憧れていた女先輩が実はドSだった
2018/07/07
僕の名前は山本 祐助(仮)。
ただいま26歳の、社会人2年目。
一昨年某国立大学の大学院を修了し、念願の研究職にはつけたものの…。
企業での研究はちょっと想定外っていうか。
やっぱり基礎研究って企業じゃ
そんなに出来ないよね…。
何でも経験が大事だって言うし…仕事は大変だけど、やりがいの方が大きいわけで、
なんとか頑張ってます。
これは雨がじめっと肌にまとわりつく、梅雨の日のお話。
僕の職場、総合研究所で働く人達にとっては何気ない一日だったが、
僕にとっては、到底忘れることのできない一日となった。
「6月20日…今日も雨…か。傘持ってかなきゃ。」
こう呟いて、少し足早に寮を出る。
職場である総合研究所までは徒歩5分で着く距離にこの寮はあった。
「今日は分析研修のまとめを終わらせなくちゃな。それと…」
と、今日の予定を考えているうちに研究所の玄関に到着した。
「祐ちゃん、おはよう!」
いつもの声が耳に入ってきた。
「 (なんだ、エミリーか…) おはよう!」
とお決まりの挨拶をする。
これが僕にとって一番嫌いな時間だ。
エミリー…本名は後藤 恵美(仮)。
僕と同じ研究グループの同年入社、いわゆる同期だ。
身長174cmのスレンダー、顔は佐藤江梨子似で美人じゃないかという
同期も何人かはいるが、僕は全くそう思わない。
なぜなら、
性格が全く合わないからである…。
それに、僕より背高いし…。
「祐ちゃん、今日なんか元気ないよ?どうしたの?
さてはなんか悩みでもあるとか?」
エミリーが言う、よく分かってる女だ。
それはお前のせいだって…という言葉を飲み込み、僕は答える。
「昨日の夜から、ちょっとだるくてね。でも、今は全然大丈夫だから。」
はぁ…めんどくさい女だな、つい口から出そうになった言葉をまた飲み込む。
「そうなんだ。
あ、話変わるんだけど、昨日彼氏と電話でけんかしちゃってさー。
っていうのもね…」
ほら、いつものが始まった。
朝っぱらから、もうごめんだ…。
こいつは愚痴しか言えないのか…僕をなんだと思ってる。
お前のおもちゃじゃないんだ。
その時、急に思い出したかのように、いつものパターンでこれをあしらう。
「エミリー、また喧嘩しちゃったんだ。
ごめん、僕急ぐわ。
課長と話さなきゃ
いけないんだった、ごめん!」
昨日予定入れてて、ちょうどよかった。
僕はエミリーを横に、そそくさと
階段を一気に駆け上がった。
ふう…やっと逃れられたか。
安堵の思いに心を落ち着かせたその時であった。
「祐くん、おはよう!」
先程とは違う、甘い声が僕の左耳から脳天を刺激し、体中を一気にかけめぐる。
この声は…もしかして…。
ふと振り向くと、そこには僕の憧れである、彼女が立っていた。
林 真紀(仮)さんである。
芸能人で言うと、水野美紀を少し小さくさせ、ちょっと若くした感じ、
というと伝わりやすい。
サラサラとした長髪、ほんのり薄化粧が特徴のとてもかわいい、
一つ上の先輩だ。
林さんはいつも白衣を身にまとい、そこから少し見える服、
特に胸に自然と目がいってしまう。
今日は…薄ピンク色のTシャツかぁ…。
「祐くん、聞いてる?顔がちょっと赤いけど、風邪ひいたとか?」
エミリーがさっき言っていたのはまんざら嘘でもなさそうだ。
「林さん、おはようございます。
昨日は体調が少し悪かったんですけど、
今は全然大丈夫ですよ。
」
僕は林さんを見て顔が赤くなったのを悟れないように、必死でごまかした。
「無理はしないでね。それじゃ。」
そう言い残し、僕の前を通り過ぎていく。
風にのって、林さんの甘い香り、
フェロモンが僕をさらに刺激させる。
「お疲れ様です。」そう言いながら、深々と挨拶をした。
その時、自分の股間にふと目がいってしまい、イキイキと主張をする
自分の息子を見て少し情けなくなった。
課長との話し合いが予定通り終わり、デスクで今日の予定をたてていた。
「祐ちゃんは今日何するの?今日は実験するんだよね?」
…またあの女だ。
はぁ…。
