妹の告白
2018/05/04
先週の日曜日に妹と映画を見た。
朝九時くらいに妹に起こされた。
そそくさと着替えてから軽い朝食を済ませ、俺はバイクを出し
二人乗りでTSUTAYAへ行った。
妹が前から見たがっていた『ゼブラーマン』と、俺が見たかった
『実録新撰組』を借りてきた。
一度家に戻り、ヘルメットや借りてきたDVDを居間に起き、妹と近くのコンビニへ行った。
俺は三週間ぶりの休みで、家でゆっくり過ごせると思い、ビール数本とツマミを、妹にはジュース
とお菓子を買ってあげた。
最近部活を頑張ってるらしい妹は、普段お菓子などを我慢してるみたいで
今日はここぞとばかり買っていた。
家に帰ってから、妹は手早く飲み物やお菓子をテーブルに広げ、『ゼブラーマン』をセットし、
「兄ちゃん早く?!」とグラスや氷を用意している俺を急かすように呼ぶ。
お昼くらいから見始めた
『ゼブラーマン』は意外に面白くて、二人とも笑いながら見ていた。
ビールも一本二本とすすんだ。
映画が終わり俺はトイレへ行った。
戻ってきてテーブルに置いていたビールを飲もうと缶と持つと
カラになっていた。
まだ二口程しか飲んでいなかったのだが。
ふと横を見るとのぞみがニコニコしながら
こっちを見ている。
「お前飲んだのか?」
と聞くと
「うん。ちょっとだけ。でも・・・ビールってマズイんだね?」
と言って舌をペロッと出した。
「お前、未成年だろう。前にも飲んだ事あるのか?」
とタバコに火を点けながら聞くと
「ないよ?!初めて飲んだ。兄ちゃんがすっごくおいしそうに飲んでたからさ?。ちょっとだけ」
俺がトイレへ行ってる三分くらいの間に、二口くらいしか飲んでいない500ml缶を
全部飲んだのかと呆れながら「もうダメだぞ」と言って冷蔵庫からビールを出した。
のぞみにはグラスに
ジュースを注いで出してあげた。
「ごめんね。あたしお兄ちゃんと会うの久しぶりだったし・・・」
ぼそぼそと言っている。
「いいよ。それより『新撰組』見るか?」
テーブルを片付けながら聞く。
「ん?ちょっと休憩?。っていうか時代劇じゃん」
そう言いながら片付けを手伝ってくれている。
二人でソファに座りながらいま見た『ゼブラーマン』の話で盛り上がる。
こういう子供特有のはしゃぎ
かたは中学三年になった今も変わらない。
新しいタバコに火を点ける。
一口吸って、いつもどおりふぅ?っと煙を吐く。
ふとのぞみを見ると俺の右手
を見ている。
いや、タバコを見ていた。
「どうした?」
「う?ん、タバコっておいしいの?」
俺の右手に視線を落としたまま聞いてくる。
「おいしいね?。社会人に特に」
ビールを一口飲む。
これもうまい。
すると
「ね、一回だけタバコ吸って見てもいい?」
俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。
「だめだめ。酒もタバコも大人になってからな。ってか女の子はタバコ吸っちゃだめ」
タバコを消し、残ってたビールを飲んで缶を捨てる。
俺もグラスを出しお茶を注いだ。
「どうしたんだ、今日は。いきなりビール飲んだりタバコ吸いたいって言ったり」
体をこっちに向けてお菓子を食べながら
「ん?別に・・・ちょっと大人の気分を味わってみたかっただけだよ」
そう言いながらグラス俺に突き出す。
お茶を注いであげながら
「大人のって・・・。お前普段は大丈夫か?吸ったりしてないよな?」
「吸ってないよ?」
そう言いながらテレビの方を向く。
気のせいか今までより声のトーンが低い。
「いいか?とにかく酒はもうだめだからな。まだ子供なんだから」
「・・・」
返事が無い。
言い過ぎていじけたかなと思いながらも俺もソファに座って、テレビのリモコンをとる。
「テレビ見ようか」
スイッチを入れる。
ドラマの再放送にワイドショー、バラエティー番組とチャンネルと替えながら、チラッと
のぞみを見る。
膝の上に顔を乗せ、前に組んだ腕の指先辺りに視線を落としている。
俺の視線に
気づいてはいるだろうが、なんとなくのぞみがいじけてる様に見える。
しばらくテレビを見て
いたが、急に黙り込んでしまったのぞみとの空気が気まずくなり
「どうした?」
肘でのぞみの肩をつついた。
「・・・」
「・・・いじけてんのか?」
「・・・」
「・・・なんかあったの?」
全く反応が無い。
俺はまたタバコを吸いながら、斜め前に膝を抱いて座っているのぞみの横顔と
テレビを交互に見ながら、吐く煙にため息をのせた。
お茶を取りに立ち上がったとき、のぞみが俺の方に少しだけ体を向けた。
目の端で俺の膝辺りを
見ている。
俺も一瞬動きを止めて
「ん?どうした?」
少し柔らかい口調で聞いた。
