最後の初恋

2018/03/08

ど素人が書くのでお見苦しい点も多いとは思いますが、どうかお許し下さい。
――川沿いの公園。
ここからなら彼女の家は目と鼻の先だ。
ブランコに隣あって座り、二人は暫し地に目を向けていた。
もう日は落ちていた。
「〜さん、この間はありがとう。わざわざ俺のわがままに付き合ってもらっちゃって…」
「いやいや、うちも楽しかったよ」
「そう言ってもらって嬉しいよ。それにあのMD、ありがとう。大切に聴かせてもらってるよ」
「うん」礼を述べることは出来た。
もしこの時点で言えなければ、永久に感謝の意は伝えられなかっただろう。
遂に俺は意を決した。
「それで、〜さん、一言言わせてもらって良いかな?」
「何?」
「……俺が心許せる唯一の女子であって欲しいんだ」
数分における沈黙。
先程まで高鳴っていた心臓の鼓動も聞こえない。
この合間が俺には恐ろしく、震えていた。
やがて沈黙が解かれる。
「…ごめんね、〜君の彼女になることは出来ないんだ。私には彼氏がいるから…。でもそう言われることは嬉しいよ。ありがとう。〜君は良い友達だから、これからも仲良くしてね」沈黙の間、彼女は俺を出来るだけ傷つけないよう、丁寧に言葉を選んでくれていたのだ。
断るときでさえ優しかった。
俺は今でもとおい彼女をそう思っている。
結局この日も家まで送った。
彼女は別れ際にその日一番の笑顔を見せてくれた。
この笑顔は彼女からの最後の誕生日プレゼントとなった。
俺はずっと彼女に感謝している。
事実上彼女はずっと、俺にとって「心の許せる女子」でいてくれた。
そして彼女は俺に、彼女だけが女子というわけではないことを教えてくれたのだ。
この日以来俺は他の女子とも交流をするようにし、彼女だけと親しくしようという考えを捨てた。
それは、彼女とずっと「友達」でいたかったからだった。
――幸福なときほど早く過ぎ去くものは無い。
彼女はあの日俺に言ってくれた通り、友達として俺に接してくれていた。
異性である彼女、しかしながら俺には一番親しい友達だった。
いつも彼女と登下校を共にした。
1駅前の始発から乗る彼女の前に立って車内で話もしたり、たまには彼女が駅に着くよりも早くからいつもの始発を待ち,隣に座ったこともある。
帰りはいつも俺が定期外の区間代を払い、彼女を家の前まで送っていた。
俺は彼女との大切な思い出の中で、ほぼ日課と化していたこの光景が最も好きだ。
暗い細い夜道を二人で歩く。
聞こえるのはささやかなる二人の話し声と笑い声。
家に着くまでに話を切り上げることが出来ず、彼女の親に見つかったことさえある。
それでも何も恐れはしなかった。
この日課がいつか止むことことも、知る由もなかった。
……こんなことを続けていたんだ。
周りから二人の関係を間違われても不思議でない。
そう思われるのも自然なことだ。
加えて、彼女から彼氏の影がどうも俺には見えてこない。
今でさえ、当時は誰と付き合っていたのか、また今は誰と付き合っているのかはわからない。
わかるのは彼女には彼氏がいるはずだということ……わかっているつもりだった。
彼女には彼氏がいるのだと。
それでも平日に彼女と共にいるのは俺だ。
彼氏ではない。
こういった俺の見解、周囲の目はある日ついに俺に魔を射した…。
――ある朝、いつものように列車から降り、彼女と歩く。
今日は何故か彼女がうつむき加減だ。
「どうかした?今日は体調悪いの?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」こうは答えるものの、その言葉は偽りだとたやすくわかる。
だが俺は決して無理には真相をに吐かせたくない。
二人沈黙のまま学校へ歩き続けた。
ふと彼女は思い詰めたように「……、〜君、聞いてくれる?」俺は少し驚きながらも「どうかした?俺が聞いて良いことなら何でも聞くよ」と返事をする。
こう言いながら、心優しい彼女の次の台詞は「ありがとう」から始まるものと先読みをすむ。
しかしこのときばかりは違った。
「…うち、昨日彼氏と別れたの…」この言葉で俺の感情はどういった方を向いたかはわからない。
実に色々な思いが一瞬にして頭をよぎる。
彼女を決して傷つけたくはない。
その一心から本能的に慰めの言葉は言っただろう、だが何と言ったかはまるで覚えていない。
今朝のことを考えていて、今日は、身体は授業に出ていても俺自信はそこにいないような感覚だ。
そのまま放課後、独り彼女の部活の終了を待つ。
「友達」として、彼女が部活仲間と一緒に帰るうちは姿を見せてはならないと彼女と決めていた。
彼女のいるすぐ隣の車両。
ここでも俺は今朝のことを考えている。
そして、突然震え出した携帯のおかげでふと我に返ると、すでに合流禁止区間を過ぎていた。
メールを開く。
「乗ってるよね〜?うちは8両目にいるよ!」
「部活お疲れっ!乗ってるよ!今そっちに行くから!!」彼女は、練習がキツくても部活が好きだと言っていた。
