すれ違い・・

2022/12/29

久しぶりに会ったのに、全然変わっていなかった。
彼女の髪が伸びているのだけが時間の経過を物語っていたが、はにかみ弾けるような笑顔も、
華奢で抱き心地の良さそうな身体も、そのままだった。


見ているだけで触れたくなる女というのが存在するとして、彼女はまさにそのタイプだった。
大学のサークルで知り合い、キスまでしたが、結局お互い別な相手とつきあい、卒業してしまった。
イベント好きなやつらがBBQを企画し、社会人初のお盆休みを懐かしい仲間達とバカ騒ぎすることに
したが、当然彼女も来るだろうという期待もあった。
さらに言えば自分同様にフリーになっていることも期待していた。
彼女はフジタカの顔を見ると、すこし寂しげに微笑んだあと、いつものほがらかな笑顔にすぐ戻った。
他の女そっちのけでわらわらと彼女に男どもがむらがる。
フジタカは炭火を担当しながら、聞いてないふりで耳をそばだてる。
「さなえちゃん、あいつとはまだ続いてんの?」
「うん、細々とね」
「かーっちくしょー!うらやましいねぇ~別れたら次俺ね、待ってるから」
「失礼なこと言うな、俺だよな、俺」
「お前らひっこんでろ。最初に待ってたのは俺なんだから。な?な?」
彼女は面白そうにあははと全部笑い飛ばした。
そうして会話に混ざってこない男の後姿にちらっとだけ視線を投げた。

帰りは女の子を駅まで送ってやるのがサークルの飲み会ルールだった。
早い者勝ちではなくクジ引きで。
フジタカは盛大に冷やかされながら彼女を送る権利を得た。
つつっと大人しく横に並んで歩く彼女とようやくまともに話が出来るというのに、何から話せばいい
のか戸惑ってしまう。
「……まだつきあってんのか……」
結局は他の男たちと変わらないことを聞いてしまう。
彼女は伏目がちにうつむいて、うん、とだけ言って黙ってしまう。
完全に失敗した、とフジタカがぼりぼり頭をかいていると、そっとやわらかい手が指に触れる。
考える間もなく彼女の手を強く握っていた。
心臓が早鳴る。
彼女は黙ったまま寄り添うように腕へと近づいてきた。
いつもそうだった。
彼女はフジタカとふたりきりになる時だけはいつも、照れたようにしながらも近くにいた。
こいつは俺のことが好きなんだと、フジタカは思っていた。
それがいきなり知らない奴とつきあいだし、フジタカもちょうど言い寄ってきた女とつきあった。
微妙で甘酸っぱい関係だったころを思い出し、頬が熱くなる。
しかし駅が見えてくる頃には諦めの気持ちが強くなっていた。
彼女には彼氏がいる。
きっとこのあと男の部屋にいってやりまくるんだろう、そう思うとつないだ手に苛立つ。
ビールの酔いが残っているので駅のエレベーターを探して乗った。
密閉された空間にふたりきりになったのがいけなかったのだろう、どちらからともなくキスをした。
壁にもたれて彼女を抱き寄せ、髪をいじる。
「……帰んの?」
短いつぶやきに彼女は答えてこない。
「どっかいこっか……」
こんな簡単な誘いにのるような軽い女をどこか軽蔑していた。
だが惚れた相手なら、一度手に入れ損ねた女が顔を真っ赤にして頷くのは、悪くなかった。

