2度目の告白

2018/02/08

前編:2度目の告白――――世界の色が変わる。
俺の目はどうかしたのだろうか。
何だか景色の様子が違って見える。
病室の窓から見える世界の色は、こんなにも鮮やかだったのだろうか。
目が覚めて、病室の窓の外を見た俺は思った。
なんて事のない、街の景色だけど何か違って見える。
まるで、昨日とは違う景色を見ているようだ。
今まで俺の目に映っていた景色は色を失っていたのだろうか、それほどまでに色彩は鮮やかだった。
赤はより激しく情熱的に、緑はより穏やかに、青はより爽やかに、黄はより華やかに、そして、白はより優しさを増して俺に微笑んでいるかのように見えた。
心持ちだけで見える景色の色まで変わってしまうのだろうか。
昨日の夕方の事を思い出し、思わず顔がにやける。
美樹は俺を受け入れてくれた。
好きだといってくれた。
俺の彼女になってくれた。
その事実を考えると、頭がぼーっとする。
が、いつまでもこうしているわけには行かない。
「…よしっ!」俺はベッドから勢い良く飛び起きた。
こんな所からはもうオサラバだ。
「あ、来てたんだ…」学生服に着替え、病院の外に出ると彼女は待っていた。
「あ、おはよう…尚くん…」ひさしくんの声がやや小さくなる。
まだ、彼女には呼び慣れていないのだろう。
初々しい照れが感じられる。
愛しかった。
「あ、お、おはよう、…美樹」しかし、それは俺も同じだったようだ。
「病院の中で待ってれば良かったのに」
「うん…なんとなく、病院の雰囲気って馴染めなくて…」
「ああ、確かにあんまりいい感じじゃないしね」
「それより、もう大丈夫? …身体」
「全然問題ない。至って快調。…ちょっと筋肉痛はあるけどな」
「ふふっ。頑張ってたからね」昨日の夕方、あの後、彼女と一緒に登校すると約束した。
美樹は中々帰りたがらなかった。
母親が、着替えやら、鞄やら持って戻って来ると言ったら、「ご挨拶しなきゃ」などと言い出した。
「あれにはびっくりしたな」歩きながら俺は言う。
「だって、当然じゃない。か、彼女なんだから…」胸にじーんと来る想いがあったがごまかした。
「いや、俺としては恥ずかしくてね…。まぁ、近いうちにすればいいよ」
「うん」俺はそっと美樹の手をつないだ。
美樹が少し驚いて俺を見るが…すぐに笑顔。
俺も。
「でもなんか夢みたいだ」
「何が?」
「昨日の今頃はまだ片瀬…って呼んでたのに、今は手をつないで一緒に登校してるんだもん」
「あ…そう言えば」美樹は静かに微笑む。
「俺は…なんて幸せなんだろう。信じられない。夢みたい」正直に胸の内を伝える。
「大袈裟なんだから…もう」
「いや、昨日からさ、変なんだよ」
「変? 何が?」
「何て言うか、落ち着かないんだ。そわそわするし、気持ちが高揚してる。妙にテンションが高いんだ。今までこんな事はなかったんだけどね。多分…浮かれてるんだろうな。嬉しすぎて」
「恋の熱病だね?」
「病原菌は君だけどな」
「ひどーい!」笑って怒る彼女。
「ごめん、ごめん、冗談…」俺はじゃれながら言う。
「あ。そろそろ手、離した方がいいかも」学校に近づいた頃、俺は言う。
同じ学校の生徒の姿を見かけるようになってきた。
「あ…そうね…。まだ、恥ずかしいもんね…?」
「うん…流石にまだちょっと…ね。からかわれるだろうし…」
「うー…」少し唸って不服を訴える彼女。
「仕方ないだろう? 美樹だって恥ずかしいって…」手を離したくないのは俺も同じだったけど。
「うん…。じゃあ、後でまた…ね?」
「ああ」そう言って二人、並んで歩いた。
「じゃあ、またあとで…」それぞれの教室に近づいた頃、美樹が言う。
「あとって、休み時間?」
「あ、ひ、昼休み用ある?」何故か思い出したように慌てて言う美樹。
「? いや、ないけど?」
「じゃ、じゃあ一緒に…ご飯…いい?」伺いを立てる様な表情で。
「…当たり前だろ?」
「! うん!」笑顔に花が咲いた。
昼休み。
俺は美樹の教室の前で待つ。
「あ、尚くん!」周りに人がいるのにも気付かず、美樹は笑顔で寄ってくる。
「…声でかいぞ…」
「あ…。ご、ごめんなさい」
「いや…行こう」美樹のクラスの女子が驚いて…ひそひそ話。
内容は聞かなくても大体わかる。
まぁ、いずれ人には知られる事だ。
俺はなるべく気にしないようにした。
「ぷはー。やっと落ち着ける…」中庭は生徒はまばらで、俺達は備え付けのベンチに座る。
俺は深い溜息を吐いて言った。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと…朝、教室行ったらさ、皆に拍手されて、熱烈歓迎を受けちゃって…。参ったよ…」
「あ、マラソンの?」
「うん。何か、みんな心配したんだって。感動したとかって言ってた人もいたな。冗談じゃないよ。こっちはリタイアしたっていうのに」
「ふふ、私のクラスでも話題になってたよ」
「マジで?」
「うん、走ってて倒れるのって皆、はじめて見たみたい。…私もだけど」美樹は笑う。
「それでさらに…」俺は続けた。
「何?」
