はまった男 4

2018/10/23

はまった男 3
王はしばらく泣いていた。僕は言葉をかけられなかった。
結婚まで考えた元恋人との想いが溢れているのだろう。
王は作り笑いをし
王 「お腹空いちゃった。何か食べに行こう。」
僕 「無理しないでいいよ。無理に笑わないで。」
王 「だって、わたし本当にお腹空いている。」
そういえば王は今日、元恋人に会うのに緊張してか、何も食べていない。
王 「そうだ、おばさんの家に行こう!わたし、何か作るよ!」
僕 「え?おばさんって、僕の知っているおばさん?」
王 「お正月にも会ってるし、わたしの誕生日、大連にいたおばさんだよ。」
僕 (やっぱり・・・・。)
あの、ものすごい勢いで、家を買え!と言ってきたおばさんだ。
僕は迷った。S君を連れて行ったら、間違いなく、家を買え!攻撃が始まるだろう。
いままでは、言葉が通じなかったので、おばさんは控えていたが、今回はS君がいる。僕はS君に
僕 「S君は、僕の味方だよね?」
S君 「は?」
僕 「僕の都合のいいように、通訳を頼むよ。」
S君 「それは、もちろんです。任せておいて下さい。」
王と超市で買い物をする。王は楽しそうに食材を選んでいる。
食材を袋に入れて、王のおばさんの家に向かった。
家にはいると、お母さんと、おばさんがいた。
今までは、言葉が通じないので、お母さんと、ほとんど話した
ことがなかったが今回は、S君がいる。何でも来いだ!
王が台所でご飯を作っている間、お母さん、おばさんと話をした。
S君がいるもんだから、おばさんと一緒にものすごい勢いで話しかけてきた。
まるでマシンガンだ。
S君も、2人同時に話しかけてくるものだから、通訳が大変そうだ。
僕の家族構成、学歴、収入、預金、土地の有無、仕事内容、日本の生活しつこいくらいに聞いてくる。
僕 「普通、こんな事、聞いてくるもんなの?」
S君 「生活力を重視しますので、当然聞いてきますよ。」
僕 「まだ、付き合っている段階なんだけどな・・・。」
S君 「お母さんは、そうは思ってないみたいですよ。結婚相手としてみています。Tさんは、実家に泊まったこともあるし。」
王は一人っ子だから、お母さん、心配なのかも知れない。
ご飯が出来上がり、5人で食べることになった。
僕は中華料理は好きなのだが、中国のお米は臭いがあり、好きになれない。
ところが、王のおばさんのお米は、臭いが無く美味しかった。
王の料理も、なかなかいける。実は王は家庭的だったりして。
S君も、美味しいと言っている。
S君 「王さんが以前、カラオケクラブで働いていたとは思えませんね。」
僕 「僕もそう思う。普通の女の子なんだけどな。」
(この発言には、突っ込まないで下さい。深い意味はありません)
王 「何話しているの?」
僕 「美味しい。王は料理できるんだね。なんか意外だ。」
王より先にお母さんが
母 「ウチの娘は、何でも1人で、できるんですよ。しっかりしています。」
王 「結婚したら、毎日作ってあげる。」
母 「Tさんは、どうなんですか?ウチの娘と結婚する気はあるんですか?」
僕 「そうですね、まずお互い言葉を話せるようになり、コミュニケーションがとれないといけません。今、王は日本語を覚えているので近いうちに、取れるようになるでしょう。以前は筆談ばかりでしたが今は、ずいぶん減りました。王は頑張ってくれています。」
母 「あなたは、中国語を覚える気はないんですか?」
僕 「僕は、仕事が忙しくて・・・・。」・・・・ただの言い訳だ(>_<)
母 「コミュニケーションが取れたら、その後はどうするんですか?」
僕 「お互いに、何も問題がなければ、結婚したいですね。王以上に好きになる人は、もう現れないと思います。僕も、もう少しで34歳になりますから、いいかげんな気持ちで付き合うつもりは、ありません。」
お母さんは少し満足したようだ。
S君が通訳を続ける。
母 「それなら、娘を幸せにして下さい。自慢の娘です。」
王の頭を撫でながら言う。王は笑っている。
香港で売春をしていた事を知ったら、倒れてしまうだろう。
おばさん 「結婚するには家が必要でしょう?」
僕は、やはりと思った。これからが大変だ。
僕 「そうですね、結婚した後は、中国にも僕と王の家がほしいですね。」
おばさん 「結婚する前でも、家は必要ですよ。家を買いなさい。」
僕 「でも、今は必要ではないんですよ。今買うのはちょっと・・・・・」
おばさん 「どうせ、中国で暮らすんだから、今買ってもいいでしょ?」
僕 「え?中国で暮らす??」
おばさん 「王と結婚したら、当然中国で暮らすんでしょ?王は日本には連れて行かせません。だから家を買いなさい。」
