼女は相変わらず言動が怪しい。周囲から見れば、「変な奴」「痛い奴」だと思われているに違いない。
だけど、裕子のその態度は、演技なんだろうと僕は思っていた。
本当に頭のおかしい人間が、ふっと一人になった時に、あれだけ鋭い目線をするものだろうか?

裕子は、周りに友人がいれば、面白いことを言ってはウケを狙う。
その間は、ずっと馬鹿みたいに笑顔を振りまいたりしている。
だけど、その雑談が途切れた時―――授業中や、みんなが自習に取り組む放課後の教室では、裕子の目つきは少し怖いくらいに鋭いのだ。

裕子は、みんなに隠している、冷めた部分がある。
冷めた部分があるから、周囲の人間のウケを取ろうと演技している。
僕は、「素」の裕子を確かめたい気持ちもあって、接近することにはなんの違和感も持たなかった。

前にも述べたとおり、彼女は美人の部類に入る。
女の子らしく、身だしなみにも気をつけているようで、近づけばいい香りがする。それに僕がしょっちゅうクラクラしていたことは認める。

高3の夏休みになって、僕はやたら性欲が高まって自慰行為ばかりに勤しんでいた。
本来なら、受験勉強をしなければいけなかった身分だが。
どうしても、自慰の時に思い浮かべるのは裕子になってしまう。

そんな毎日で理性が崩れたのか、我慢ができなくなったのか。
僕は裕子を家に誘って、できることなら最後までヤリ遂げようという決心をした。

「映画のビデオをレンタルしたから、見に来ないか?」
と、メールして裕子を呼び出す。
『しょーがねー、行ってやるよん♪』との返信。
偉そうな文面だが、そういう女として今まで付き合ってきたのだから、違和感はない。

(ああ、アレだ。
今にして思えば、「猟奇的な彼女」のヒロインに通じるものがあったような気がする。)

コンドームをポケットに忍ばせて、裕子を待つ。
家族はみんな出かけている。準備は完璧のはずだから、あとは手順と裕子の反応しだいだ。

「ただいま」
玄関を開けると、僕の家なのにそんなセリフを言う裕子がいた。
白いワンピースである。肩の部分は紐だった。なかなかにセクシーでよい。

あまりベタな内容のビデオでは、狙いすぎだと思われてしまう。ラブロマンス過ぎてはいけない。
悩んだ結果、レンタルしたビデオは
「アンドリュー NDR114」
である。

Amazon.comの作品紹介の文章を引用すると
☆ 舞台は近未来。サンフランシスコ郊外に住むマーティン一家に家事専用ロボットのNDR14(ロビン・ウィリアムズ)が届けられ、アンドリューと名付けられる。しかし、人間的感情をもち備えているアンドリューは、やがて人間でありたいと強く願うようになり、自分と同じようなロボットを探す旅に出る…。
クリス・コロンバスがアイザック・アシモフの小説『バイセンテニアル・マン』を原作に製作・監督したヒューマンSF映画。S・スピルバーグ監督の『A.I.』に先駆けるかのように、200年の時の流れの中をロボットが苦悩しながらさまよい続ける。そんなアンドリューをR・ウィリアムスがいつもながらの芸達者な演技で体現。ジェームズ・ホーナーの感動的で麗しい音楽もすばらしい。(的田也寸志)

―――とのこと。
物語の最後のほうでは、アンドリューと人間の女性との永遠の愛がテーマになってくるという、それはそれは素晴らしい話だそうだ。

序盤はコミカルだったので、裕子も小さく笑いながら、黙々と鑑賞。
裕子がやってくる前に一回見ておいた僕は、裕子をチラチラみながら雰囲気を伺う。
後半になるにしたがって、内容は「愛」が浮き出てくる。

映画のネタバレになってしまうが、ラストはアンドリューが一人の「人間」として認められ、アンドリューは死ぬ間際になって、長年一緒に過ごしてきた女性と結婚することができた、というものである。

感動的なラストであった。裕子にどうこうしようという下心を忘れてしまうくらい。2度目を見ても、感動してしまった。

「いい話だったなー」
エンドロールが流れている時、僕はとりあえずそんなセリフを裕子に言う。
「ねえ」
微妙に涙目になった裕子が返事してきた。
やはり、感動したのだろう。変な女だったら、ここで泣くことなんてあるのだろうか。

<続く>

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