ささいな気持ちから・・・
2018/02/02
当時16歳、高校2年だった妹は暇があれば友達と携帯でメールをやっていた。
メールの相手は学校の友達だと思うのだがいつも携帯をいじくり回してた。
家で食事をしてる時にでも携帯を手元に置き食事中にも関わらず相手からメールが届いたらすぐに返事を送り返していた。
親から携帯のパケット通信の使用料が高過ぎるから控えるように言われてもメールを止めない。
携帯を持った当初は携帯の料金は自分のこづかいで賄うはずだったのにいつの間にか親から足りない分を出してもらうようになっていた。
だが親もそうは甘くない。
あんまり程度が悪いから料金の補てんをストップしてしまった。
そして矛先は俺に向けられた。
それに怒った俺は親に何とかしてくれと頼み込み、その対応策として親が妹の携帯の契約を定額制に変えた。
そこまでは良かった。
だがこれを機に妹の携帯依存症はなおさら酷くなってしまった。
朝から晩まで暇さえあればメールばかり。
メールをやってる時間があったら相手に会いに行けばいいだろうって何度も言ったがそれでも減る様子がなかった。
俺はやりたい放題の妹を兄として鉄槌を下すためにある策略を思いついた。
その策略とは妹をメールで釣り上げることだった。
俺もメールは嫌いではない。
それどころか女とメールをするのを得意としている。
当時、付き合ってた彼女は出会い系サイトで知り合ったし女性のメル友を多数抱えていた。
その殆どが成人の女性だったので妹のような小娘をたらしこむこと簡単だと考えた。
釣られた相手が兄貴の俺だから良いが、これが他人だったら現在の物騒な世の中では何をされるか知れたものではない。
そんなことにでもなってしまったら身内としては嫌なので穏やかの形でメール漬けの妹に自称ネットナンパ師の俺がお灸を据えることにしたのである。
ちなみに妹は困った人を見掛けるとほっとけない性格をしてる。
それを逆手に取った。
俺は妹に間違いメールを送ろうと考えた。
しかも架空の会社の重要連絡で何が何でもすぐに連絡を入れないと緊急事態に陥ってしまうかのようにメールの上で装おうとした。
作戦決行の日、俺は溜まってた有給休暇の消化も兼ねて仮病を使って会社を休んで磐石の態勢で作戦の遂行にあたった。
俺は妹に宛ててメールを打った。
それは自分の女にメールを送るより遥かに気を使った。
妹の優しさに訴え掛けるように大人の男性を思わせるようにメールを打った。
送信するまで何度も書いては消してを繰り返し、結局は70回以上もメールを打ち直してから送信のボタンをクリックした。
返事が返ってこなくても良かったが出来れば返ってきて欲しいとメールに願いを込めて。
俺は自分の妹のメールアドレスを知らなかった。
身内だから電話だけで済むのでメアドを知る必要がなかったのだ。
ちなみに妹も俺のメアドは知らなかった。
妹のアドレスの取得まではそれなりに苦労した。
自分の妹だから兄貴が聞けば簡単に教えるはずだが妹に面と向かって教えてくれは気恥ずかしく言い難いものがあった。
そこで妹の友達から妹のアドレスを聞き出した。
友達は少し変に思ったみたいだが俺はれっきとした兄貴なので快く教えてくれた。
それがあったから作戦が遂行出来たのである。
友達がどうしても教えくれない時には金を掴ませてもいいとさえ思ってた。
そして俺がメールを送った約1時間後、携帯の着信音がした。
それは妹からだった。
メール間違えてませんか?これが妹から届いたメールの最初の本文だった。
思惑通りに妹は俺に釣り上げらてしまった。
しかしこれはほんの序章に過ぎなかった。
長年一緒に過ごしてきたから俺としては妹の性格は熟知してるつもりだった。
俺はすぐに再度確認のためのメールを送信した。
メールは緊急扱いになってるので時間を置いてしまったら妹に怪しまれると思ったからだ。
元来から携帯依存症の傾向が強く見られる妹が極めて紳士的に書かれてくるメールを無視をしないのは分かってた。
なぜなら妹は同年代より大人の男の方が好みだからだ。
俺は兄貴なのでそれくらいのことは知っていた。
お礼言った後、さも仕事の合間にメールを打ってるように装いながらメールを打った。
このメールは偶然だって思わせるように演出しながら妹とメールを交換したのである。
しかしその時は事務的な内容の数通程度のメールのやり取りだけで終わらせた。
仕事で忙しいはずの人間がこまめにメールなんかやってるはずがないのだ。
メールの目的は1つだけ。
妹の携帯に俺のメアドの履歴を残すことだった。
そしてその日の夜、遅くない時間を見計らって、改めてお礼言うためにメールを送った。
今日は本当にありがとうございました。
おかげで助かりました。
お礼なんかいいですよ。
お仕事中にご迷惑ではありませんでしたか?あのぉ、私、学生なんです。
学生さん?もしかして大学生ですか?違います。
高校生です。
そうなんですか。
