ほんのちょっとの勘違いから始まったセフレ関係
2018/12/12
はじまりは、ほんのちょっとの勘違いからだった・・・。
「家庭を壊さない程度の付き合い」その言葉の意味を、お互いが取り違えた。
職場の忘年会で二次会のカラオケが終わり、そろそろお開きか?そんな空気が流れていた。
飲み散らかしたグラスを集めたり、本を揃えたりと、カラオケルームの片付けをしていた私は、いつの間にか置いてきぼりをくっていた。
気が付くと、コートを着かけている彼と二人きり・・・。
ちょっぴりどぎまぎして、そそくさとその場を去ろうとした。
リモコンを手に持ち、視線を落として、さりげなく彼のわきを通り過ぎる・・・はずだった。
足元の視界に、前から誰かの足が近づいてきた。
そう認識した瞬間、私の唇がすくい上げられるように唇で持ち上げられた。
彼の唇で・・・。
『!』
体が凍りついたようにこわばる。
彼は私の腰に手を回すと、引き寄せて、唇を強く押し当てながら、舌を入れようとしてきた。
久しくディープキスから遠ざかっていた私は、喉の奥が締め付けられるような感覚におそわれて、応じる事が出来なかった。
ゆっくりと唇が離れ、体が解放された。
「びっくりした・・・」
少しよろめきながら彼から離れ、照れ隠しに前髪をかまいつつ、ほんの一瞬彼を見た。
が、彼の表情はよくわからなかった。
ここであたふたしても大人気ないと思い、ゆっくりと歩いて靴をはくと、彼が足早にやってきてドアを背にして私の前に立った。
「行かせない」
そう言うと再び抱き寄せて、キスをしてきた。
そして舌を入れようとするが、またもや応じられない・・・。
彼は諦めたのか、唇を強く吸いながら、長いキスをした。
「お前のせいだぞ」
彼はきょとんとする私を尻目に部屋を出ていった。
私が一体何をしたというの・・・?
以前から、飲み会のたびに彼は「ねぇ、やらせてよ」と、色んな人に声をかけているのかわからないが、よくちょっかいをかけてきた。
別に悪い気はしなかった。
なぜなら、もともと私は彼に好意を持っていたから。
昔付き合っていた人と声がそっくりで、ずっと気になっていたのだ。
そんな私の気持ちに気付いていたのか、彼と二人きりで残業をすることになったある日、初めてしらふの状態で彼が言った。
「遊びでなら付き合ってもいいよ。家庭を壊さない程度にね」
私は、てっきり『お茶をしたり夕飯を食べたりする程度の付き合い』だと、勝手に解釈した。
まだまだ、男性に対する認識が甘かったようだ。
そして軽い気持ちで返事をした。
「そうね。楽しいかもね」と。
ちょっとした浮かれ気分から出たこの一言が、彼の何かに火をつけてしまったのだ。
そう・・・彼は案の定取り違えた。
私が『体の関係が優先される付き合い』に合意したと・・・。
正月休みが明けて最初の土曜日、彼から私の携帯に電話がかかってきた。
「今日、仕事に来ない?」
いきなりの『お誘い』だった。
「え?休みなのに?」
「仕事いっぱいあるからさぁ・・・」
他愛も無い話をしてやんわりと断ると電話を切った。
そばに主人がいたせいもあったが、どことなく落ち着かなかった。
あくる日、行くつもりなどなかったはずなのに、言い訳もそこそこに家を出て職場に向かった。
彼が一人で仕事をしていた。
「なんだ・・・今日来るんなら、そう言ってよぉ」
彼は、嬉しそうに笑顔で迎えてくれた。
「会いたくて、いてもたってもいられなかったからよ」とは言わず、少し勿体つけて、「寂しいだろうと思って来てあげたのよ」と言って、自分の席についた。
しばらくはお互いの仕事に没頭した。
ふいに彼が近寄ってきて、私の腕を掴むと「ちょっと・・・」と引きずっていった。
部屋の隅の方、外からは死角になって見えない所へ私を押しやると、抱きしめてキスをしてきた。
「どうしたの?震えてるじゃん」
彼が私の背中をさすりながら尋ねた。
「緊張してるからよ」
初めての小娘でもないのに、本当に震えていた。
今、自分がしていること、されていることに対して少しだけ罪悪感と恐怖心を抱きながら、「好きな人に触れられる」という久しぶりに味わう甘美な状況に、恥ずかしさと緊張感が高まって、胸の鼓動が体の外にまで伝わるようだった。
彼は私を抱き寄せたまま、服の下に手を入れ、キャミソールの上から背中を撫でて、ずっと私を抱きしめていた。
その手の動きがなんだか心地よかった。
その日は、何度か部屋の隅へ連れていかれ、抱き合っていた。
多分仕事はいくらも進まなかったと思う。
こんな職場で・・・非常に罰当たりである。
新年会数日後、彼から「新年会やるけど、来ない?」と声をかけられた。