ホテルの部屋に入ってからもう一度抱きしめると、泣きそうな声で名を呼ばれた。
「いいんだな、途中でやめたりなんか出来ないからな」
「うん……」
くすぶっていた想いが再燃しただけだろうが、彼女の肌にはあらがい難い魅力がある。
フジタカはそう認めざるを得なかった。
男がいる女なんか抱く気になるもんなのか、と冷めた疑問とは裏腹に、フジタカは吸い寄せられる
ように唇を奪い服の上から胸をまさぐりだす。
感度の良さそうな声をあげ、ふんわりとした髪の毛を揺らし悶える彼女。
夢に描いたこともある彼女の媚態に胸の奥から甘く切ない感情が湧き上がる。
処女ではない慣れた仕草で服を脱がされていく様子がキリキリと胸をえぐる。
──あの頃もっと強くおしていれば俺の女になっていたのか?
黒く疼く心を隠して、ブラとショーツだけになった彼女を広いベッドの真ん中に座らせる。
「脱げよ」
冷ややかな声が嫉妬心からきているものだとはフジタカ自身も気づいていない。
さなえは自分から脱ぐという行為をある意味、踏み絵のように感じていた。
この背徳は自分が望んでいること、それを男に見せつけるようなものだった。
小さく震えながらブラのホックをはずし背を向けてサイドテーブルの上に置く。
背を向けたまま脱いだショーツは見えないようにブラの下に隠した。
そしてじっとフジタカの視線に肌を晒す。
浮気などという軽い気持ちでここまで出来るものではない。
彼女は俺の女になろうとしている、フジタカはめまいがするような高揚感にゾクリと背が震える。
明かりを消してから服を脱ぎ捨てお互いの熱い肌を確かめ合った。
だが愛撫するたびに憎らしくなる。
この乳首も尻もクリも、もう違う男にいじられてしまったのだと思うと、せっかく抱けたのに優しくする
気になれない。
強めにいじくって、それでも抵抗してこない彼女に苛立ちさえする。
ひととおり前儀をすませると、少々乱暴にうつぶせで寝かせ、腰をつきださせてバックから挿入する。
愛液が絡まりまとわりつきながらもきつく押し戻そうと膣が蠢く。
気にせず一気に奥まで貫くと、高い喘ぎが短く響いた。
ゆっくりとかきまわし、逃げるようにふるえる腰を引き寄せる。
「男がいんのにこんなことされて、そんなに俺のこと好きなの?」
愛しいはずなのに、虐めたくてしょうがない。
あの時自分を選ばなかった彼女の心に爪を立てて傷をつけたかった。
そんなことには気づかずに彼女は熱に浮かされたようにかすれた声をだす。
「……うん……」
その素直さにいっそう嗜虐心がかきたてられる。
なじんだように蠢く膣からひき抜いていくと、ぬりゅっとした感触が名残惜しい。
「あ……やめないで…………やだ…………」
「どうしてほしいんだ?」
にやにやと嬉しそうな顔つきで彼女の横顔をのぞきこむ。
目に涙をにじませて羞恥に頬を染めながらもフジタカを求めて口走る。
「……いれて……いれてぇ……いっぱいして…………」
おねだりさせても気が済まない。
「淫乱だなあ。じゃぁ、さなえは淫乱です、て言えよ。言ってる間だけ入れてやるよ」
亀頭だけをこすりつけて指でクリをいじめると彼女はぶるぶると肩をふるわせた。
それでも身体の疼きには勝てないのだろう、ぎゅっと目をつぶって口を開く。
「……い、淫乱です……さなえは淫乱です………はあぅっ」
約束通りにフジタカはずぶずぶと蜜であふれかえる卑猥な穴にねじ込んでいく。
「ああっ……い……うく、んああっ」
痺れるような快楽の太さに彼女の背がよじれて言葉がとぎれる。

「ほら続けて。淫乱ですって言わないとまた抜くぞ」
「あく……い、いんらんです……いんらんです……い、いいっいっちゃういっちゃうよぉ……」
子猫のように背をのけぞらせて悦楽の叫びをあげる彼女。
フジタカは黙って腰を揺さぶり続けていたが、ふと思いついて彼女を冷たく見据えて言い放った。
「好きって言えよ」
汗が彼女を濡らしていく。
我を忘れたかのように何の躊躇も見せずに彼女は男の名を呼びながらまた絶頂へと達する。
「すきぃ……すき……フジタカすき…………いくぅいくっ……すき………!」
「お前はほんと、淫乱だなあ……」
悔しい気持ちがおさまらない。
俺のことが好きならなぜ男と別れてないんだ、身勝手な女だ、とクリを強くねじりあげる。
「っ!!いやああ!……っゆるして…………」
彼女が達したあともなお腰を打ちつけ続ける。強く、激しく、この上なく卑猥に。
「こわれちゃ……ああっもうゆるして……」
「許すわけないじゃん、壊してーんだよ。俺のもんじゃないからいいよな?」
静かな怒りが彼女に伝わったのか、恐怖の色をにじませて男を見やる。
「……ごめんなさい、ごめんなさ……あああん!」
「何に謝ってんの?だいたいお前だけ満足してどうすんだよ、俺にも満足させろよ」
尻の穴に指をひっかけて彼女の締まりを強くさせる。
「そこいや……だめぇ……」
泣きながら懇願するのをはねのけるように冷たい声をだす。
「いやならきちっと締めろよ。締め方ぐらいわかるだろ、処女じゃないんだからさ」
言い終わらぬうちにぎゅむっと膣が締まる。
「そうそう、わかってんじゃん、っと」
覆いかぶさるように体重をかけてベッドに手をつき、容赦なくピストンする。
粘つく音が派手に響き息も荒くなるが構わずに最奥を何度も突く。
彼女は涙を流して痛さに喘いで、あるいは悦んでいる。
どっちでも構わなかった。
──どうせ俺のものにはならないんだから。
「ほら、言えって!淫乱女!」
──めちゃくちゃにしてから投げ捨ててやる、凶暴な俺に幻滅させて、それで終わりにしてやる。
──気の迷いで一度きりの関係なんてありがた迷惑だ。
「好き……大好き……フジタカ……好き…………」
彼女の口からは自分の名と「好き」だけしかでてこない。

