さや3
2021/11/26
ある種の出来心から始まった俺の盗撮DAYS。
沙耶が実家に戻る度に実行した。
何度見ても美しい肢体。顔。乳。陰毛。
俺はお礼として精液を飛ばした。
抜き終わった後に気付く。
興奮は射精ではなく、もしかすると盗撮行為のスリルの方が上かもしれない、と。そんなことも思うが、しかしレンズ越しの沙耶を見つめるとその裸体がすべてと思わざるを得ない。
そんな日々が一年続いたある夏の日。
妻が妊娠した。そうか、と俺は思った。
瞬間、なにを血迷ったのか、俺は盗撮を続ける誓いをした。
まったく最低な父親だ。カス。ゴミ。でも今の俺は「褒め言葉だろ?」と狂ったように笑う。間違いない。
つまり、沙耶への愛は違うのだ。
妻は妻として生きているが、沙耶は俺の手の中で生きている。まるでガラスの小屋に住んでいる少女が遊ぶ新喜劇のような家に住んでいるわけだ。
ディスプレイを撫でる。
しかし沙耶には触れられない。
ガラスの向こうにいるのに。
もうわかっていた。
俺はすでに用意していたあるブツを引き出しから取り出した。強力な睡眠剤。非合法のアレだ。小型カメラなんか比ではない。
二階の自室で、そっと床に耳をつける。リビングからの楽しい声。生まれくる天使を祝う声だ。
俺は明日の計画を経てる。
沙耶はどうするか、それはまだわからないが……
しばらくして、沙耶が部屋に来た。
漫画を借りに来る約束をしていたのだ。
俺はすでに閉じたノートパソコンに肘を付き、用意していた漫画を床に置いた。
「これで全巻だよ」
「うわあ、多いね。いる間に読めるかなあ?」
「明後日の月曜日の朝に出るって言ってたね。10巻まであるから、難しいかも」
「そっか。明日全部読もうかな……」
そこで俺はハッとした。
しかし顔には出さない。グッとこらえた。
「あ、明日は家なの? 出掛けないの」
「たまにはね。DVDレンタルしたりするよ。お母さんはお姉ちゃんと病院行くらしいから、自宅警備ってのをするの」
と、沙耶は笑顔で答える。
「俺も行くべきだよな、病院」
すると、沙耶は首を横に降った。
「行かなくていいよ。明日はお姉ちゃんじゃなくて、うちのお母さんの子宮検診だからさ。お姉ちゃんは付き添いで、本当の目的は帰りに子供服を見ることだって」
「そうか」
俺は勃起をこらえていた。
明日は沙耶と家に二人きり。
土曜日は確か義父もどこかへ行っている。
つまり、最高の睡眠薬記念日ってところだ。
「じゃあ、俺はなにしよっかな?」
「たまにならかまってあげるよ。漫画の合間とかさ」
「俺、子供じゃないから」
ふふふ、と沙耶は笑った。
俺は彼女の裸を知っている。乳首の色も形も、陰毛の感じも見た目の肌のなめらかさも。そんなことは知らず、笑顔で話しかける沙耶。こんな陵辱行為があって良いのか? 悪だ。俺は最も悪と書いて最悪と読むクズ野郎だ!