行ってみると、彼と彼の友人数人との小さな会だった。
居酒屋でワイワイと飲み食いした後、二次会はいい雰囲気のバーへ行った。
中は薄暗くて、カウンターしかない店。
でも、空間は狭くなく、しっとりとした雰囲気で、それだけで酔えそうだった。
背の高い不安定な椅子ではなく、ソファのような柔らかくてしっかりとした椅子に体を沈め、しばしの談笑。
カウンター席ということもあり、話をしているうちに自然と二人組どうしに別れてしまった。
もちろん私と彼がペア。
彼は私の椅子の座るところに手を置くと、そのまま奥に滑り込ませた。
「やだ、みんないるじゃん」
彼の手を引き抜く。
「見えないよ」
かまわずお尻の下に手を入れてくる。
私の耳元に口を寄せると、「愛してるよ」と囁いた。
懐かしい彼の声・・・そんな錯覚に陥り、久しぶりの感覚とカクテルの酔いも手伝って、そのまま彼にしなだれかかりそうになるのを必死でこらえていた。
次の店に行くことになり、足元がおぼつかない私を「大丈夫?」と優しく支えてタクシーに乗せてくれた。
彼は私の隣に座って、私の体の上に自分のジャケットをかけた。
(?・・・寒くないのに・・・)
そう思った瞬間、ジャケットの下から彼がふいに私の太腿の間に手を入れてきた。
声も出せない。
彼の隣には彼の友人が座ってるのに・・・。
私は無言で彼の手を掴むと、引き離した。
彼もそれ以上の事はせず、ジャケットの下で私と手をつないだまま、おとなしくしていた。
三次会ではほとんどの人が酔いつぶれ、それぞれタクシーで帰ることになった。
彼が「一緒に乗ろう」と声をかけてきたので、友人達を置いて一足お先に店を出た。
タクシーに乗り込むと、彼は運転手に私の家の方面を指示した。
そして、私のあごを持って自分の方へ向けると、いきなりキスしてきた。
舌を絡め唇を吸い、かなり濃厚なキス。
「運転手さんが見てるかもしれないのに・・・」
抗おうとしても、首の後ろを持たれて身動きが出来ない。
何度も舌を出し入れされ、気が遠くなりそうだった。
家までの5分程度、彼は一度も離れることなくキスをし続けた。
次第に恥ずかしさも薄れて、呼吸が早くなっていく・・・。
家へ着くまでの間、どれくらいの時間だっただろう?彼は一度も離れることなくキスをし続けた。
車が家に着くと、彼はお互いの唾液で濡れた私の唇を指でぬぐい、再び軽くキスをして「おやすみ」と言った。
彼の乗ったタクシーのテールランプが遠ざかって行くのをぼんやりと見送りながら、あまりに突然で大胆な行為に、しばらくの間顔が火照ってドキドキする胸を静めることができなかった。
初デート・・・?
ついに(?)二人きりでの夕食に誘われた。
人目をはばかる仲なのに、街中の極々普通の洋風居酒屋で、極々普通のカップルのように食事をした。
誰かと会うんじゃないかとヒヤヒヤしている私の気持ちを知ってか知らずか・・・彼はのん気にビールを飲んでいた。
楽しく会話がはずんで時間も過ぎ、店を出ることにした。
「次はどうしようか?」
あても無く町の中を車で走りながら彼が聞いてきた。
「そうね・・・」
心の片隅で、妙に落ち着かない自分がいる。
不安なのか、期待なのか?ある一言を待っているかのように、言葉少なになっていた。
「二人じゃカラオケって言ってもな・・・」
カラの空間を埋めるように彼の言葉が続く。
そして、ほんの少し沈黙が流れると・・・。
「後はデザートを食べるだけだな」
ふいに彼が言った。
「何が食べたい?」
「お前だよ」
「?!」
緊張感が解けた直後のいきなりの一言で、衝撃のあまり、そこに心臓があるかと思うほど頭の中がガンガン鳴り響き出した。
恐ろしく間延びした沈黙の後、白々しく「えっ?」と聞き返すのがやっとだった。
彼は、私のリアクションでさっきの言葉の意味を理解していると認識したのか、くり返す事はしなかった。
「嫌なら無理にとは言わないよ」
大人の男らしく、少し引いて様子をみる彼。
「嫌じゃないけど・・・」
つい本音が出てしまった。
「じゃぁ・・・」
彼の中で行き先が決定したようで、スピードが加速して体がシートに押し付けられた。
そのまま無言のドライブが続き、気がつくと車はすでにネオンが輝く建物の中に吸い込まれていた。
エンジンが止まる。
とうとう来てしまった・・・体が硬直して動けない。
彼は、シートベルトをしたまま固まっている私を抱きしめると、「いいだろ?」と訪ねた。
再び懐かしい感覚が蘇ってくる・・・。
でも、ここにいるのは昔の彼じゃない、別の男(ひと)。
私は人妻だ。
そんな現実に罪悪感が湧きあがる。