一言一言に腹が立つ。
「今日はこの前のサンプルを糖分析しようかなと思ってね。」
適当に答える。
早くどっか行っちまえばいいのに…。
「私はねー、今日は課長とお出かけ。ほんと最近忙しい。おわってるよ。」
お前のほうが終わってるだろ。
ただし、口が裂けても言えないが…。
「今日は総研のみんなは出張みたいで、先輩はほとんどいなくなるらしいよ。」
そう言い残し、エミリーは課長と共に外出したようだ。
嵐がさったのを横目に見ながら、気がつくと僕は林さんのことを
ふと思い出していた。
「だめ、だめ。
仕事、仕事。
今日はやらなきゃならないことが
たくさんあるしな。
がんばろう。
」
そう自分自身を戒め、再びデスクに向き合い、仕事を始めた。
「えっと…準備はこんなもんでいいかな。」
実験計画を誰もいないデスクでつぶやき、僕はペンと実験の
プロトコルを持って実験室へと向かった。
その途中でサンプルを冷蔵庫から出し、それを測定用に調整した。
ここまでは順調だ。
あとはこの機械の使い方だな…この通りにすれば動くはずだ。
マニュアル通りに機械を立ち上げていく。
よし、順調だ。
「これであとはスタートだな…よし。」
とスタートボタンを押すが、測定開始を告げるメッセージの代わりに、
以下の文字が灯った。
Error! …あれ??
なんで?これで前は動いたのに…もう一回やり直してみよう。
しかし、また灯るのは・・・。
Error! …え??
「やべー、使い方忘れちゃったな。誰かに聞くしかないか。」
そう思い、周りを見渡すが、そこには誰もいない。
室内が機械音だけであることに気づいた。
「そう言えば、エミリーがみんな出張に行くって言ってたっけ…これ、やばいな。」
そう一旦、諦めかけたその時。
ドアの向こうに一人の女性の影が見えた。
「…あれは林さん?」
そう思った瞬間、僕の体はその女性に向かって走り出していた。
予想通り、
それは紛れもなく、林さんだった。
「あの…すみません、糖分析装置の使い方を教えてほしいんですけど・・・。
今少しお時間大丈夫ですか?」
ドクドクと、心臓の鼓動が急に早くなるのを感じた。
「…うーん。」
林さんのそっけない返事が気になる、はぁ…やっぱり無理か…。
「…いいよ。でも、ちょっと5分だけ待ってて。後でそっちに行くから。」
彼女はそう告げ、奥の部屋へと消えていった。
あの林さんと一緒にいられる。
そう考えただけで、
僕の緊張はすでにピークだった。
「祐くん、お待たせ。どこが分からないの?」
林さんは宣言どおり、5分後にやって来た。
やっぱりかわいい人だ。
いや、よく見ると、きれい系でもあるかな。
「祐くん?聞いてる?この機械の使い方でしょ?」
いけない…また、ついぼうっとしてしまった。
「すみません!実はさっき何度か機械を起動させようとしてみたんですが、
Errorが出て使えなくて。
」
必死に身振り手振りを使い、説明する。
緊張で額から少し汗が出た。
側にいるだけで、林さんの体から発せられる甘い香りで頭がクラクラしそうだ。
動揺してるのを悟られないようにしないと…。
林さんに嫌われるのは
絶対に避けなければ。
「ほんとだ、Error出てるね。ちょっと貸してみて。」
そう言い、林さんは僕の手に重ねるようにマウスに手をのせた。
…え??
「もう一回最初からやってみようか。まずはソフトの再起動からね。」
今…僕の手の上に、林さんの手が重なっている。
これは夢なのか?
いきなりのことに、僕はどうしていいか分からなくなった。
恥ずかしさのあまり、僕は手から目線をずらし、冷静を保とうと努力した。
しかし、これが逆効果だった。
顔を横にそむけた時に気付いた…。
林さんとの顔の距離はあと…たった数センチである。
もちろん、
あの体も…。
また、いい香りがした。
「たぶん、このモードに切り替えるんだよね…それで…
ここで……を…押す…よね。
」
林さんの言葉はもはや僕の耳に全く入ってこない。
僕は一体何を考えてるんだ…仕事中だぞ?せっかく林さんが
教えてくれてるっていうのに。
……