「俺が運動部でもないのに川原で特訓してたのを、誰かが見てたらしく…」
「うんうん」
「それが教師に知れ渡って校長と、体育教師が感動したらしい。おまけに、体調悪いのに必死で走ったのも」
「…それで?」
「どうやら、後日、俺だけ別に表彰があるらしい。努力賞だか、敢闘賞だか、特別賞だか知らないけどそういう感じの。HRで担任が言ってた」
「すごーい!」美樹は驚いて喜ぶ。
「でな、その知らせ聞いた時、また教室が拍手喝采…。何故か俺は立たされて、頭を下げてた。おまけに秋田のバカは「西野コール」の音頭まで取り出す始末。
あの宴会部長め…」俺はぐったりした表情で恨めしげに言う。
「あ、それ聞こえた…。いきなり沢山の声で、「に・し・の!に・し・の!」って。
ふふっ、秋田君らしいね?」
「あいつは盛り上がれば何でもありだからなぁ…」
「でも、凄いよ。10位は無理だったけど、結局入賞じゃない。ふふっ」
「あー。そうか。一応、約束は果たした事になるか…。でもなぁ…なんかブービー賞みたいだよ。小学校の「良く頑張ったで賞」みたいな」
「あんまり嬉しくないの?」
「うーん。まぁ、貰える物は貰っとくさ。どうせだから。ただね、予想以上に目立ってしまって、照れくさいんだよ。しかもそれがリタイアで得た評価ってのが…ね」
「奥ゆかしいね。尚くんらしいな」美樹は誇らしそうに言う。
「まぁ、でも約束は果たした。これで。晴れてデートですよ、片瀬さん」
「あ…、そ、そうだった…」絶対この人は今まで約束を忘れていただろう。
「OK?」
「う、うん」
「…ちなみに、賞もらえなかったらデートはナシだった?」悪戯の虫が騒ぎ出した。
「え? そ、そんなわけないよ!」
「でもなー。10位以内って約束だったからなー。やっぱしない方がいいかなぁ…」
「え? ちょ、だ、ダメだよそんなの!」うろたえる彼女。
「…冗談だって」笑って言う。
「え? ・・・も、もう! 意地悪…!」
「ははっ、ごめんごめん」
「…で、俺パン買って来ようと思うんだけど」
「あ、ちょ、ちょっと…まって…?」
「? うん」
「こ、これ…」バッグから包まれた四角い箱。
…もしや。
「俺に?」
「う、うん…」緊張して渡す美樹。
包みを解いて箱の蓋を空ける。
「…わあ。サンドイッチだ…」四角い箱に綺麗に区画されたサンドイッチ。
丁寧に、均等に整列されている。
これだけでも、手間が掛かっているのがわかる。
「ど、どうぞ…」彼女は魔法瓶を出して、琥珀色の熱い液体を注ぐ。
紅茶だった。
「これも? いつもは魔法瓶なんて持って来ないよね?」
「う、うん…。きょ、今日は特別に…」ほんのり染まる頬。
「…じゃあ、頂きます」
「め、召し上がれ…」お決まりの常套句を交わす俺達。
美樹は身じろぎもせず、じっと俺を見詰める。
なんだかこそばゆい。
再び頭の中で悪戯の虫が蠢動し始める。
ひとつ掴んで口に入れ、咀嚼する。
…直後。
「う…うう、こ、これは…!? ううう!!」そう言って俺はうずくまり、腹を押さえ苦しみ出す。
「え? ちょ、ちょっとどうしたの?」驚愕の表情を浮かべ青ざめる美樹。
…ひっかかった。
「う………、うまい…」
「ええ?」
「いや…、非常に上手い。美味。おいしい。とても」俺は得意げに笑って言う。
「え? …あ。も、もう! また騙した?!」今度は赤くなる美樹。
「ははは。非常に古典的だが、引っ掛かったね。ははっ」
「もう! そんなバカな事ばっかりして! ベタベタじゃない!」
「俺は基本に忠実なんだ。これは王道だ。お約束だ。古から伝わる愛の儀式なんだ。彼女が作ってくれた最初の手料理を食べた男は、必ずこれをやらなくてはいけない。真実の口に手を入れたら、必ず引っ張られなきゃいけないのと同じだ」
「私はオードリーじゃないもん…!」
「じゃあ、次は缶ジュースを後ろからほっぺたに付けて「ひゃっ、冷たい!」だな」
「もう!」非難しながらも彼女は楽しそうだった。
目は怒っていない。
「でも、うん。美味しいよ、ホントに」そう言って俺は食べ続ける。
紅茶も上品な甘みで食欲を刺激した。
「そう? ほ、ほんと?」
「ああ、美味しい。料理上手なんだな、美樹は」
「え? そ、そう? 嬉しいな、やった…」胸を張る彼女。
「でもさ、これって作るの大変だったんじゃない?」
「え? どうして?」
「いや、綺麗に並んでたし、パンも上手にいい色に焼けてる。生でなく、焦げてもなく。おまけにパンの耳も丁寧に切られてるみたいだし…」
「…あ、ちょ、ちょっとだけ頑張っちゃった…かなぁ…?」恥ずかしそうに言う。
「いや、ちょっとどころじゃないな、これは。凄く手間が掛かってる。うん、嬉しいよ。ありがとう」
「えへへ。どう致しまして…」彼女はぺこりとお辞儀する。
昼休み。
至福の昼休み。
このまま終わらなければいいのに。
俺は爽やかに晴れた空を見上げて願った。
「ヘイ、YO! そこのカレシ?。こっち来いYO!」
「…今度は何だ。リズム感のないラッパーよ」
「いやいや、まだ…

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