僕 「・・・・・・・・・」
僕はS君が間違えて通訳しているのかと思った。
僕 「S君、おばさんは、本当にそんなこと言っているの?間違えて通訳していない?」
S君「僕は、ちゃんと通訳していますが・・・・。」
僕 「お母さんは、どうなんですか?王を日本に連れて行くのは反対ですか?」
母 「王は、大事な一人娘ですから、遠くに連れて行かれたら困ります。」
僕 「遠くと言っても、今、王が住んでいる大連から実家の福建省と、東京から福建省まで、距離は同じくらいですよ。そんなに遠くありません。」
母 「国が違えば、来るのも大変でしょう。わたしは反対です。」
僕 「じゃあ、結婚したら、僕と王は離ればなれですよ?王が寂しがります。」
母 「だから、あなたが中国に住みなさい。」
僕 「でも、僕は中国に住む気はありません。日本に仕事もありますし・・・。」
おばさん 「あなたが中国に会社をつくれば?それなら中国に住めるでしょう?」
変な方向に話が進んでる。僕は中国に会社をつくる気は全くない。
S君 「珍しいですね。普通は日本に行きたがるものなんですが・・・・。」
僕もそう思った。王自身はどう思っているのだろう?
僕 「王はどう思っているの?日本に来たくない?」
王 「わたしは、どっちでもいいよ。中国でも日本でも。」
僕 「そう・・。それに関しては、これから決めよう。」
王 「うん。」
おばさん 「とにかく、家がないといけない。買いなさい。」
おばさんの、家を買え攻撃がまた始まった。S君も大変そうだ。
僕は答えを誤魔化しながら、食事を終えた。
S君 「ずいぶん家にこだわっていますね。知り合いでも買わされた人はたくさんいますよ。もし、買うとしたら結婚した後ですね。」
僕もそう思った。結婚する前に家を買うのは抵抗がある。
今日は、どこに泊まろうか?
僕はおばさんの家に泊まる気になれずS君にホテルを取ってもらった。
王は、どうするんだろう?
王も、僕のホテルに行きたいと言い出した。
僕はホッとした。
1人で寝るのは寂しすぎる。ただ、お母さんは、せっかく北京に来たのだからもう少し、おばさんと話していきなさい、と王を叱っている。
福建省でもそうだったが、王のお母さんは、結構厳しい。
王も素直に、言うことを聞く。
王 「話が終わったら、あなたに電話する。」
僕とS君だけで、ホテルに向かうことになった。
S君 「お母さん、厳しいですね。王さんにも、Tさんにも。」
僕 「僕、嫌われているのかな?大事な一人娘だもんなあ。」
S君 「それはないですよ。Tさんのことは、気に入っています。」
僕 「それならいいんだけど・・・・。」
僕とS君はタクシーに乗り込み、ホテルに向かった。
チェックインをして、部屋に入る。
僕 「S君から見て、王はどんな女の子かな?」
S君 「そうですね、おばさんの家を買え!攻撃には参りましたが、王さんは心の優しい人だと思います。Tさんにずいぶん気をつかっていました。」
僕 「あれで気をつかっているの?そうかなあ・・・・。」
S君 「王さんの食器を見ましたか?」
僕 「そういえば、王、あまり食べてなかったね。いつもは、たくさん食べるのに。」
S君 「王さんは、本当は、お腹が空いていなかったんですよ。本当にお腹が空いていたら、その辺のレストランで食べています。自分で作るのは、時間がかかるし、手間です。」
僕 「・・・・・・・・・・」
S君 「Tさんに、気を使わせたら悪いと思って、無理にお腹が空いたと言って行動に出たのです。僕は、すぐにわかりました。」
僕 「・・・・・・・・・・」
S君 「本当は、悲しかったと思います。でも、Tさん、お母さん、おばさんに気付かれないように、していたと思います。」
僕 「確かに、口数は少なかった・・・・・。」
長年、中国で生活して、毎日中国人と接している、S君が言うのなら間違いないだろう。
S君の通訳は、素晴らしい。李さんよりも、遙かに上手い。
それでも直接、王と話すのではなく、ワンクッションS君を通して会話をするのでどうしても伝わらない部分が出てきてしまう。行動も把握できない所がある。
いままで、気付かなかった王の優しさも沢山あったのだろう。
僕の携帯が鳴った。王かと思い出ると
社員 「社長、聞いて下さいよ、ひどいんですよ。」
バカ社員だった。
僕 「どうしたの?」
社員 「ガイドを頼んで、飲みに行ったんですけど、全然安くないんですよ。いい店を教えて下さいよ。どこの店がいいですかね?」
僕 「明日、気を付けて帰りな。

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