――車両を移れば、朝の表情に代わりすっかり元気な明るい彼女がそこにいる。
俺は一安心した。
「お疲れ〜」メールと口頭挨拶の計2回、いつも通り彼女に言う。
彼女の駅で降り、夜道に入る。
部活後の彼女はやっぱり微笑んでいる。
でもこのときの彼女からは何故か、何とも言えない虚しさを受けた。
俺は思い切って「…あのさ、朝、〜さんが言ってたことだけど…聞いても良いかな」彼女にはあだ名で呼ぶようにして欲しいと言われていたが、俺の場合,女子には例外無く「名字+さん」で呼び、口調には敬語を用いていた。
口調だけは彼女の言う通り、最初にタメ語に改めたが、呼び名だけはやはり、彼女にも「〜さん」だ。
だからこう呼ぶのはいつものことなのだが、今は「〜さん」の響きが自分でも無性に冷たく感じる。
気付けば俺の声は微かに震えを帯びていた。
それが空気を重くしてしまったのだろうか、彼女はちらと俺を見、前を向いて、小さなため息ともつかぬ吐息と共に下を向く。
先程までの笑顔は消えた。
…この日はやはりこれで別れることにし、彼女を家まで送った。
――次の朝、いつもの列車の席に彼女がいない。
心配になって授業中にメールを送ると、彼女は遅刻したのだという。
やはり、あの件をいきなり詳しく聞き出そうとした俺がいけなかったのだ。
その日は二人別々に下校した。
日頃感じることのなかった寂しい感覚が甦る。
そして、ついにあの、彼女からの衝撃的な台詞は、封印していた俺の情を解き放ってしまった。
――彼女がすっかり元気を取り戻した晩、やはり彼女の家の前まで送った。
「今日もありがとう。じゃあまたあし…」
「〜さん、待って」
「なに?」
「この間、彼氏と別れたと言ってたよね?そのポジション、俺で埋めることは出来ないかな」俺は一気に言った。
2回目の告白だ。
――想いは告げたかったが、その結果などは最初からどうでも良かったのかもしれない。
無理なことはわかっていた。
だが、彼女の返事は全く俺を驚かせた。
「…うん、うちは確かにこの間別れたって言ったけど…、今はまた…うち…付き合ってるの」今でもそうだが、この頃の俺には到底信じがたい現象だった。
別れたばかりの相手とすぐにまた付き合い始めた?それとも更に別の誰かが彼女を?これは今になってもわからない。
とにかく俺は「わかった。ごめん…」と訳もわからず謝るしかなかった。
――2回目の告白を機に、彼女と登下校を共にする回数も極端に減り、仕舞には0となった。
自然とメールもしなくなった。
学校で目が合ってもどちらかがすぐに逸らすという気不味い状況にまで陥った。
夏、久々に彼女のアドレスを呼び出し、メールで0:00に彼女の誕生日を祝ってみたが、夜が明けても、その翌日も返信はなかった。
後に彼女は携帯を変え、俺は一切連絡を取れなくなる。
――思えば彼女からは色々と刺激を受けた。
大義では恋愛についてやっと学ぶきっかけを与えてくれたのである。
そういう意味では感謝したい。
一方には、俺を昔のようにまた暗く,強いては軽い鬱的症状,不眠症や拒食症にまでに追い遣った。
だが、自分でもいい加減にしろと言いたくなるくらい、彼女に対して負のイメージを持つことなく,飽くまでも「理想の女性」なのだ。
連絡が取れなくなってから、よく彼女と共にいる夢を見た。
夢はいつも二人あの夜道を歩いている。
話しながら、笑いながら。
夢は必ず最後まで見る、つまり彼女の家の前で「じゃあね。また明日!」…これを言うまでだ。
そして俺は還る、虚しく哀しい現実に。
…「他人」である彼女には単に迷惑なことだろうが、俺はここでいつも独り涙していたのだ。
――特定の夢を見るようになってから、俺は自戒をするようになった。
「すべては彼女に恋愛の情を抱いたお前が悪いのだ。その結果、お前は最も大切な友人を失うことになったのだ。すべて貴様の所為だ」こう言ったことを常日頃自分に言い聞かせてる。
夢を見ることはなくなった。
さむい冬も自戒により大きな苦もなく越えられ、進級した。
1/6の確率でクラスが同じになるところだったが、それは免れた。
クラスも替わり、彼女の部活の者が少ないのも幸いだった…。
しかしながら、人の宿命など実に酷なものである。
神は、俺と彼女に、ただ一つ,書道の授業において時を共にせよと命じた。
同じ空間に存在するだけで俺は大罪に感ずると言うのに、どういう悪戯だろうか、気付けば席は隣同士なのだ…。
これで1年間を乗り切れと言うのが俺に与えられた罰なのだろう。
それならわかるが、彼女はそんな罰を受ける必要など無いはずだ。
……こうして俺は毎回罰を受けながら更なる罪を冒し続けている。
隣に座りながらも目も向けず沈黙を守り続ける二人。
二人の間に在り,周りの誰からも見えるであろう、分厚く極めて不自然な壁は、それを構成する素をを誰にも知られることなく、故に崩されることもまた、無い。
――傷つけたくないと思うものには決して手を触れ…

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