ますます胸がしめつけられていく。
嫌われたかったはずなのに違う展開になっていって、困惑するばかりだ。
なのに身体は素直に喜んで大量の白濁を彼女の中にぶちまけようとスタンバイしてくる。
腰の動きがとまらず快楽を求めて激しく彼女を責め立てる。
乱暴なまでに湧き上がる欲望の渦にフジタカは何故かムリヤリあらがった。
「……バッキャロー!」
そう叫んで爆発の直前に引っこ抜いた。
びくびく震える彼女の白い尻や背中に撒き散らす。
ぐったりとうつぶせにベッドに沈む彼女は肌を火照らせてハァハァと荒く息をついている。
「……なめろよ」
まだ責め足りない。
今さらながら自分に身体を許した彼女をどうしても許せない。
ふらつきながら彼女が男の下半身に身体を近づける。
頬を染めて舌をつきだし、精液がこぼれおちる男根を舐めようとする。
ふるえる舌先が白濁をなめとる寸前、フジタカは彼女をきつく抱きしめていた。
「なにやってんだよお前……」

理解できない。
自分のことも、彼女のことも。
「そこまで………なんなんだよ……」
彼女は行為の最中から言い続けている言葉を繰り返す。
「……好きです……」
抱きしめながら唇をかみしめて言葉の意味を考えるが、何もわからない。
「なんなんだよ……」
彼女は目をつぶり泣いていた。
「好きです……」
「わかったよ……」
フジタカもなぜだか涙がこぼれそうになる。
見つからぬように腕で目をこすりごまかし、壊れるほどに抱き潰す。
「……俺もだよ…………好きだ」
ここからどうするつもりなんだ、と理性が呟く。
だが今はどうでもよかった。
もうしばらくはこの純情極まりない抱擁を味わっていたかった。
女のずるさに絡め取られて抜け出せない底なし沼。
そうと知りつつも甘美な満足感がたまらない。
彼女の望みはなんなのだろうか。
──俺の望みと相容れるものなのだろうか。
どちらかが次の言葉を口にするまで、フジタカはさなえをぎゅっと抱いたまま、確かな幸福の中にいた。

「いきなりつきあいだした訳じゃないの。……ずっと黙ってたの」
スタバで早朝のコーヒー。
大学生に戻った気分だった。
「なんでずっと彼氏いるって黙ってたんだ?意味がわからん」
「それはその、だって……フジタカが……」
「俺?俺がなに?」
つまり彼女はフジタカに惚れ、当時つきあっていた彼氏と別れてフジタカに告白しようかと悶々として
いるうちに彼氏がいることがバレて、しかもフジタカが彼女をつくったので、告白も別れ話も上手くいかず
相手に説得させられるままにずるずるとつきあっていた、というのだ。
フジタカは呆れた顔でさなえを見やる。
──女はわからん。
だが目の前にいるこの女は愛おしい。
「じゃあ改めて」
「え?う、うん」
「俺とつきあって」
うまく笑えただろうか、フジタカはみるみる目に涙をためていく彼女を見つめながら昨日の荒れた夜を
思い出す。
苦い思い出だがそのうち笑い話になる日がくるのだろうか。
「……順番おかしいよ……」
こぼれる涙を隠そうともせずに幸せそうに微笑む彼女を、フジタカはとても綺麗だと思った。

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