笑いをこらえながら、沙耶を部屋から追い出した。
次の日、朝から早速二人きりになった。
沙耶はだらしなくキャミソールのままでいた。
もう俺に対しての遠慮は皆無だ。彼女はいつか勝手に裸になるかもしれない。もちろんそれはやめてくれ。俺の楽しみが減ってしまうのだから。
「レンタル屋さんっていつ開店かなあ?」
沙耶の問いに、10時と答えた。
今はまだ9時前。ちょっと早すぎる。
俺は椅子に座り、沙耶が飲んでいたカップを探す。
少しコーヒーの残ったカップ。俺のポケットには、すでに睡眠剤がある。作戦はすでに組み上がっている。早くしたい。そう思った。
時計が9時半を指す頃、沙耶はリビングのテーブルに伏していた。俺は確認のため、髪に鼻を寄せる。匂いは妻と違う。沙耶の匂い。そうとしか呼べないものだ。
「バツグンだな、沙耶」
敢えて沙耶に尋ねる。
しかし彼女は夢の底。寝息を立てている。
俺は人殺しの気分で彼女を二階に運んだ。
睡眠剤の適量を入れた。
効果は約二時間。まだまだ時間はある。
「楽しもうか、沙耶。準備はバッチリさ」
俺はゆっくり沙耶の身体に手を伸ばす。
布団に寝転ぶ沙耶。足の先に二本の指を立て、まるで散歩でもするように、彼女の身体を指で歩いていく。
少々硬質で締まった太ももへ進み、陰部の土手で一休み。また歩き出して、へそを抜けて、乳房の先に指が降り立つ。最後は首を伝って彼女の唇に不時着だ。
指の旅。
心地よい旅だった。
さて、と俺は道具を持ってきた。
ビデオカメラ二台、小型を一台、そしてただのカメラも一台。
一台のビデオカメラは上の方から、小型カメラは横、そしてもう一台は手に持つ。
「ああ、そうだった」
俺は全裸になった。
イチモツはすでにへそにつきそうだ。先走り汁を指で掬い、そっと沙耶の唇につける。
「はじめようか、沙耶」
俺はゆっくりと沙耶の服を脱がしていく。
もちろん元の形で戻せるように丁寧に。高ぶりは止まらない。なんせ、あのレンズに守られていた秘部のすべてが感触としてあるのだから。恐ろしい高揚感。
やばいな。
これが口癖になる。
やばい犯罪者は自分のはずなのに、カメラにも残っているのに、言葉と震えは止まらない。心地よく止まらないのだ。
俺は立ち上がる。
沙耶の全裸が目に映る。
貝を開くように服を脱がされた沙耶。
キャミソールは丸まって、床に置いてある。
レンズ以上の感動……になるはずだった。
「違うな」
俺のイチモツ次第に活気を失っていく。
違うのだ。
沙耶の裸体ではあるが、違うのだ。
俺はそこで初めてレンズ越しの物に本当の愛を感じていることに気付いた。
そこから一時間、カメラは沙耶の身体を舐め尽くした。
そうだ。これなのだ。
またイチモツが起き上がる。
イチモツはアンテナ。俺の性欲のベクトルを正しく導いてくれる。快楽へのバイパスだ。
よだれや汁を垂らしながら、夢中になって沙耶をカメラに収める。
その時だった。
「ん……」
沙耶が寝返りを打った。
寒気がした。俺のわずかに残った普遍性に軋みが鳴る。
俺はすぐにカメラたちを部屋に戻して服を着た。
沙耶のところへ戻る。
彼女はまだ寝ていた。
俺は繊細なガラス細工に触れるように、あるいは、寝ている赤子を扱うように、沙耶に服を着せた。
その十五分後。
沙耶はリビングで目を覚ました。
キョロキョロして、寝ぼけた顔のまま、テーブルのコーヒーを口にしている。
「こーくん?」
俺は顔を上げた。
手には漫画。まるで今まで読んでいたような顔をしてみせる。
「沙耶ちゃん、寝ちゃってたね」
「そっか。こんなの初めてだよ、寝落ちなんて」
沙耶は太ももをポリポリ掻いている。
俺はちょっとの不信感も出せないようにまくし立てる。
「そうだ。この漫画もおもしろいよ。貸すから読めば?」
「えー、読み切れないよ〜」
沙耶はこちらを見ず、爪を見ながら答える。
「大丈夫、っていうか貸してもいいよ」
「でも、荷物になるからいいや」
「じゃあさ、短編集の方を貸すよ。この漫画家の短編集なら一冊で楽しめるし。二階から持って来るよ。ちょっと待っ……」
俺が立ち上がったその時、唐突に沙耶は手をつかんできた。
心臓が掴まれた気分。それが正しい比喩だと悟った。
「ど、どうしたの、沙耶ちゃん?」
「これ」
と、沙耶は爪を俺に向けた。
引っかかれると思った。
「な、なんだよ。爪がどうかしたの?」
「せいし」
「えっ?」
沙耶は爪の溝を指差した。
なにかカスのようなものが詰まっている。
「あ……あたしの太ももに……精子がついてる……」
俺はすぐに沙耶の手を振りほどいた。
震えがすぐに来たからだ。マズイ。太ももに俺の汁が落ちて固まっていたらしい。拭ったつもりだった。たぶん目に見えない形で付着していた。付いた本人は皮膚が引っ張られていたのだろう。
「……こーくん?」
「なんで精子ってわかんの?」
アホみたいな質問をしてしまった。
沙耶は猫のように俺を見上げたままだ。
「匂い。嗅いだことあるから」
「……そうか」
「ねえ、こーくん」
沙耶は立ち上がり、俺の前に立つ。
もう恐怖しかなかった。
次第に力が抜け、俺は尻もちをついた。
〜四の回へつづく〜