大人っぽいから大学生かと思いました。
ちなみに君の年齢は?16歳です。
奇遇ですね。
僕にも君と同い年の妹がいるんだよ。
そうなんですか? この日から我々はメル友になってお互いのことをマキとトモと言うハンドルで呼んだ。
妹とメールを始めて1週間くらいの間は何てことのないごくありきたりの話をしていた。
メールの回数も少なくて日に3?4通程度だった。
しかし1週間を過ぎた頃、妹が学校のことで相談してきたのを夜通し掛けて話を聞いてやったのをきっかけに回数が多くなった。
妹は相手の顔が見えない安心感からだと思うが、俺に対して家ではもちろん友達にも絶対に話さないようなことまで話すようになっていった。
学校のこと、友達のこと、家族のこと等々、妹から送ってくるメールには等身大の16歳の女の子の姿が投影されていた。
俺はいつしか妹と一緒に問題の答えを探していた。
それと同時に自分のこの手で妹の心を裸にしてることに快感を感じるようになった。
妹に悟れないようにしながらメールのやり取りをする内に携帯を手放せなくなっていた。
ベットに横になりながらメールを打ってて携帯を手に持ったまま寝てるなんて日常茶飯事。
妹とメールを始めてから約1月半の間で総数は大小含めてすでに1500通を超えていた。
妹にメールを送ると学校での授業中以外にはすぐに返事がきた。
何となくそれが嬉しくて俺の方も妹からの返事を心待ちにするようになっていた。
家でも俺の部屋から10数cmの壁を隔てた向こうにはメールの相手である妹がいる。
エッチなメールは皆無だったがそれが目的ではない俺にはそんなことはどうでも良かった。
俺自身も妹とのメールにはまってしまっていた。
そしてその後も妹とのメールは続いた。
しばらくして妹はメールの端々に俺のことを他人の気がしないと書いてくるようになった。
そしてその日、いつものように妹と深夜までメールで語り合って、今日はこれで終わりにしようかと思った時、妹から届いた最後のメールに一言だけ言葉が書いてあった。
会いたいよ。
元ネットナンパ師の俺は過去に1度も自分の方から会いたいと言ったことがない。
必ず、女に言わせてきた。
そして会いたいと言って来ても1度目は仕事を盾にとってのらりくらりとかわす。
それは妹の場合も例外ではなく、この時もいつもと同じだった。
ごめん。
仕事で忙しく今は無理なんだ。
いつなら大丈夫なんですか?今の仕事は会社の社運が掛かってる仕事で当分は時間が取れそうにないんだ。
なんか、会えないちっく。
トモさん、すぐに会えないなら写メしませんか?電話で直接声が聞きたいです。
俺に会えないと判ってから妹から次々と送られてきたメールの内容がエスカレートした。
俺にとってはどれ一つとっても自分の正体がばれてしまうものばかりだった。
俺としては妹の要求に答える訳にはいかなった。
写メも電話も絶対に駄目だと思った。
その晩は例によって仕事を盾に会いたいと言ってきた妹をかろうじてかわし切った。
俺のことを信用してあれだけ自分をさらけ出してきた妹を結果的に騙してしまってる自分の行為に良心の呵責がなかった訳ではないが、それでも会う訳にはいかなかった。
翌朝、その頃にはもう恒例になっていた毎朝届く妹からのモーニングコールを兼ねた長い1通のメールが届いた。
そして届いたメールにはメールの相手である俺に対しての気持ちが丁寧な言葉で書き綴られていた。
おはようございます。
昨日あれからずっと考えてました。
・・・家では滅多に聞けない敬語で1つ1つ言葉を選んで書いたのだろう。
俺とのこれまでのメール内での様々な出来事の思い出から始まってお互いに悩みを打ち明けあって朝までメールを続けたこと。
その他もろもろの話。
偶然の間違いメールでの出会いから現在までの状況を自分の気持ちを込めながら順を追って丁寧に書かれてあった。
メールの文面の端々には頻繁に俺のハンドルが登場していて俺が妹とのメールで語った言葉が何度も書いてあって俺に対する想いが伝わってきた。
そのメールを読んでいてちょっと俺を美化し過ぎてるんじゃ?と感じたが素直に嬉しく思えた。
そしてメールには昨夜、俺が会うのを先に延ばしたことについても書いてあった。
そこには妹の本音が書かれていた。
私が子供だから会えないんですか? 妹は自分が子供だから大人の俺には物足りないから断られてしまってたと思い込み誤解をしていた。
妹は本当の理由を知らないからそれは仕方ないことだった。
俺はその文面にこれだけは否定しなければと思ったので咄嗟にメールを送り返した。
違う!君は子供なんかじゃない。
俺がメールを送り返したので妹からすぐに返事が返ってきた。
どうして会えないんですか?わけを教えてください。
私が子供だからですか?君が子供だから会えないんじゃない。
今は仕事が忙しくて時間が取れないんだ。
こうして朝早くから妹との深刻な内容のメールのやり取りが何度も…