が、のぞみはゆっくり首を横に振ってまたさっきと同じ体勢に戻った。
冷蔵庫からお茶と紅茶を持ってきて横に座り、テーブルからのぞみのグラスを取り紅茶を注いで渡すが、
下を向いたまま受け取ろうとしない。
「ほら・・・」
グラスを顔の前に突き出すが首を横に振る。
少しのぞみの横顔を見て、グラスをテーブルに戻そうと
体を動かしたとき、俺のジーパンの裾をのぞみが摘んだ。
「・・・ちゃん・・・な・と・・・いる・・・?」
聞き取れない小さな声で何か言ってきた。
いつもは凄く元気なのぞみの、今はとても弱々しい声に少し戸惑いながら
「・・・ん?何?」
そう聞き返しながらテーブルに置きかけたグラスを自分の方へ戻し一口、ゆっくり飲んだ。
またテレビの
音だけになったが、すぐに俺の方に顔を向け、少し震えた消えそうなか細い声で
「・・・兄ちゃん・・・好き・・・な人・・・いるん・・・だよね?」
目を合わせたり反らしたし、落ち着かない表情で、少し泣きそうな顔でそう聞いてきた。
なぜか胸の奥が、ほんの少しだけ、痛みに似た苦しさを感じた。
なぜかはわからない。
不意に感じた苦しさだった。
のぞみは今まで俺にそんな顔を見せた事はない。
初めて見たのぞみだ。
またうつむいてしまったのぞみを
見ながら、いつもと違う、違和感を感じる喉から声を押し出した。
「・・・ん?なんで?」
声がおかしい。
かすれている。
また沈黙になった。
俺はたまにのぞみを見ては、どこを見るでもなく床に視線を落としていた。
一つわざとらしくなってしまった咳払いをして
「・・・どうした?」
そう聞いて紅茶を飲み、グラスをテーブルに置く。
カコッと乾いた音と同時に、のぞみはゆっくり顔を
上げ、涙ぐんだ目で肩越しに俺を見て
「・・・前に・・・付き合ってた人の・・・こと、・・・まだ・・・好きなの?」
今度はまっすぐ俺を見ている。
さっきとは違う痛みが胸の奥でする。
確かに半年くらい前までおれには彼女がいた。
二年程付き合っていたが最後はグダグダで、あまり良い別れ方
ではなかった。
たまに思い出すが未練を持つこともなかった。
だからは好きだと言う感情どころか、むしろ
最近は忘れていた事だった。
のぞみの言葉で久しぶりに、思い出した。
俺を見つめるまっすぐな目から見ながら
「いや、全然。っていうか忘れてたよ。何で?」
声はいつものトーンで出た。
別れたのって半年くらい前だよ。
あんまり良い思い出じゃないしな?」
最近の俺にとって元カノの事など本当にどうでもいい事だった。
のぞみの口から今日こんな話がでるなんて
思ってもみなかったから、正直、少し驚いた。
俺の言葉に何か思ったのか、少し顔を上げた。
「・・・だって、・・・まだ写真持ってるじゃん・・・」
また俺のジーパンの裾を握っている。
(ん?写真?そんなのあったっけ?全部捨てたけど・・・)
確かに付き合っていた頃は、デートのときに写真やプリクラを撮ったりしたが、今は全部捨てたはずだ。
もう俺の部屋には残ってないと思うんだが。
「いや、写真とかは全部すてたよ、俺。もういらないし」
俺がそう言うと、握ってるジーパンを少し引っ張ってまたうつむいた。
「・・・うそ。・・・押し入れの箱の中に入ってたもん・・・」
は?と思いながら俺は押し入れへと目をやった。
そしてのぞみの手をほどくと部屋の角にある押し入れの
ドアを開いた。
小さい箱やダンボールなどが何個かあるのだが、普段は使わない物を入れておくだけだから、
どの箱に何が入っているかなんて覚えていない。
手当たり次第探してみる。
「・・・みかんの箱・・・」
今までよりは少しだけ大きい声でのぞみが言った。
奥にあるみかんの箱を取り出した。
中には古いCDや目覚まし時計、小さいスピーカーなんかが入って
いて、一番上に確かに元カノの写真があった。
日付が十二月二十五日になっている。
クリスマスに家で
撮ったのを思い出した。
少し懐かしかったが、特に何の感情もない。
何度も言うが本当にどうでもいい
思い出になっているのだ。
「ほんとだ。あったよ。なんでお前知ってたんだ?」
「・・・兄ちゃんの部屋、・・・掃除してたら・・・見つけちゃったんだもん・・・」
いつの間にか持っていたグラスに口をつけながら、少し不機嫌そうな涙声で言う。
「てかなんでこんなとこにあるんだ?」
付き合ってたときは写真はまとめてしまってたはずだが、なぜここにあるのか、全然記憶に無い。
たぶん
何かの拍子に紛れ込んだのだろう。
仮に今でも大切な思い出のものなら、押し入れには入れておかないだ
ろう。
ましてみかんの箱なんかには。
「掃除とか何かで紛れ込んだかな?」
俺がそう言うと、のぞみは脚をくずし体を俺に…